3
高級料亭を思わせる美しい日本庭園を抜け、私達は木目の引き戸式の玄関から中に入った。
咲夜さんの案内の元、あらかた部屋を周り、だいたいの配置は覚えた。もともと覚えることに抵抗はないし、得意な方だから全く苦にならない。
でも、もし苦手だったら……この部屋数は到底覚えることはできなかったかもしれない。家の中だというのに迷子になれそうなくらいの量に、なんでこんなに必要なのかとつい思ってしまった。
「こちらがこれからこの屋敷に滞在する間の佐倉さんの部屋になります」
「ここが……」
部屋の障子を開けて中を覗いてみた。
手入れの行き届いた畳に、文机と座椅子、中央に少し大きめの机が置かれている。部屋の隅には取っ手の部分に華の意匠をこらされた桐箪笥がすでに用意されていた。入口とは逆側の窓を開けてみると、先程の池のあった庭園へと繋がっている。
……あれ?
この角度から見た景色を他でもどこかで……。
なんだか急にどこかで見たような感覚を覚えた。
もっとよく思い出そうと顎に手を当てて考え込んでいると、下から咲夜さんが覗き込んできた。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……なんでもないです」
気のせい、だよね?
どこか雰囲気の似た料亭の写真でも見たんだろう。
私は自分で自分をそう納得させた。
垣内さんが座敷にお茶を用意してくれているとのことなので、私も荷物の確認は後にして咲夜さんの後に続いた。
「咲夜様、佐倉先生。お待ちしておりましたぞ。さぁ、席について垣内特製の茶菓子を召し上がれ」
「えっ!? そのお菓子、垣内さんが作られたんですか!?」
机の上にあるのはどう見ても売り物としてお店に並べられているものに遜色ない。伝統的な和菓子、上生菓子というのだろうか、その菓子は全て花を形どられていた。とても技巧のいるモノだということくらいは門外漢でもさすがに分かる。
「えぇ。下手の横好きというやつですな。練習していくうちに咲夜様達に出しても問題ないくらいになりましたわ」
「これ、全っ然下手なんかじゃないですよ。むしろ器用すぎます」
「ほっほっほ。爺を褒めても何も出やしませんぞ」
「もう十分なもの出されてるじゃないですか!」
私が垣内さんが作ってくれたお菓子を褒めちぎっていると、横で何やらもそもそっと動いた。
見ると、咲夜さんが床の間の前で蹲って何かをしている。
さらに顔を伸ばして見てみると、床の間に飾られた生け花の角度をいろいろと変えていた。
「咲夜さん?」
「……もう二人だけの話は終わりましたか?」
「え? そんなつもりじゃなかったんですけど……すみません」
でも、確かに二人で盛り上がっちゃってたしなぁ。
一人除け者にされたみたいで面白くないよね。
悪いことしちゃったかも。
「ほっ。咲夜様もやはりまだまだ若いですなぁ」
垣内さんが私達のやり取りを聞いて、ニコニコと笑いながらお茶をすすっている。
そういえば、咲夜さんって何歳なんだろう? 実際若く見えるけど……。
たぶん、私よりも五個くらい下っぽいよなぁ。
「……垣内さん、うるさいよ」
「ほっほっほっ」
垣内さんは咲夜さんの恨みがましい視線をものともせず、好々爺然とした笑みでもって返した。
それには咲夜さんも毒気を抜かれたようで、肩を竦めて溜息をついただけだった。
「さぁさぁ。お茶が冷めてしまう前に召し上がれ」
「いただきます」
ほのかに鼻をくすぐる日本茶の匂い。
口をつけると、まろやかな甘味がふわりと広がった。
「……美味しい」
なんだかよく分からないけど、ホッとする。
そんな味だった。




