表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つ葉のクローバーを贈られました  作者: 綾織 茅
再会は偶然か必然か

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

1


 国際線ターミナルの入国ゲートは、旅行や出張など海外からの人達でごった返している。


 手荷物検査や入国審査、税関を通り、国際線到着ロビーへと買ったばかりのハイヒールの靴音を響かせながら進んだ。

 すると、当然だけど、目にするものや耳にするものの多くが日本語。

 医師国家試験に合格して、そのまま大学付属病院に研修医、専攻医として勤め、それらの期間が終了した後、今度は臨床研修医としてイギリスに渡航して丸々二年間帰国していなかったから、なんだか新鮮味を帯びている。


 バッグの中からスマホを取り出し、とある連絡先を探しあて、画面をトンとタッチした。


『はい』

「西森先生ですか? 佐倉です」

『おー! 圭くん、着いたか。悪いな、今日は迎えにいけなくて。急に会合が入ってしまってなぁ』

「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、この間の話ですが」

『うんうん、実はな、君がこれから専属医になる家の息子さんが迎えにいってくれているそうだ』

「えっ? ちょっ、話が……ここに、ですか?」

『まぁ、君の送別会の時の写真を渡してあるから大丈夫だろう。……すぐ行く! じゃあ、また何かあったら連絡してくれ』

「ちょっと待ってください、先生! まだちゃんと引き受けたわけじゃ……切れた」


 電話の向こうで呼ばれたらしい西森先生は私の静止を聞くことなく電話をきってしまった。

 そういえば、昔から人の話を聞かないって有名だったっけ。


 仕方なしにスマホをポケットに戻し、辺りを見渡してみる。


 送別会の時から変わってないから、相手は分かっても私は分からないし……弱ったなぁ。

 とりあえず、邪魔にならない所に避けていよう。


 最小限に(とど)めた荷物が入ったキャリーバッグを引き、比較的空いているコーナーへと足を向けた。


 ……よし。

 後はその息子って人が見つけてくれるのを待つだけなんだけど、大丈夫かなぁ? 本音を言えば、このまま新幹線に乗って実家に帰って、しばらく羽休めしたいところなんだけど。

 ……小腹も空いたし、あそこのコンビニでなにかお菓子でも買ってこようかな。


 壁にもたれていた身体を起こし、肩からずり落ちかけていたバッグを持ち直した時、なにやら向こう側がにわかにざわめきだした。


 あー、成田でおなじみ、有名人が帰国した、とか?

 でも、最近の有名人は分からないしなぁ。

 今、私が見つけたいのはよく知らない息子さんとやらで、有名人じゃないし。


 そうは思っても、やはり自分が知っている有名人だったらちょっと(うれ)しい。

 コンビニに入る前に、ほんの少しだけそちらの方を見てみた。

 見るからに仕立てが良い和服姿の人の良さげな青年が、たくさんの外国人観光客に囲まれている。


 なるほどね。

 確かに和服を生で初めて見ると、日本旅行に来た外国人としては写真とか撮りたがるかも。


 実際、イギリス人の友人が開いたパーティーなどで、和服で出席してほしいと頼まれたこともある。

 その後しばらくの間、休日のたびに和服を着てみたいと友人達がアパートメントに押しかけてくるほど魅力的に映るものらしい。


 騒ぎの原因が分かって、開いた自動ドアを通って中に入ろうとした時、今度は誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 先程と同じ方角、あの和服青年と外国人観光客達の姿があった方からだ。


〈誰か彼を助けて!〉


 女性の英語での悲鳴がロビーに響き渡った。


 助けてって……急病人!?


 職業柄か、すぐに身体が反応し、人混みへ駆け寄った。


「すみません! 私、医者です! 急病人ですか?」

「あぁ、良かった! この方です!」


 ついさっきまで空港の案内カウンターに座っていた女性が指す方を見ると、(うずくま)っていたのはあの和服を着た青年だった。

 顔色は青白く、呼吸をするたびにヒューヒューと息を鳴らしている。


「念のため、救急車の要請を」

「はい!」

「荷物、触りますよ? 喘息(ぜんそく)患者ならどこかしらに……あった!」


 青年が持っていた巾着袋の中に、財布や携帯と一緒に入っていた小さな細長い容器。

 正直、これがないとどうしようかと思うところだったけど、あって良かった。


「吸入薬です。いつも吸ってると思いますが、吸えますか?」

「……」


 青年は目を(つむ)ったままコクコクと(うなず)いた。

 少しでも吸いやすいように青年の身体を寄りかからせ、吸入薬のボンベを振る。そのまま青年の口元に持っていき、ボンベの底を押した。シュッと音がして、中の薬剤が噴射されたことが分かる。それから一分後、もう一回ボンベの底を押し、青年の様子を(うかが)った。


 しばらくすると、息をする時に音が鳴る喘鳴(ぜんめい)も一時よりは収まってきて、とりあえずは安定している。青年の手をとり、脈も診てみた。


 ……まだ早いけど、ステロイドはなしで大丈夫。

 ただ、ちょっと脈が飛んでる気がするから、念のために病院には行ってもらって、そこでもう一度診察してもらえれば一安心ってところかな。


「えっと、本当ならうがいをして欲しいところなんですけど……ちょっと待っててください」


 近くの自販機で水を買って、青年の元に戻った。

 キャップを開けて青年に渡し、後ろから様子を(うかが)っていた空港係員に紙とペンを持ってきてもらうようお願いした。


「ゆっくりでいいので、口をゆすぐようにしてから()み込んでください」

「……ありがとう、ございました」

「いいえ」


 よしよし。か細いながらも声を出せてる。

 でも、まさか、空港内で診療行為するなんて……ドラマじゃ見かけるけど、実際にするなんて思いもよらなかったなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ