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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第7章 サミット開催

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第88話 決戦前夜

「話はまとまったかな?」


 ドタバタ劇をじっと眺めていたハセガワが、ようやく口を開いた。その声には、優しさと好奇心が半分ずつ混ざっている。


「ああ、待たせてしまったな。もう大丈夫だ」


 ユキチが落ち着いた様子で答える。隣のルイスはまだ顔を真っ赤にしており、視線を合わせようとしない。さっきまでの激情が夢だったかのように、沈黙が訪れる。


「よし。じゃあ、これからの話をしよう」


 ハセガワは手を組み、机の上に身を乗り出した。


「まず、魔族大陸への行き方だが、何か心当たりはあるかな?」


 一瞬で空気が引き締まる。アリシアも、ルイスも、ギルも顔を見合わせるが、答えは出ない。


「正直ないな」


 とギル。


「そもそもどこにあるかもよくわかってない。おれの地図にもそんな大陸、載ってないんだ」


 ユキチも白地図を(白地図の南の部分は)|開きながら首をかしげる《ただの空白》。ユキチはため息をつきながら首を振った。


「こんなんじゃどうしようもないな。情報がなきゃ、地図のスキルも使えねぇ」


 他のメンバーも同様に首を横に振る。旅慣れた一行(いつもなら)にしては珍しく(何とかなるのに)誰も打開策を(今回はノー)出せなかった(アイディア)


「そうか……しょうがない。おれが少し手助けをしてあげよう」


 そう言って、ハセガワがユキチに近づく。


「ただし、これは特例だからね。おれは基本、傍観者でいたいんだ」


「特例、ね。――おれたちはあくまでも観測対象なんだな」


「まあ、そういうことだ」


 ハセガワは嫌味をいうユキチに軽く笑ってみせると、


「ユキチ、その地図を貸してくれ。――エグゼクト」


 当然のように管理者魔法を唱える。詠唱の言葉と同時に、ハセガワの目の前に黒い画面が開く。ハセガワは黒いウィンドウに指を滑らせ、何かを打ち込みながら時折笑みを浮かべる(なんだか楽しそう)。折角の機会なので、ユキチが画面を横からのぞく。


 ハセガワは伊達に3000年も生きていない。管理者としての技量は、ユキチより一枚も二枚も上のようだ。知らない(こんなの)コマンドが並び(教えてくれなかったぞ)、ユキチは一生懸命それを覚えようと画面を見つめる。


「よし。これでオッケー。魔族がいるジェネス大陸を、地図に表示できるようにしたぞ」


 ハセガワはウィンドウを閉じながら続ける。時間にすると数分。ユキチにとっては数時間にも感じる密度の情報量。気が付くとユキチは(呼吸するのを)額に汗をかいていた(忘れていたくらいだ)

 

「ついでに一か所だけ、ワープポイントを追加しておいた。これで、いつものように魔族大陸に行けるってわけだ」


「すごい。そんな簡単に……」


 アリシアが呆れたように目を丸くする。


「ただし気をつけろよ。向こうがどうなっているかは、おれにもわからん。行ってみてのお楽しみってわけさ」


 ハセガワの言葉に、みんなの表情が引き締まる。


「ありがとう、ハセガワ。準備ができたら行ってくるよ」


 ユキチが右手を差し出す。


「おう、気をつけてな。おれはここでみんなの活躍を見守らせてもらうよ」


 ハセガワがその手を握り返す。そしてユキチの手元の地図には、下の枠全体に見慣れぬ大地が広がっていた。べったりと、まるで地図の限界を押し広げるように描かれた新しい大陸。その名は――ジェネス。


「……なんか随分横長ね」


 アリシアが地図を覗きながらコメントする。


「これは地図の表現の限界だよ。アリシアも月から見たろ? この大地は球体だから、長方形の地図に落とし込もうとすると、一番上と一番下の部分はすごい広がっちゃうんだ」


 ユキチが地図の特性(仕組み)を解説する。


「そういうこと。つまり、地図で見るほどは大きくないというわけだ」


 ギルが分かりやすくまとめる。


「そうなの。それなら、ガラムを探すのも簡単かもしれないわね。――ところで、魔族領っておいしいものあるのかしら。今から楽しみ」


「おまえは食い物のことしか頭ないのかよ」


 ユキチが呆れたように言うが、口元は少し緩んでいた(それでこそアリシア)


「それよりガラムの話だと、すごい寒いらしいぞ。あったかい格好しとかねぇと、速攻で凍るぞ」


「そんなの、ユキチの管理者魔法で何とかならないの?」


 アリシアが、さも当たり前のように(管理者ってなんでも)首をかしげる(できるんでしょ?)


「無理言うなよ。おれのMPを知ってるだろ?」


 ユキチは情けなさそうにため息をつく。


「えぇ、じゃあさ――」


 アリシアはぱっと手を打つ。


「ユキチが作った魔法を、あたしが実行すればいいんじゃない? あたし、MPたくさんあるから代わりに撃てるかもよ」


 ユキチは目を瞬かせた。


「……そうか。なんで気づかなかったんだろ――みんな、ちょっと時間をくれないか」


 その声に、アリシアは少し驚いた顔をし、それからふっと微笑む。


「もちろんよ。何をするつもりなの?」


「ただの思い付きなんだけど、アリシアのバカみたいに大量のMPがあれば――色んなことができるかもしれない」


 その真剣な眼差しに(ユキチはやる気だ)、ギルがうなずく。


「もちろんだ。あのリュートが出てくることを考えると、準備は万端にしておくに越したことはないからな」


 ルイスも腕を組んで笑った。


「そうね。次はリュートに後れを取るわけにはいかないし」


「じゃぁ、おれたちはその間に旅の準備を進めておくよ」


 ギルが立ち上がりながら言う。


「ところで、飯はどうする? 一緒に行く余裕はあるか?」


「悪い、今は少しだけ集中したい」


 ユキチは頷きながらも早速黒い画面を開いて、何かを打ち込んでいる。


「わかった。じゃ、あとで何か差し入れ買ってくるよ」


 ギルが笑顔で快諾する。ユキチが軽く手を振り、ギル達は部屋を出ていく。アリシアは振り返ってユキチに一言残した。


「無理はしないでよ。決戦は明日なんだからね」


「おうよ」


 軽口を叩きながらも、ユキチの目には光が宿っていた。扉が閉まると、部屋には静寂が戻る。ランタンの明かりが揺れ、壁に映る影がかすかに震える。ユキチは左手――リュートに切り落とされたその痕に触れた。傷跡はもう癒えている。それでも痛みは、心の奥にまだ残っていた。


「……次は負けない」


 呟きながら、ユキチは深呼吸をひとつ。そしてまた、黒い画面に向き合う。その背後で、静かに腕を組むハセガワ。


「ふふ……面白い。サイトーさんが遺したもの、じっくり見させてもらうよ」


 楽しげに口元をゆがめ、ユキチの操作を興味深そうに見つめていた。

アリシアの兄、ルイスの想い人であるガラムが魔王になった!?

その真意を質すため、アリシア一行は魔族が住むという未開の地、ジェネスへと向かう。

ルメールの父の白竜、そして因縁のライバルリュートとの決着の時。

そしてガラムを助けることはできるのか?


次章、『勇者爆誕』

お楽しみに!

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