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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第7章 サミット開催

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第86話 団結

「魔王ガイラム……一体、何者なんだ」


 ルイスが腕を組み、低くつぶやいた。


(お前の彼氏だよ。なんで気が付かないんだ)


 ユキチとギルが、目線で言葉を交わす。眉をひくつかせたギルの目線が、「言っちゃうか?」と問うているように見える。ユキチは小さく首を横に振る。――ここはまだ、我慢のときだ。


「それにしても……お兄ちゃんは何をしているのかしら……。リュートを抑えるどころか、今度は魔王まで誕生しちゃって! 状況、悪化してるじゃない!」


 アリシアも声を荒げる。


(あの仮面男がお前のお兄ちゃんだよ!)


 ユキチの心の叫びが、喉まで出かけて飲み込まれる。言いたい。全部ぶちまけたい。だが――ここはサミットの会議室。各国の王や大司祭が居並ぶこの場で、そんな爆弾発言をしたら混乱は避けられない(魔族の仲間と言わるな)


「ユキチ、どうしたの? なんか顔怖いわよ」


「……いや、なんでもないさ。しゃっくりを我慢しているんだよ」


「あ、そうなんだ。あれ、つらいよね。でも、無理は良くないわよ?」


 ユキチの適当な回答に真面目に答えるアリシア。ユキチの良心が痛む(早く気づいてくれ)。ギルがわざと咳払いして、話題をずらす。


「今は、ガイラムが何者かってことより――魔族にどう立ち向かうかを考えようぜ」


「そうね……。今は一致団結が先だわ」


 アリシアが小さくうなずく。ルイスが深く息を吐いた。


「あいつの言うことが正しければ、魔族の本格的な侵攻まで――あと1か月。短いけど、準備はできるわね」


「ああ、1か月以内に奴らをぶっ飛ばす……それで解決だ」


 ユキチは無意識に拳を握る。


「魔族の制圧など、わが国の軍事力だけで十分だ!」


 丸々と太ったどこかの(どう見てもやられ役の)王様が、えらそうに言い放つ(キャンキャン吠える)。アリシアは小さく呆れ、ユキチは目で「勝手にやってろ」と訴える。


 隣の代表席から、嫌味たっぷりに返す声が漏れた。


「それは素晴らしい。では貴国に事態の解決をお願いするとしよう。特に話し合うこともないのであれば、私はこれでおいとまするよ。全く。とんだ時間の無駄だ」


 ぶすりと刺すような(いいぞいいぞ、)口ぶりだ(言ってやれー)。場の空気は一瞬、ピリリと冷えたが、すかさず――


「みなさま、お待ちくだされ!」


 教皇の声が会議室を(みんな言いたいことを)割るように響いた(言ったタイミング)


「魔族は人類の敵。ここで人類が一致団結できなければ、各個撃破されて終わるだけですぞ」


 教皇は一呼吸置いて、周りをゆっくり見渡す。重厚なローブ、頑丈な首回り飾りがその言葉に重みを持たせる。


「とはいえ、過去のしがらみもあろう。手を取り合ってとは言わぬ。もともと連携など望めるはずもないであろうしな」


 あちらこちらで、同意の声。歴史的確執、領土問題、貿易摩擦——一度に解決できるものではない。だが教皇は続けた。


「なので、我が教会が用意する最速の運搬船を使って、少数精鋭による速攻を魔族領に仕掛けることとする。もちろん、魔族領に近い国家への出撃支援は協力をお願いしたい。加えて、みなさまに同行されている方々も非常に優秀だとお見受けする。是非、精鋭部隊への参加協力をお願いしたい」


 教皇は少し眉を上げる。声がさらに厳しくなる。


「この作戦に参加するもしないも自由ではあるが――この機会に乗じて自国の利益だけを追求して足を引っ張ったり、他国への攻撃をする国に対しては、天より罰が下ると考えていただきたい」


「罰だと? 教皇様、あなたは神にでもなったつもりか!」


 先ほどの太っちょ王が、つい牙をむいた。弱い犬ほどよく吠えるとは、まさにこのことだ。首の肉を震わせながら立ち上がり、テーブルを叩く仕草までつけて威圧を試みるが、誰も動じない。


「もちろん。私はただの人間だ」


 教皇は穏やかに微笑んだ。


「ただ、私の手は、幸いここにいる誰よりも長いと自負しておる。それを信じるも信じないもお任せするがな」


「ぐ、ぬ……」


 教皇の放つ不気味な(自分の言葉には)圧に押され(責任を持てよ)、太っちょは口を閉じる。会場の空気が再び静まり返った。


「ひゅー。教皇、結構やり手じゃないか」


 ユキチが小声でつぶやく。


「そうでもないと組織のトップには立てないのさ」


 なぜかギルが(さすが教皇様だぜ。)自慢げに胸を張る(貫禄が違う)。「なんでお前がえらそうなんだよ」とユキチが突っ込む。そんなやり取りが、張り詰めた空気を一瞬だけ和ませた。


「とはいえ……おれたちがその“少数精鋭”ってことだよな。あまり集団行動は好きじゃないんだけどな」


 ユキチがぼそりと呟く。そんな反応を見越していたかのように、教皇がさらに声を張った。


「安心なされよ! 我らには神の試練を乗り越えた“聖女様”がついている!」


 どよめきが広がる。


「既にお聞き及びの方もいるとは思うが、聖女様は巡礼の徒にて世界各地の魔族を撃退しておられる! 今回の作戦にも、聖女様は参加していただけるご意向である!」


「おお……噂は本当だったのか!」


「さ、聖女様、ひとことお言葉を賜りたく!」


 突然の指名に、アリシアが椅子からずり落ちそうになる。


「は、はえ? ちょっと、そういうのは勘弁というか……」


 完全に不意打ちだ(聞いてないよー)。会場中から熱い視線が集中し、逃げ場はない。アリシアは観念したように深呼吸をして立ち上がる。


「えー……あたしには、魔族の友達がいます」


 静まり返る会場(何を言っているんだ)。ざわめきの気配すら消える。アリシアは真っすぐに前を見た。


「そして今日、魔族もあたしたちと同じように結婚式を挙げるということを知りました。もしかすると魔族は、あたしたちに似ているのかもしれません」


 誰も口を挟まない。ユキチですら、真面目な顔で聞いていた。


「ひょっとすると、魔族領にしかないおいしいものがあるかも。――であれば、戦わずに済む道があるのなら、あたしはその道を選びたいです」


 アリシアの声はもう震えていなかった。


「もちろん、黙って殴られるつもりはありません。でも、憎しみと怒りだけに囚われるのではなく、愛と理解を忘れずに戦いに臨みましょう。……以上です」


 沈黙の後、ギルが立ち上がり――拳を掲げた。


「奇跡を! わが手に!」


 一瞬の静寂のあと、誰かが続いた。


「奇跡を! わが手に!」

「奇跡を! わが手に!」


 会場中に声が広がり、やがて大合唱となった。各国の代表までもが涙を浮かべながら叫ぶ。


 ユキチはその中で、やや遅れて声を上げた。


「あ、これって……アリシアたちの宗教の挨拶かなんかなのかな」


 そうぼやきながらも、彼は一歩遅れて右手を掲げた。


「奇跡を……わが手に」


 サミットはごたごたから一転(思わぬ方向に転がって)、熱狂のうちに幕を閉じることとなった。

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