表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つ葉のクローバーを贈られました  作者: 綾織 茅
小此木家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

6


「お待たせしました」


 部屋に戻ると、咲夜さんが私が机の上に置いていたクローバーの(しおり)を手に取って眺めていた。


「ありがとうございます」

「垣内さんが台所にいらっしゃって、はちみつレモンを作ってもらいました」

「そうですか」


 コトリと音を立て、咲夜さんの座る前にカップを置いた。

 しかし、咲夜さんはそれに口をつけようとせず、(しおり)に目を向けたままだ。


「それ、幼稚園の頃、仲が良かった子にもらったんです。引っ越す前に。もう名前も思い出せなくなっちゃいましたけど」

「……覚えて、ない?」


 大きな目をパチパチと瞬きさせ、次第に曇っていく表情。


 え!? なんでそんな(しか)られた子供みたいにシュンってなってるの?

 私!? 私のせいなの!?


「えっとぉ、その、か、顔は覚えてるんですよ? ただ、名前が思い出せないだけで」


 なんでこんな言い訳を咲夜さんにしているのかすら分からなくなってきたけど、とりあえず何かしら持ち直すようなことを言ってみる。


「圭さんは忘れてしまえるほどその子のことがどうでも良かったってことですか?」

「そんなことありませんよ! ……ただ、二十年以上も前のことだと、ほとんど覚えていないんです。それ以外でも朧気(おぼろげ)で、小さい子が遊んでるのを見て、あんなこともあったなぁって思いだすくらいで」

「ふぅん。そうですか。……じゃあ、今度は(・・・)何十年()っても忘れられないくらいたくさん思い出作りましょうね」

「え? あ、はぁ」


 先程までの表情とは一転、笑顔で咲夜さんが言うものだから、つい頷いてしまう。


 まぁ、あんまり重病とかの思い出は勘弁してほしいところがあるけど、こんなに(うれ)しそうにしてるんだからわざわざ水を差すような真似(まね)をするものなんだしなぁ。

 ……あ、もしかして、例の友達としてってことで言ってる?

 うーん。でも、もう(うなず)いちゃったし。たまに食事に行くくらいだったらいいっか。


「圭さんに許可ももらいましたし、なんだか眠くなってきました。もう部屋に戻りますね」

「あっ、ちょっと待ってください」


 確か、ロンドンで買った厚手のショールがあったはずだ。

 あっちだとまだ少し冬みたいに寒くて、つい買っちゃったんだよね。どこにしまったっけ?


 手荷物は最小限に収めていたので、残りはトランクケースの中か実家に送っている。


 ショールは実家に荷物を送った後で買ったものだから、トランクケースの中にあるはずなんだけど……あった!


「これ、羽織って行ってください。廊下も冷えますよ」

「……ありがとうございます」


 羽織の上からショールを羽織らせてあげると、咲夜さんは花が咲いたように笑みを浮かべた。


 花も恥じらうとは本来若い女の人の美しさを表す言葉らしいけど、咲夜さんは男の人なのに本当にその表現が似合ってるんだよなぁ。


 立ち上がった咲夜さんに合わせて私も立ち上がり、部屋の障子を開けた。ひんやりした空気が暖房で暖められた部屋に入ってくる。先程私がショールを探している間に飲み干していたはちみつレモンのおかげか、今度は咲夜さんも()き込むことはなかった。民間療法というか、昔からの知恵というのは馬鹿にできないなぁとこういう時に思う。


「それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい、圭さん。いい夢を」

「咲夜さんも」


 ニコリとお互い微笑(ほほえ)み合い、咲夜さんは隣の部屋の障子を開け……隣?


「え?」

「僕の部屋、ここなんです」

「うそ。昼間案内していただいた時は気づかなかった」

「不思議ですね。忘れちゃってたのでは?」


 スッと閉められる障子。その向こうに消えた咲夜さん。


“忘れちゃってたのでは?”


 その言葉が、あの(しおり)をくれた女の子への私の発言に対する意趣返しなんじゃないかと思ってしまったのは、布団に入り、眠りにつく間際だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ