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四つ葉のクローバーを贈られました  作者: 綾織 茅
小此木家

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2


「お待たせしました」

「いえ、私の方こそすみません」

「謝るのは無しですよ。さ、餌やりしましょう」

「はい」


 餌が入った袋を小此木さんから受け取り、橋の上でしゃがみこんだ。

 袋を開けるためにガサガサと音を立てると、人が近づいてくると餌をもらえると理解しているのか、たくさんの(こい)がパクパクと口を開けて寄ってくる。

 本当に一匹たりとも同じ模様の(こい)がいないので、見ていてとても楽しい。


「ほぉら、餌だよー」


 餌を投げ入れたらすぐに餌争奪戦が始まった。

 まだ体の小さな(こい)はそれにすぐ負けてしまうので、なんだか可哀相(かわいそう)になってしまってついついその子がいる方へ投げてしまう。


「あ、食べた!」


 見事その(こい)が餌をゲットした時は思わず声が出てしまった。


 百六十センチはあっても、欧米人は背が高い人が多い。日本にいる間はそうでもなかったけど、渡英してから周りはイギリス人がほとんどだったから、背の小ささは割とコンプレックスだった。

 小さい頃は弟妹がいる環境に憧れていたし、基本的に小さなものが好きなんだとも思う。


「変わらないね」

「え?」


 (こい)達が元気に飛び跳ねる水音に紛れ、上から声が降ってきた。

 見上げると、ちょうど小此木さんの肩の位置に太陽が来ていて、完全に逆光になっている。

 (まぶ)しくて目を細めると、小此木さんの手が私の方に伸びてきた。


「……あんまりこちらを見ると、目を傷めますよ」

「あ、そう、ですね」


 すっと目蓋を覆われた手が温かい。


「小此木さんは餌あげなくていいんですか?」

「えぇ。幼い頃から見慣れているものですし。あまり与え過ぎるのも彼らの健康上良くないでしょう?」


 確かに。獣医学は専門外だからよく分からないけど、人間と同じように食事のとりすぎは良くないかも。


 もう餌やりは終わりだと(こい)達に言外に伝えるべく立ち上がった。


「餌、ありがとうございました。後で垣内さんに場所を聞いて直しておきますね?」

「私から言っておきますよ」

「大丈夫ですよ。これ以上小此木さんの手を煩わせるようなことできませんから」

「……私はそんなに頼りない?」

「え!? いや、そういうわけじゃ!」


 私はただ、雇用主の手を煩わせる使用人がいるかってことで。


 表情に陰りを(まと)わせ、僅かに目を伏せる小此木さん。白皙(はくせき)の美青年がする表情としては反則だ。


 ……分からないけど、なにか負けた気がする。


「それなら……すみませんが、お願いします」

「はい。じゃあ、中に入りましょうか。垣内さんが美味(おい)しいお茶を()れて待っていてくれてますよ」


 そういえば、裏から戻ってきたのは小此木さんだけだったっけ。

 一足先に垣内さんは中に入っていたんだ。しかも、同じ使用人の私にお茶の準備まで……本当に良い人だなぁ。


 小此木さんが手を引いてくれるのに合わせて私は橋から降りた。


「そういえば、さっき変わらないっておっしゃってませんでした?」

「……いや、(こい)達が餌に勢いよく寄ってくるものだから」

「なるほど。確かに、すごい勢いでしたね!」


 あぁ、(こい)達のことだったんだ。

 一瞬、実はどこかで知り合ってたのかと思った。

 それだと本当に失礼だし、良かった良かった。


 内心ほっとしている私を、小此木さんは口元に変わらぬ笑みを浮かべてジッと見つめてきた。


「そうそう。ここは小此木家ですので、使用人達以外は皆、姓は小此木です。ですので、私のことは咲夜と呼んでいただけますか?」

「そう、ですよね! 分かりました。では、咲夜様と」

「イヤです」

「はい?」


「お呼びしますね」と続く言葉よりも早く否を唱えられてしまった。


「で、でも、垣内さんは咲夜様って呼んでましたよね?」

「様づけで呼ばれるのは好きじゃないんです。ただ、垣内さんは私が生まれた頃から言い続けているので、今さら変えて欲しいと言うのは可哀相(かわいそう)でしょう? その点、佐倉さんは今日からだし」

「では、何とお呼びすれば?」

「咲夜、と」


 い、いやいやいやいや! 無理でしょ!

 どこの世界に雇い主を呼び捨てにする使用人がいるの!?

 お断りだ、断固お断りしなければ。


「すみません。さすがに呼び捨てはまずいので、咲夜さんとお呼びする方向でいかがですか?」

「……分かりました」


 すごく渋々って感じだけど、これでもお互いの妥協点良いところついたと思うんだけどなぁ。

 小此木さん……咲夜さんは見かけによらず意外と強情だ。


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