表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

婚約破棄された公爵令嬢ですが、浮気した王太子と愛人を叩き潰し、隣国皇子に溺愛されて逆転しましたが何か?

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/28

「よって、エレノア・ヴァルディアとの婚約は――ここに破棄する!」

高らかに響いたその宣言に、場の空気は一瞬で凍りついた。

煌びやかな舞踏会。王都中の貴族が集うこの場で、王太子レイナードは、わざわざ私を断罪してみせた。

――滑稽ね。

「理由を、お聞きしても?」

静かに問うた私に、彼は鼻で笑った。

「貴様の冷酷さは周知の事実だ。加えて、聖女候補であるミリアに嫌がらせを繰り返した!」

「……へぇ」

ちらりと視線を向けると、彼の腕にしなだれかかる女――ミリア・セレストが、わざとらしく震えてみせる。

「エレノア様が……怖くて……っ」

――ああ、なるほど。

演技としては三流ね。

「証拠は?」

「証拠など不要だ! 彼女の涙が全てだ!」

その瞬間、会場の空気が微かに揺れた。

失笑だ。

だが、愚かな王太子はそれに気づかない。

むしろ、勝ち誇ったように続ける。

「それに――俺はもう、真実の愛を見つけた。ミリアこそが俺の伴侶だ!」

「まぁ」

ようやく私は、心から笑った。

「では、その“真実の愛”とやらの証拠を、お見せしましょうか?」

「何……?」

私はゆっくりと指を鳴らす。

すると、会場の扉が開き、数人の兵と共に、一人の男が連れてこられた。

「な、なんだこいつは!?」

「ご紹介しますわ。あなたの侍従、カイルです」

顔面蒼白の男は、震える声で言った。

「お、王太子殿下は……その……ミリア様と、密会を繰り返し……その、関係は……既に……」

「やめろ!!」

レイナードが怒鳴る。

だが、もう遅い。

私はさらに一枚の書状を掲げた。

「こちらは、二人が交わした愛の手紙。ついでに、王家の資金を横領して彼女に貢いだ証拠もありますわ」

ざわり、と場が揺れた。

「う、嘘よ!!」

ミリアが叫ぶ。

「こんなの捏造に決まってるわ!」

「そうかしら?」

私は微笑む。

「では、王妃陛下に鑑定していただきましょうか」

その一言で、全てが終わった。

レイナードは崩れ落ち、ミリアは取り乱して叫び続ける。

――愚かね。

「婚約破棄は受け入れますわ」

私は淡々と告げる。

「ですが、こちらからも条件を提示いたします」

静まり返る中、言葉を落とす。

「王太子レイナードの廃嫡。そして、ミリア・セレストの国外追放」

「なっ……!」

「当然でしょう? 王家の金を横領し、不貞を働いたのですから」

その場にいた誰もが、異論を挟めなかった。

――こうして、復讐は終わった。

そう思った、その時だった。

「――見事だな」

低く、愉しげな声が響く。

振り向くと、そこには一人の男。

黒髪に紅い瞳。異国の衣装を纏ったその男は、悠然と立っていた。

「初めまして、公爵令嬢エレノア。私は隣国アルヴェインの皇子、アシュレイだ」

「……これはご丁寧に」

軽く一礼する。

だが、彼の視線は妙に熱を帯びていた。

「君の復讐劇、実に愉快だった」

「趣味が悪いですわね」

「そうか? 私は好きだがな」

彼はくつりと笑う。

その笑みは、どこか危険だった。

「なぁ、エレノア」

一歩、距離を詰められる。

「君、行く場所はあるのか?」

「……さぁ?」

実際、婚約は破棄された。

だが、私は困らない。

困るはずがない。

「なら――」

彼は、私の手を取った。

「私の国に来い」

「……は?」

「君を、私の妃にする」

――唐突すぎる。

「お断りします」

即答した。

だが、彼は気にした様子もなく。

「安心しろ。君が望むなら、白い結婚でも構わん」

「……」

「ただし」

ぐっと手を引かれる。

「私の隣にいろ。それだけでいい」

その瞳は、異様なほど真剣だった。

――面倒な男に目をつけられた。

「……考える時間をいただけます?」

「ああ、好きなだけ考えろ」

そう言いながらも、彼は私の手を離さない。

「だが、逃げるなよ」

「逃げませんわ」

「ならいい」

満足げに笑う彼に、私は小さくため息をついた。

――復讐は終わったはずなのに。

どうしてか、厄介なことになりそうだった。

***

数ヶ月後。

私は、隣国アルヴェインにいた。

結局、あの皇子の提案を受けたのだ。

――合理的だったから。

そして今。

「エレノア」

背後から抱きしめられる。

「離れてください」

「嫌だ」

即答だった。

「仕事があります」

「後でいい」

「よくありません」

淡々と返すが、彼はびくともしない。

「なぁ、エレノア」

「何ですか」

「今日も美しいな」

「……どうも」

――毎日これだ。

冷酷と恐れられた私の人生は、どこへ行ったのか。

「愛している」

「軽いですね」

「本気だが?」

「なお悪いです」

ぴたりと黙る気配はない。

むしろ、抱きしめる力が強くなる。

「……はぁ」

私は小さく息を吐いた。

「好きにしてください」

「いいのか?」

「ただし、仕事の邪魔はしないでください」

「努力する」

――絶対しないわね。

だが、それでも。

ほんの少しだけ。

「……まぁ、悪くはありません」

そう呟いたのは、きっと彼には聞こえていない。

けれど。

「今、何か言ったか?」

「何も」

「そうか」

満足げに笑う彼に、私は肩をすくめた。

――復讐は終わった。

そして始まったのは。

少し騒がしくて、少し甘すぎる。

そんな、新しい日常だった。




◆ ◆ ◆ ◆




「エレノア!! 大変だ!!」

朝一番、執務室の扉が勢いよく開かれた。

――嫌な予感しかしない。

「……今度は何をやらかしましたの」

机から顔も上げずに問うと、アシュレイは満面の笑みで胸を張った。

「君のために城を増築した!」

「は?」

思わず顔を上げた。

「庭の奥にもう一つ、エレノア専用の宮殿を建てたぞ!」

「いりません」

即答。

「なぜだ!? 愛の結晶だぞ!?」

「物理的に結晶にしないでください」

しかも増築って。

予算どうした。

「安心しろ! 国庫ではなく私財だ!」

「それが一番問題です」

皇子の私財=ほぼ国家規模。

頭痛がしてきた。

***

「エレノア様……」

侍女のリリスが、半泣きで書類を抱えている。

「どうしましたの」

「殿下が“エレノア様を称える祝日”を制定しようとしております……!」

「却下です」

即答(二回目)。

「ですがもう草案が議会に……」

「燃やしなさい」

「はい!」

素直に燃やそうとするな。

いや待て、それはそれで問題だ。

「……いえ、正式に否決させます」

「かしこまりました……」

リリスが遠い目をした。

――ごめんなさいね、本当に。

***

「エレノア」

また来た。

今度は静かに入ってきたから余計に怖い。

「何ですか」

「今日は普通の話だ」

「それは珍しいですね」

「一緒に昼食をどうだ?」

「……普通ですね」

逆に警戒する。

「毒味は済ませたぞ」

「当たり前です」

「あと、料理人を十人増やした」

「なぜですか」

「君の好みを完全再現するためだ」

「一人で足ります」

「足りん」

即答された。

「君の“普通”は難易度が高すぎる」

「知りません」

むしろ何を作らせたのか怖い。

***

昼食会場。

――嫌な予感が的中した。

「……何ですの、これ」

テーブルいっぱいに並ぶ料理。

軽く三十種類はある。

「君の好きそうなものを集めた」

「誰が全部食べるんですか」

「君だ」

「無理です」

「じゃあ私が手伝う」

「そういう問題ではありません」

というか。

「なぜ全部ハート型なんですか」

「愛だ」

「料理人を呼びなさい」

説教案件である。

***

数日後。

「エレノア様!!」

またリリスが駆け込んできた。

「今度は何ですの」

「殿下が、エレノア様の銅像を城門前に……!」

「やめさせなさい」

即答(三回目)。

「しかも等身大ではなく三倍サイズで……!」

「なおさら却下です」

誰がそんな羞恥プレイを望むのか。

「既に完成間近とのことで……」

「今すぐ止めます」

私は立ち上がった。

――これは本気で阻止しないといけない。

***

城門前。

「どうだエレノア! 美しいだろう!」

誇らしげなアシュレイ。

その視線の先には――

無駄に神々しい私(石像・三倍サイズ)。

「壊しなさい」

「待て待て待て!!」

珍しく慌てた。

「なぜだ!? 国の象徴になるぞ!?」

「なりません」

「観光名所に――」

「なりません」

即答ラッシュである。

「くっ……ではせめて庭に……」

「却下です」

「部屋に……」

「却下です」

「私の寝室に……」

「それが一番ダメです」

***

結局、銅像は撤去された。

だが。

「エレノア……」

しょんぼりしている。

――面倒だ。

「……一つだけ、許可します」

「本当か!?」

一瞬で復活するな。

「小さな肖像画なら構いません」

「どのくらいだ?」

「手のひらサイズです」

「小さいな……」

「十分です」

「等身大は――」

「却下です」

食い気味で潰す。

***

その夜。

「エレノア」

また来た。

「今度は何ですか」

「肖像画ができた」

「早いですね」

嫌な予感しかしない。

差し出されたそれを見て――固まった。

「……なぜ動くんですの」

「魔導式だ」

小さな肖像画の中で、ミニサイズの私が優雅にお辞儀している。

「いりません」

「可愛いだろう?」

「やめてください、その評価」

「量産するか?」

「やめなさい」

「城中に飾るのは――」

「やめなさい」

***

「……はぁ」

深くため息をつく。

だが。

「エレノア」

「何ですか」

「今日も愛している」

「……軽いですね」

「本気だ」

――知っている。

それが一番厄介だ。

「……好きにしてください」

「いいのか!?」

「ただし」

じっと睨む。

「これ以上、変なものを増やさないこと」

「努力する」

「信用していません」

「ひどいな」

そう言いながらも、嬉しそうに笑う。

――本当に。

どうしてこうなったのか。

「……まぁ」

小さく呟く。

「退屈しないのは、認めます」

「今、何か言ったか?」

「何も」

「そうか」

満足げに頷くアシュレイに、私は肩をすくめた。

――復讐の果てに手に入れたのは。

冷酷でも静寂でもなく。

ただひたすら騒がしくて、どうしようもなく甘い。

そんな日常だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ