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焼け落ちた  作者: たしぎ はく
オリジナル
6/12

十月一八日~二月二日


 火がそろそろ階段を下りきろうかとしていた。

 階段を降りたら、ほんの数メートルで玄関だ。もうすぐここも火が覆う。

 でも、日記はあと数ページだ。終わりが近い。このまま最後まで読むことだって可能だ。


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  十月一八日(日)・文化祭:晴れ《学校》


 昨日に引き続き、今日も文化祭だ。

 どうせ私はシフトなんかに入ってないので、二日間ずっと暇だったが、ツジくんはそうもいかない。働きモノの彼は、昨日は一日中仕事でクラスに拘束されていたのだ。

 でも、今日は一緒に回る約束をしてくれた。


 私なんかを連れまわして、楽しいのかな。

 いじめられっ子なんかと仲良くしたら、ツジくんもいじめられちゃうよ。

 そう言ったとき、ツジくんは笑ってこう言ったのだ。

 「俺はニンキモノだから、大丈夫。それに、俺は好きでやってるんだぜ? お前と一緒にいることが、楽しくて楽しくてたまらない。家に帰ってからも楽しすぎて笑いが止まらなくてさぁ」

 はにかむ。

 私はもう、ツジくんがどんな人間でも依存しなくては生きていけない。たぶん好きになるっていうのはこんな感じの気持ちだと思う。

 ツジくんが来たから、いったん終わり。続きは家で

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 続きが書かれていたであろうページの下半分は、燃えて黒くなっていた。読めない。仕方ないので、飛ばして次のページへ。

 一月二二日、受験を控え、卒業間近の行く逃げる去るの、「行く」一月。


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  一月二二日(金)・   :雪《家》


 例年の三倍というあまりの大雪で交通機関は軒並みストップ。

 市内の中学校・小学校はほとんどが臨時休校となった。

 いじめられていたし、勉強と読書くらいしかすることがなかったから、志望校の偏差値はとうにオーバーしてるし、今日一日くらいはサボっても良いんじゃないかなと思う。

 勉強して、飽きたら読書して、疲れたら勉強して。

 することが二つしかなかったら、そりゃ勉強もはかどるわけだ

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 気付いたことがある。

 どうやら、どの日付も、日記の最後の文だけは「。」がつけられていないらしい。癖だったのだろうか。

 ともあれ次は二月の日付だ。

 そろそろ、日付が「昔」から「最近」に近づいてくる。


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  二月二日(火)・   :晴れ《家》


 父が死んだ。


 私が考えたのは、片親である家庭で、その片親が死んだら、そこの一人娘はいったいどうなるのかということだった。

 私には親戚が一人もいない。

 いや、母方の親戚ならいるかもしれないが、私が物心ついた時から、母についての記憶は皆無なのだ。

 取りあえず警察に相談して、お葬式もやるらしい。喪主、ってのがなんなのかはよくわからないけど。


 お父さんが死んだという事実を、うまく認識できなかった。

 テレビの中の世界を、ぼんやり覗き込んでいるみたい。

 死因は、校舎四階から落下した植木鉢が頭に落ちたことだった。

 公立受験前の、最後の三者面談に赴いた父の上に、植木鉢が降ったのだ。


 天気予報では、植木鉢が降るなんて言っていなかった。

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