第4話:鏡の中の別人
第4話です。
外見は、簡単に変えられる。
だが――内面はどうか。
変わっていく主人公と、
それを見つめるもう一人の存在。
新たな出会いが、物語をさらに動かしていきます。
「目、開けて」
静かな声がした。
言われるがまま、ゆっくりと目を開ける。
――そこにいたのは、知らない男だった。
整えられた髪。
無駄のない輪郭。
計算された光の当たり方。
「……誰だよ」
思わずそう呟く。
「あなたですよ」
後ろから声がした。
振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。
黒髪。
無駄のない立ち姿。
どこか冷めた目。
「はじめまして」
淡々とした口調。
「今回、あなたの管理を任された」
“管理”。
その言葉が妙に引っかかる。
「……管理?」
「はい」
女性は俺を上から下まで一度見て、軽くうなずいた。
「外見は合格ラインですね」
さらっと言う。
「ただ――」
一歩、近づいてくる。
「中身はまだ、素人」
その言葉に、少しだけイラッとした。
「仕方ないだろ」
思わず返す。
「昨日まで国道で寝てたんだから」
その言葉に、女性は一瞬だけ目を細めた。
「それでも、です」
冷静な声。
「ここは“選ばれた人間”の場所です」
ピリッとした空気が走る。
「甘さは、すぐに見抜かれる」
その言葉は、静かだが鋭い。
「……あんた、何者なんだよ」
俺の問いに、女性は少しだけ考える素振りを見せて――
答えた。
「教育係」
短い一言。
「あなたを“使える人間”にするのが仕事です」
使える。
その言葉に、また引っかかる。
だが――反論できない。
ここはそういう場所だ。
「名前は?」
「……まだ必要ありません」
即答だった。
「あなたがちゃんと立てるようになったら、教えます」
試されてる。
まただ。
ここに来てから、ずっとそればかりだ。
「……じゃあ俺は?」
「呼び名ならあります」
女性は、少しだけ口元を緩めた。
「“候補者”」
その一言で、すべてが分かる。
まだ、途中。
まだ、選ばれきってはいない。
「鏡、見ましたか?」
急に話が変わる。
「ああ」
「どう思いました?」
一瞬、言葉に詰まる。
正直に言えば――
「別人だと思った」
女性は小さくうなずく。
「それでいい」
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
「違和感は、大事です」
そう言って、俺の胸のあたりを軽く指で叩く。
「そこが変わらない限り、ただの偽物で終わる」
ズキッとする言葉。
図星だった。
「ここでは」
女性はゆっくりと続ける。
「“本物”しか残れません」
静かな宣告。
逃げ場はない。
「まずは歩き方からやります」
くるりと背を向ける。
「ついてきてください」
その背中を見ながら、俺は一瞬だけ迷った。
だが――
すぐに歩き出す。
ここまで来たんだ。
今さら戻る気はない。
それに――
鏡に映っていた“あいつ”が、頭から離れない。
「あれが俺なら……」
小さく呟く。
「悪くない」
その言葉を聞いたのか、女性がわずかに振り返った。
「今の顔、いいですね」
ほんの少しだけ、柔らかい表情。
だが次の瞬間には、また元に戻っていた。
「ただし、続けてください」
淡々とした声。
その一言で、現実に引き戻される。
この世界は、甘くない。
だが――
だからこそ、面白い。
俺は一歩、踏み出した。
完全に、別の人生へと。
読んでいただきありがとうございます。
第4話では、新たな人物“教育係”が登場しました。
主人公の外見は整いましたが、
ここからは内面と覚悟が問われていきます。
そして、この世界のルールも少しずつ見えてきます。
次回は、さらに厳しい“選別”が始まります。
引き続きよろしくお願いします。




