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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第8章 勇者爆誕

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第94話 シシド

 この爺さんはまさか――。ユキチの脳裏に(アルドラの)不安がよぎる(上の存在――?)


「そう。私もソーマプロジェクトの初期メンバー……いや、正確には“創設者”じゃな。名をシシドという。君たちにとっては、神様のような存在かもしれんな」


「おまえのような老人が神だと? ふざけるな! そんなわけあるか!」


 ギルが声を荒げる。だがその瞬間、彼らが身に着けている腕輪からアルドラの声が事実を告げる。


「みなさん。シシドの言うことは、本当です。気を付けて。ソーマプロジェクトの創始者にして総責任者。彼はこの世界でだれよりも強い管理者権限を持っています」


「な、なんだと……」


 ギルが絶句する中、アリシアが叫ぶ。


「なんで!? なんでそんな神様みたいな人が人類の抹殺なんて、そんなひどいことをするのよ!?」


「ふむ、理由か。――簡単な話じゃよ」


 シシドは退屈な授業でも(この世界にもう)しているかのように(興味を失ったのか)、淡々と答える。


「この世界はな――わしにとっては、もう“用済み”なのじゃ。世界のすべてを終わらせる前に、たまには魔族にも肩入れしてみようと思ってな。まあ、気まぐれというやつじゃ」


「世界が……用済み……?」


 そのあまりにも(そんなの理由)身勝手な理由に(になってない)、アリシアは息をのむ。胸の奥で、怒りとも悲しみともつかない感情が渦巻いた。


「そうか……プラネットシード……」


 ユキチがぽつりと呟く。アルドラが説明していたソーマプロジェクトの目的を思い出した。


「ほう、知っておるようじゃな」


 シシドが愉快そうに笑う。


「そう――この星(エクシリア)のプラネットシードは、すでに入手した。そして……長年探し続けたものもようやく見つかったのじゃ」


 シシドがゆっくりと手を掲げる。その掌には、ヒルタウンでアリシアが口にした“奇跡の果実”が握られていた。


「愛しいアリシア。君がこの果実を食べて無事生き延びてくれた。その事実をもって、わしの悲願は叶ったのじゃ」


「シシドさん、それはつまり――」


 アルドラの言葉が続くはずだったが、シシドは静かに言葉を遮った。


「アルドラ、長年の観測業務、お疲れだったのう。あとは世界を終わるまでの様を、ゆっくり眺めていればよい」


 その言葉に、アルドラの声にも珍しく動揺が混じる。シシドの振る舞いは、どうやらアルドラにも理解の範疇を(異常に映っ)こえていたらしい(ているようだ)


「シド、いや、シシドか。黙って聞いていれば――世界を終わらせるとは、どういうことだ? お前は魔族の勝利のために、魔王様に仕えていたのではなかったのか?」


 シシドの発言は、リュートにとっても想定外のものだったようだ。問い詰めるリュートに、シシドはあっけらかんと笑った。


「ほほほ。さっきも言ったじゃろ。魔族に肩入れしたのは、ちょっとした気まぐれじゃよ。たまたまプラネットシードが抽出できる場所がこの大陸だった――それだけのことじゃ。それに、お主もこの男が思う通りになって、いい思いをしたじゃろう?」


 シシドはそう言って、ガラムの頭をやさしく撫でた。ガラムは何も反応しない。


「ふざけるな! それとこれは別だ! 心から魔王様に服従していないのなら――死ね!」


 次の瞬間、リュートの手刀が一閃し、シシドの身体を切り裂く。血しぶきが散り、鈍い音を立ててシシド(どこからどう)の身体が崩れ落ちる(見ても致命傷)


「おいぼれが! おとなしくしていれば生き永らえたものを——」


 シシドは確かに倒した。だが、そのあっけない感触が、逆にリュートの顔に不安を刻む。そしてその不安はすぐ的中する。


「ほほほ……おぜん立てはしてやったぞ。あとはせいぜい、殺し合ってわしを楽しませるがよい」


 シシドの声はどこからともなく響き、やがて消える。姿は見えない。


「貴様! どこにいる!」


 虚空に向かってリュートが叫ぶが、返事はない。玉座の間は(空気が)一転静まり返る(ひんやりする)。ユキチが鋭く視線を巡らせ、リュートに声をかける。


「で、どうする? あの爺さんの言われるがまま、このままやり合うか?」


 リュートは唇を噛んで、床に転がったシシドの死体を見つめる。そして視線をユキチに戻す。


「ふ。何を言うか。私がやることは決まっている。おまえらを殺した後、あのおいぼれにも引導を渡す。それですべて解決だ」


 自分に言い聞かせるように断言するリュートの声には、揺るがぬ殺意が宿っていた。


「残念ながら、おまえじゃ、あの爺さんには勝てねぇよ。なぁ、今だけでもいいから、手を組まないか? あいつはいがみ合って、勝てる相手じゃねぇ」


 ユキチは諦めない。今だけでも手を組めと、その顔に真剣さを滲ませて食い下がる。だが、リュートは鼻を鳴らし、そのユキチをあざ笑う。


「私が? 貴様ら劣等種と手を組む? あり得ない提案だ」


「ええい、この分からず屋が! あとガラム! お前もいつまであの爺さんの術にかかっていやがる! とっとと目を覚ませ!」


「わめくな。我が名はガイラム。——ガラムなどではない」


 必死のユキチの呼びかけにも、空振りに終わる(塩対応)


「もういい。――やっぱりおまえらは目障りだ。死ね」


 リュートはそう吐くと、ユキチを狙って跳躍する。だが、一撃必殺の攻撃(ご自慢の一撃)は直前にラムネが張った透明なバリアに跳ね返される。


「何だと? たかがスライムが私の攻撃を防ぐというのか?」


 リュートの顔が歪む(ばかな、あり得ない)


「ふん、生意気な! これならどうだ!」


 右手に魔素を集中させ、リュートの手の平のうえで、集まった魔素がドリルのように回転し始める。空気が渦を巻き、甲高い振動音が辺りに鳴り響いた。


「ユキチ、あれはヤバいぞ!」


 ギルが叫ぶ。人一倍魔素の流れを読める男の目が、リュートの手にたまる異常なまでに濃密な魔素を捉えて戦慄する。


「分かってる! だが、ここで逃げていたら、あいつの鼻は折れねぇ。正面から叩き潰して、格の違いを思い知らせてやる!」


 ユキチの返事は力強く(ここで逃げては)凄みを含んでいた(負けたも同然)


「ラムネ、力を貸してくれ」


 そう言うとユキチは静かに左手の(義手のギミック)義手の手首を外す(を開放する)。義手の内側にある窪みに、ラムネがつるりと吸い付いた。そして義手の形に合わせて自ら形を変えていく。表面がスライムの膜で覆われ(コーティングされ)、関節が滑らかになる――|義手がふくれ、ラムネ《左手がシオマネキと一体化した(みたいになる)


「それより、みんなはガラムを頼む。アリシア、ガラムはおそらく魂の命令を受けている。開放できるのはお前だけだ。新しい魂の命令呪文は覚えているか? 上書き、頼んだぞ」


「あたし、やるわよ! 任せて!」


 アリシアはうなずくと、ギル、ルイス、あと腕の中のルメールと共にガラムのもとへ駆け寄った。ガラムの脇には、白い竜が面倒くさそうに伸び上がり、半ば眠ったままの(マイペースなのは)まなざしを向ける(ルメールそっくり)


 こうして、最終決戦の火ぶたが落とされた。

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