戦争のあとしまつ
新西暦2025年、12月25日。
神聖な日に、一人の兵士が遺書を書いていた。
『お父様、お母様。もうすぐそちらへ向かいます。
馬鹿な息子で申し訳ありませんでした―――』
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戦争の始まりは、新西暦2015年の3月8日に遡る。
西の大陸の1割を占める国家、ガラマ共和国が軍事演習と言う名で周辺国の均衡を崩し始めていた。
それを見かねた東の大陸にあるガンツァール国が経済制裁を科した。
―――ガラマ共和国の上の人間はこれに激怒。宣戦布告をし、様々な国を巻き込んで『世界大戦』になっていった。
10年に及ぶ戦争は泥沼化し、『生物兵器』の大量投入で世界は混沌としていた。
▫▫▫
―――ガラマ共和国の軍部棟にある、1つの部屋にて。
(……朝、か)
陸軍中将のモンドイは長椅子で目を覚ます。
近くにある机の上には、寝る前に書いていた軍事の指示書が散乱している。
「まったく、頭が痛いな」
指示書を整理しながら、モンドイはそう呟く。
この戦争は、ガラマ共和国側が圧倒的不利になっている。
生物兵器の乱用で、兵士はおろか国民まで巻き込み、士気はだだ下がりである。
その時だ、扉を叩く音がする。
『中将、少しよろしいでしょうか』
この声は通信部の中尉、アンダだ。
「ああ、入れ」
そう言うと、ワンテンポ挟んで扉が開く。
「……すいません、中将。お話したいことが」
「どうしたんだ、アンダ」
アンダはモンドイの側まで素早く行き、耳打ちをする。
「最後の同盟国であった、ボーロル共和国が連合国相手に降伏文書を署名したと聞きました。もう持たないかと……」
「それは大統領の耳に入っているのか」
「まだ、です。ボーロルの軍部から傍受で聞いた事なので。……でも、大統領の耳に入るのも時間の問題です」
モンドイは眼を瞑り、頭を抱える。
戦力が他の同盟国より劣るボーロル共和国は、寧ろここまでよく耐えたと思う。
最後の砦が無くなった、そうとも言える。
「正式に降伏を宣言したら、私から大統領に負けを認めるよう話をしておく」
「は……は、い」
▫▫▫
その日の翌日、ボーロル共和国は正式に降伏を宣言する。
携帯ラジオでその事を聞いたモンドイは、大統領の所へ向かった。
その途中、側近のアマリが居たので
「失礼、大統領に話があります」
と話す。
「モンドイ中将、もしかして―――」
アマリの言葉に、モンドイは静かに頷く。
「……そう、そうよね。分かりました」
アマリは部屋まで同行し、扉を叩く。
「モンドイ中将です。お話があると」
しかし、その言葉に反応が無い。
「おかしい、わね」
「ああ」
アマリはドアノブに手をかけて開けようとするも、鍵が掛かっている。
異変を察知し、アマリは合鍵でドアを開ける。
「失礼します」
アマリがそう言いながら、中へ入っていく。
モンドイも後に入ると、血生臭さが鼻についた。
「……ッ!」
アマリが机の裏に行った途端、驚いて口を両手で塞ぐ。
「何があった」
―――モンドイが目にしたのは、自らの手で命を絶った大統領の姿だった。
▫▫▫
この戦争は、ガラマ共和国の大統領が自らの手で命を絶った為に、モンドイが代わりに降伏文書に署名をした。
降伏は新西暦2025年3月8日、奇しくも軍事演習を始めた日だった。
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その後、ガラマ共和国とその同盟国は軍事裁判にかけられた。
―――続々と裁判が終わる中、ガラマ共和国の極級戦犯の主犯格はモンドイが自ら名乗り上げた。
「本当に、これで良かったのですか」
裁判に向かう前、部下の一人だったルイが言う。
「大統領が居ない中、そうするしかない。実際、戦争を押し切ったのは俺自身だ……」
「でも!全部お一人で……ッ!」
更に言おうとするルイに、モンドイは止める。
「戦争は、誰かが犠牲にしないと終わらん。それは重々承知だろ?」
「……ッ」
その言葉に、ルイは何も言えずに涙を流す。
「こんな上司で悪かったな、ルイ。お前はせめて、生きながら悔いを改めてくれ」
そう言い、モンドイはルイの肩を叩いた。
主文、極級戦犯のモンドイには、死刑を言い渡す―――……
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新西暦2025年12月25日。
遺書を書き終えたモンドイは処刑の場へと向かい、世界大戦はこれで完全に幕は閉じたという。




