ダイスキ式
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おおかた盗聴用のマイクでも握られていたのだろう。
それが、先ほどの衝撃でどこかへ飛んでしまった。
もう火が回りはじめているので、今更探すわけにもいかない。だから、とりあえず日記帳を拾い、ついでにペンもポケットに入れたのだ。
少し火にあぶられた日記帳を開いてみると、ボロボロになったページ多数で、数十枚もの紙が火にくべられた。
そして日記帳を読みながら玄関まで来て、私の罪の記録を、初恋のトゥルーエンドを、ここに記しているのです。
そろそろ火が回るので、この、誰に宛てたものかもわからない罪の独白をの、幕引きといたします。ご覧いただいた方は確実にいませんが、それでも最後に一言だけ。
ありがとうございました。
カーテンコールにゃ答えられません。
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あと、一言じゃないというツッコミにも対処しかねます、と呟いて、それからそれから。
日記帳を閉じて、ペンを置いた。
火の手は回っていた。
二階から壁伝いにやってきた火が、先回りして玄関を塞いでしまったのだ。
さっさと逃げれば良いのにそうしなかったのは、もしかしたら、こうなることを望んでだったのかもしれない。
とにかく、私はもう助からない。
だから開き直って、日記帳を胸に抱き、横になった。
火事による死因は、火に焼かれることよりも、一酸化炭素中毒のほうが圧倒的に多いらしい。
薄らぐ意識の中で、無理矢理に意識をそらし続けてきた可能性について考えてみた。
本当に、心の底から、ツジくんが私を愛していた可能性。
おもちゃの宝石を出して見せたのは、私に好意を抱かせるためではなく、私がいじめられていたのを見かねて、心の底からの好意だけで、勇気を振り絞っていじめに立ち向かってくれた可能性。
植木鉢が降ったあの日、実行犯はクボくんかイマナカさんのどちらかあるいは彼らだけで、実はツジくんが、彼らを止めようとしていた可能性。
部屋に来たとき、そもそもツジくんは盗聴器もマイクも持ってなくて、本当に私へのプレゼントを隠し持っていた可能性。
女の子の部屋にひとりきりにされたから、そわそわして落ち着かなかっただけという可能性。
それらすべてが事実である可能性。
その時二階の床が焼け落ちて、私の頭上に落下してきた。光が差して、もう夜が明けたことを知る。私の乾いた心が溶かされるようだった。朝日に溶けて、排水溝に流される黒の絵の具。汚れて何者にも染まらない。
床材と同時にホコリも舞い、そして、なにか硬いものが私の頭に落ちた。
銀色に光るリング。私の部屋に今までなかったもの。
それは。
火によってくすみ、少し溶けた、シルバーリングだった。血に濡れている。恐らく、ツジくんの血。
それがもしかしたら、おもちゃの宝石がついた指輪の見間違いだったのか、視界が霞む私にはわからなかった。
でも、そうであって欲しくなかった。
そうであってほしかった。
私にはわからないことが多すぎる。今のこの気持ちだって整理できないし、もうすぐ死ぬ私が、死んだあとどうなるかもわからない。だから、分かっていることを一つ口にして、幕引きにしたいと思う。
そう、人生の幕引きでございます。
「大好き、ツジくん」
焼け落ちた。
あとがき
こんばんは。たしぎです。PCがツンデレちゃんで、復旧に手間取っていたら、今深夜の一時半です。ちなみに今日(もう今日!)、宿題テストです。テスト勉強なんて知ったこっちゃ……おや、こんな時間に誰か来たようだ。
あと、これはいっておかなければなりませんが、実在する人物とは何ら関係ありませんあしからず。特にツジくんなんかは文芸部にもいますが、こちらのツジくんは、友人から早いものがちでアンケートを取った結果、決まったものであります。うちの母校、「辻」姓多かったしね。
今回のテーマは、「いじめは人間を狂わせる」ってことで。誰も幸せにならんのです。本来ならこの話は、ツジは本当に主人公が好きで、でも、主人公は狂っている。勘違いでツジを殺して、最後に自分も自殺するというバッドエンドだったのですが、それでも、可能性の話をしてみました。
あくまで可能性の話。そう、ツジくんが本当の黒幕だった可能性。主人公は周囲の人間をよく観察しています。だから、ツジくんの挙動不審にも気づいていました、と。
さあさあ皆々皆々様、今回のおはなし、果たして救いはあるのかはたまたないのか、真相は闇に葬ります。もしかしたらネット版は真相を言ったりするかもネ(←適当)例によって、発行から数日でネットにも投稿されてます。
☆
今回は、前回がバッドエンディング気味、場面もずっと暗くて、たしぎさんの小説じゃないなーなんて思ってたので、今回は思いっきり軽くてユルーイ小説書いてました。ヒロインの第一声が、
「しゃわしゃわしゃわじーわじーわカナカナカナみーんみんみんみんみじじじじじっリーンリーンリ――ン」
「いや待て。最後のはセミじゃないだろ」
「スズムシをイメージしてみました、まる」
すいっちょんすいっちょーん、自棄になったかのように鳴く我が幼馴染みの頭をはたく。
うるさいよ、しずかにしろ、と。
「なぜならここが図書館だからだ!」
「もーうるさいよー、静かにしなさい。他のおきゃくさまにめーわくでしょ」
「お前だよ!」
おれのツッコミに対し、えー、僕達以外にだれもいないんだしいーじゃーん、と、伸びた声が返る。
えー、結構良いところまで書いてましたが、このままプロットに沿っていけば八万文字超えるぞと。演繹法(※あとがき最後に説明あり)で好き勝手書いてたら結局シリアスに向かっていきやがったぞと。数多の事情により執筆を断念。で、次に書き始めたのが、
私立菅領女学院高等部。
日本で三本の指に入るくらいの、いわゆるお嬢様学校。生徒の九割が、父と兄弟など、親族以外の男という生物を知らない、生粋の箱入り娘が通う学校だ。通学資格は、家が年収数十億をこえていることなんだとか。
そんな学校が年に五人だけを募集、入学させる、「一般市民受験」。上流階級で生きていく上で、下々の人間との交流は大事とのことで、毎年、こういった募集がなされるのだ。今年も、例年通り倍率は五〇倍を優に超えた。本当に意味わからない。良く通ったな私。
今日から高校生だ。
今日から高校生だ。
それも、超お嬢様学校の、高校一年生なのだ。
いままでは面倒で面倒で仕方なかった登校が、前日から楽しみでならなかった。
管領の制服は、初等部から高等部まで、一貫してセーラー服だ。白の服に青の線が入った、大きな襟のついた上服に、白のプリーツスカート。上品さが損なわれないように、青で模様が入っている。
いまや絶滅危惧種で、もはやただのマニアアイテム、セーラー服は、家に届いたその日、嬉しさのあまり一日を着たままで過ごした。さすがに寝るときは脱いだけど。
セーラー服を着ることができる、ということは、大変凄いことである。いまや、どの学校もブレザーだ。
本物のセーラー服は、菅領に入学しないと袖を通すことすら難しい。入学が決まった日、帰りの校門で、二百万円でセーラー服を売ってくれと声をかけられた時にはつい心が動きそうになったが、十数の声はすべて断った。
えー、プロローグだけで一万文字突破しちまいました。てへ☆
というわけで第三案、今回の「焼け落ちた」。多分三千文字くらいで終わるだろー→一万文字突破。あっるぇー?
☆
あとがき長いですか? 長いですね。だってここのページ稼ぎ端折ったらページ数が合わないもの。
というわけで皆様、またお会いしましょう。
※帰納法……なにか書きたい場面を思いつく→なぜそうなったのかを考え、その理由を書いていく書き方
※演繹法……帰納法の逆で、最初から順を追って小説を書く書き方




