三月一日~三月一一日
ページをむしる。下半分が不完全にちぎれた。
また数ページ飛ぶ。一気に三月も終わりの終わりだ。
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三月一日(火)・ :晴れ《教室》
ツジくんは私を慰めてくれたけれど。
私はそれに素直に答えることができなかった。
そういえば、父が死んでから、まだ泣いていなかった。
私は、入学した時より段々と冷淡な人間になっているのかもしれない。そう言ったら、悲しすぎてまだ頭が追いついてないだけだよ、と優しく言ってくれました。
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またちぎる。
あと二ページしか残っていない。
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三月十日(木)・卒業式の予行演習:晴れ《体育館》
明日は卒業式だけど。
私は乾燥しているから、泣かない。涙なんかでない。いじめからは解放されるだろうから、喜びの涙くらいなら出してやっても良いが、それも難しいだろう。
クボくんの告白を断った私に嫉妬したイマナカさんだったけど、実は、三年生の夏休みくらいから付き合い始めている。
それなら別に、私をイジメること、その理由もないのではないかと思うのだけれど……
お前を見ていると腹が立つ
暗い
キモい
臭い
イジメるのに、理由なんていらないようだ。
どうせ明日は卒業式で、クボ&イマのバカップルにももう会うことはない。あと一日辛抱すればそれで
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そこが最後のページだった。
次のページは白紙。
だから、だから。
私は。
そこに、ペンを立てる。
今日の日付を書き、何が起こったのかも書いてゆく。
むしってちぎって持っておいたページが手のひらの汗で少し湿ってしまっていたけど、関係ない。あとは、書くだけだ。書いて張るだけだ。
火の手はもうすぐそこまで来ていたけれど、私は、火の手なんてそっちのけで文字を書き連ねていく。
ペンは白の海を泳ぎ、黒く汚していく。
さぁさぁ皆様お立合い、されど目は逸らしゃんせ、これは見世物ではありません、ただのお目汚しに御座い――
いつか図書館で読んだ小説の、道化の言葉が、口をついて出る。。
確認しなくてもわかる。
嗤っている。笑っている。己の全身全霊を賭して笑っている!
馬鹿みたいに! 楽しそうに! 三年間溜められてきたすべてを吐き出すがごとく!
狂ったような笑い声が遠くで聞こえた。
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三月一一日(金)・ソツギョウ式:火事《地獄》
朝方……いや、深夜? とにかく夜遅くに、だ。
たぶん四時くらいだったと思う。
ツジくんが我が家にやってきた。
こんな非常識な時間にごめん。電気ついてるのが見えたから……
申し訳なさそうに笑うツジくんを、私は部屋に上げた。彼が来るのはなんとなくわかっていた。こんな時間に来るとはさすがに思わなかったけど。
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