実のない手紙
“窓の外に立つ銀木犀が、独りの僕に問います。御前が蝕んだ傷ではないかと。僕に映る光はそこにしか在りようがないと思うものですから、問い返すのです。傷だと言うならなら縫わせてくれと。あの時の弄玩の痕を覆うのはとても苦しいことですが、触れることが叶うならば、例え赤く身体が燃え果てようとも受け入れることが出来るでしょう。しかし、問えば問う程、銀木犀は風に揺られるばかりのように思われるのです。私に残る芳香は何時のものとなるでしょうか。是非、白樺が落ちる前に。”
伯母の家の留守を預かる昼間、1通の手紙を目にした。
黒鉛の光沢さえ分かる文頭に対し、末尾は掠れ辛うじて読める程だった。奇遇にも今日は強い雨の日だったから、届くまでに水に浸かってしまったのだろうか、と思うなどした。
捨てようとも考えたが、私をただ不機嫌にさせるのも分かっていたので、手を付けることが出来なかった。すると、真白な花々に惑う人達が、手紙の前の私をじっと眺めるような気がした。
ふと、あるきょうだいのことが浮かんだ。深い淵の上に隠微を嘆いたきょうだいのことを。彼らの青い血が海を流れて……この信頼を染め上げるようなら、果たしてどんな顔をするだろう。
否、それは起こり得ない。仮にされようとも、その地に根付く銀木犀を毟り取るなど、机上にも及ばないのだ。
私は筆を取り、重しの代わりの木枝を除けた。
“癒えない傷も、いつか癒えんことを。”




