番外 雨音の島
用語あり
モビック...白鯨型の自律機械
ブラプター...爆撃機の総称
滝のような雨が降っていた。
散った花が地面を埋め尽くし、若葉が雨を弾く浮遊島。
端の方、森は途中で唐突に途切れ、断崖が霧がかった空と触れ合っている。
その縁、打ちつける翠雨を傘のように遮っている薄暗い森の木々の下、セトリは思う。
ー暇だぁ。
セトリとレイは雨が上がるのを待っていた 。レイのブラプターであるノーラのその特徴的な逆ガル翼の下で。
コックピットには計器が濡れるのを防ぐためか、シートが被せられている。レイは飛行服の上に外套を羽織り、そのノーラの主脚にもたれかかりながら、ランタンの揺れる灯火を頼りに本の頁を捲っていた。
セトリはまた思う。
はあ、ほんとに手持ち無沙汰だ。なんか起きないかな
そんなことを期待して森の方へ電波探信をかける。しかし跳ね返ってくる音には小鳥すら映っていなかった。
「レイー、退屈」
激しい雨の音に4割程かき消されて届く
レイは文字列から目線を外さずに応える。
「そ、がんばってね。セトリ」
えー反応薄っ
「そんな他人事なぁ」
「しょうがないよー。この雨だし、それに次の国までそこまで遠くないから急ぐ必要も無いしね」
雨のせいかレイの声は少しぼやけてきこえる。 ...いや別にいつもこんな感じかも
「レイはいいね、暇になったら本読んどきゃいいんだから。うちもなんか趣味見つけよっかな...」
「モビックにも趣味という概念があったんだ...」
「そだよ」
撤回しよっかな、モビックって戦闘補助以外にやることないんだよね
「例えば?」
すればよかった
「例えば...えっと、浮きながら切り返し4連スピンとか?」
「趣味なの、それ...」
沈黙。
激しさが和らいできた雨を背景に、木々の隙間を縫って抜けてきた雫がノーラの翼を叩いて音階を刻み、遅れてぱたん、ぱたんと打つ拍が混ざりあう。
「すごいね、規模こそは違うけど3つ前の国で聞いたオーケストラみたい。」
「よくそれ覚えてるね、感心」
「音楽は思い出を連れ戻してくれるんだよ。それに...」
レイの頁を捲る手が止まった。ランタンの灯火が揺れる。
「うん」
「モビックの記憶力は人間の比じゃないからね!」
「あー...うん、そうですね...」
レイは読んでいた本に栞を挟み、パタンと閉じた。はぁ、と息を吐き白く染まった。
そして立ち上がって、箱の上にあったレーションの缶を手に取り、「物は試しにね」と滴った雫が地面を穿っている場所に置いた。
水滴が缶に落ちる度にコンッという小気味よい音が鳴った。そしてそれは自然の演奏に取り込まれさらに壮大さを増していった。
「おー、なんかいい感じ。 もっと増やしてみたら?」
「やってみよう」
レイはさらに自分のコップやポットを置く。
最初さらさらと降り注ぐのみであった雨が、似て非なる様々な音によって彩られ、オーケストラにも劣らない大合奏となった。
「凄いよこれ、ここで待ってたら通りかかった人投げ銭してくれるんじゃない?」
「いや雨止んだら終わるし、そもそもこんなとこに来る人いないよ」
どれくらいだっただろうとセトリは思った。
雲の隙間から日が差し、七色の虹が姿を表す。雨は弱まり、大合奏は最終章を迎え静かに最初の旋律を奏でている。
「すごかったね、自然のオーケストラ」
「うん、そうだね...」
気づいた。虹を眺めるレイの目から涙が零れていたことに。
雨がやみ、演奏はついに閉幕した。
「レイ、いこっか」
セトリが声をかけるとレイははっして、涙を拭って答えた
「うん、いくか」
「楽器」を回収し、箱にしまってノーラの後部に載せる。エンジンが唸りを上げ、雨上がりの澄み切った空へ飛び立った。
「ねえ、レイー」
セトリがエンジンの爆音に負けない声で叫んだ。
「なーに?」
「さっきも言ったけど音楽っていいものでしょ?忘れたものを思い出させてくれる」
「そんなこと言ってたっけ?」
「話はちゃんと聞きましょうね」
「まぁけど、いいものだね」
エンジン音が鼓膜を揺らす。
それでも、あの響きが消えることはなかった。
国とか空中都市がーとかほざいておきながら第1作目番外編でごめんなさい




