七月八日~七月十日
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七月八日(火)・ :雨《図書館》
おもちゃの宝石はまだ見つからないらしい。
そもそも、おもちゃの宝石がなくなったところでなんなのだろう。そんなものは必要なのでしょうか。紛失したなら、持ってきた人にも責任があるはず。
というか、私は盗んでいない
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そういえばこんなこともあったかもしれないな、と、第三者の視点で回顧。そうだそうだ、おもちゃの宝石が紛失した事件があったはずだ。先生に言ったところで、怒られるのは持ってきたイマナカさんで、そもそも、中学二年生にもなっておもちゃの宝石なんぞを大事にしているなんて、なんと子供であったのか。
この事件は、いったいどういう形で終わったのだったか、記憶に靄がかかったようでよく思い出すことができない。
ゆえに、ページをめくる。幸い、ページは飛んでいない。結末まで抜けた項は無いようだ。
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七月九日(水)・ :雨《図書館》
図書館にいれば落ち着く。
最近、そう思えるようになった。
教室にいても無視されるか、話しかけてくる人がいても、ナニカアタラシイいじめヲオモイツイタトキダケ。
教室は音に満たされています。
ホームルームも、授業中も、休み時間も、ずっと。誰もしゃべっていなくても、授業中は衣擦れの音が、椅子を引く音が、鉛筆がノートを噛む音が消しゴムが漂白する音が筆箱のチャックが開く音が誰かが首や腰の関節を鳴らす音チョークが黒板を叩く音窓の外を吹く風の日光が地面を焼く体育のクラスの号令チャイムを鳴らす事前になるノイズ生徒が教師が学校で飼ってるウサギが
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
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飼ってる、ではなく飼っている、だ。
どうでも良いところが気になった。
所詮は日記なのだ。誰かに見せることなど、ハナから考慮していない、独りよがりの文字の羅列。
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七月十日(木)・ :くもり《図書館》
最近、よく本を読む。だから衝動とか、依然とか、薔薇とか蝋燭とか、難しい言葉も結構覚えた。
それは、一人で図書館に座ってぼーっとしていると、私だけしか世界に存在しないような気持ちになるからです。
そんなときは叫びたいという「衝動」に負けそうになるのですが、やっぱりあと一歩のところでやめます。
教室は依然としてうるさい
最近は、他人と話すことすらもメンドウクサク感じるようになってきた。
ああ、アリスにでもなりたい。不思議の国に逃げ込むのだ。
そこはきっと、ニンゲンがウルサクナイ
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漢字カタカナひらがなが入り混じる日記に、つ、と微苦笑がこぼれる。
あわてて頬を触るが、笑みの形はもう残っていなかった。懐古は、無表情を溶かすためには、少し足りないらしい。
玄関の上り框に腰を落ち着けて、日記帳をめくる。火はそれほど強くない、この日記を最後まで読む程度には悠々時間がある。




