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「そうそう、圭さんにちょっとお願いしたいことがあるんです」
「え? なんですか?」
「私の着替え、手伝ってくれませんか?」
「……え?」
よく分からないまま手を引っ張られ、ズルズルと隣の部屋へ連れ込まれた。
「すみません。今日は京都にいる祖父のところにそのまま挨拶に行くので下手な恰好をしていけなくて」
「いえ、これくらいなら全然構いませんよ」
びっくりした。一から着替えを手伝って欲しいと言われてるのかと思いきや、帯締めの手伝いだけだった。
普段はそれなりに留めているらしいけど、今日はご当主に会う日。それ相応の準備が必要とされるらしい。
家族でも緊張するなんて、私、大丈夫かな。
前で形を作って締めるところまではやってもらって、後は形が崩れないようにグルッと帯を半周回す。そうすると、貝の口と呼ばれる帯の結び方が完成する……そうなんだけど。
「あ、あれ? すみません、きつく締まってるみたいで、もう少し緩めたりできませんか?」
「あまり緩めると崩れてしまうのでこれ以上は難しいです。もう少し私の身体に手を回してもらえると動きやすいかもしれません」
「本当ですか?」
でも、それだと咲夜さんの身体に密着することになるんだよなぁ。
……治療の一環だと思えばいける! 入院患者をベッドから起こす時の補助と同じ!
看護師さんがほとんどやってくれてたから、私あんまりやったことないけど!
「……じゃあ、ちょっと失礼しますね。……うんしょ、っと。できた! できましたよ!」
「そうですね。おかしなところはなさそうですか?」
「はい。見た感じ大丈夫だと思います」
咲夜さんの周りをぐるっと回ってみたけど、どこも型崩れしていないし、綺麗だと思う。
これが完璧な形ですって見せられたわけじゃないからなんとも言えないものがあるけど。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。お役に立てて良かったです」
これくらいで大丈夫なお手伝いなら全然問題ない。
「咲夜様、失礼いたします。おや、佐倉先生もこちらでしたか。ちょうど良かった。お食事の用意が整いましたので、座敷までお越しください」
少しだけ開けていた障子の隙間から垣内さんがひょっこり顔を覗かせた。
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。先に行ってお待ちしておりますぞ」
「私達も行きましょうか」
「はい。お腹空きましたもんね」
そう言うと、咲夜さんはクスッと笑った。
いやいや、朝食をとるのは大事なことだからね?
空腹は人を凶暴にさせるんだから。
一言物申してやろうと口を開くと、人差し指でぷにっと唇を押さえられた。
「な、なっ!」
「朝食は大事、ですよね? 早く行きましょう。せっかくの温かいご飯が冷めてしまいます」
うあぁーっ! うん! 犬か猫の手が当たったと思おう!
咲夜さん、そんな思わせぶりな態度とってていつか背後から刺されるなんてこと、やめてくださいね!
そんな傷の治療はごめんです。




