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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第7章 サミット開催

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第85話 サミット

 会場には、既に各国の代表者が(偉そうな人たち)席に着いていた(がいっぱい)。重厚な円卓の上には、国旗と名札がずらりと並び、中央には巨大な魔導水晶が静かに光を放っている。


「なんか……すごい場違いな空気なんだけど」


 アリシアは背筋をピンと伸ばしながらも、こっそりユキチの袖をつまむ。


「おい、やめろ。まっすぐ立ってろ」


「だって、あたし浮いてる気がするんだもん……」


 アリシアは不安な目を(もうやだ。)ユキチに向ける(早く帰りたい)。教皇の脇に立つアリシアに、注目が集まっていた。


 「――あの少女が聖女か」「神の試練を乗り越えたというのは本当なのか――」「隣にいるのはゴブリン!? 魔物じゃないか」ささやき声があちこちで交わされ、視線が突き刺さる(アリシアを値踏みする)


「さすが聖女様、人気者だな」


 冷やかすようにユキチが笑う(よっ、さすが聖女)


「やめてよ、そんなの全然うれしくないってば」


 頬を膨らませて目を逸らすアリシア(だから違うってば)


「それでは――これより、第32回 国際平和サミットを始める!」


 議長の声が響き、各国代表がざわめきを止める。――重苦しい沈黙。空気がぴりりと張りつめる。しかし始まってみれば、会議の内容は予想以上に退屈だった(くだらないものだった)


「主導権は我が国が取る!」


「魔族鎮圧に兵を出すのは結構だが、軍資金はご協力いただけるのでしょうな?」


「ふざけるな! 先の戦で我が国に援軍をよこさなかったのをお忘れか!」


 怒号とため息が交錯し、あちこちで書記官が慌ててメモを取る。批判を皮肉で返し(何の生産性もない)終始いがみ合うだけ(もはや時間の無駄)。ユキチは途中から完全に興味を失った(勝手にやってろ)。差し入れの飲み水を飲みながらながらぼそっと呟く。


「まぁ、国と国がみんなで手を取り合って仲良くなりましょうなんて、そんな簡単にできたら苦労しないわな」


 アリシアも小さくうなずく。


「こんなの神様が見たら泣くわよ。きっと」


「なぁ、教皇さん、これ、話まとまらないぞ。どうすんだ?」


 ユキチの質問を、教皇はまるで意に返さないように穏やかな笑みを浮かべた。


「えぇ、その通り。簡単にできることではありません。ですが、ここに集う方々は皆、国を背負っている代表。引けないところもあるのでしょう」


「つまり、面子ってやつか」


「はい。しかし、まずは全ての声を聞かねばならないのです。もう少ししたら、流れが変わります。それまでお待ちください」


「なんとも悠長なこって……」


 ユキチは頭をかきながら、半分あきれたように笑う。議場の中央では、再び罵声が飛び交っている。


 ――ズン。


 そのときだった。地面の底から響くような重低音が鳴り、宮殿全体が激しく揺れた。天井の魔導灯が割れ、煌めく破片が雨のように降り注ぐ。


「な、なにごとだ!?」


「地震か!? いや、違う、これは――!」


 轟音とともに(突然の大騒動)会議室の天井が崩れる(みんなパニック)。瓦礫と煙が一気に広がる。だが幸いにも崩れたのは円卓の中央部分――代表たちは席にいたため、辛くも無傷だった。


 「みなさま、お下がりください!」「代表を守れ!」衛兵たちが素早く前に出て、警戒態勢を取る。アリシアたちも反射的にそれにならった。


「おい、煙の奥、なにかいるぞ――」


 灰色の煙が渦を巻き、中央に巨大なシルエットが浮かび上がる。そして、そこから――低く、しかしよく通る声が響く。


「――これはこれは。各国の英雄が一堂に会しているとは。実に壮観だな」


 会場が凍りつく。


 「何者だッ!」「名を名乗れ!」衛兵たちが槍を構え、煙の中へ殺気を向ける。


「はじめまして。私の名前は――ガイラム」


 煙が晴れていく。そこに立っていたのは、純白の巨大な竜(真っ白なドラゴン)にまたがる男。白い仮面に覆われた顔。背には闇のように黒いいマントが揺れている。


「……<魔王>。そう言った方がいいかな」


 その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。恐怖と怒気とが混ざり、各国の代表たちが一斉にざわめく。「ま、魔王だと!?」「ここは聖都だぞ!?」「警備はどうなっている!!」


 ユキチは顔をしかめ、頭を押さえる。


「おいおい、どういうことだ……あれは――」


「ルメールのお父さん……?」


 アリシアが言葉を続ける。


「えっ」


 思わずユキチが(あ、そっちに)二度見する(注目したの?)


 ギルがすっと横に寄り、小声で囁く。


(ユキチ、あいつ……)


(ああ、ガラムだよな。なんだよ魔王ガイラムって……)


 ふたりでコソコソ話し合う。一方のルメールは我関せず。父親かもしれない(自分と同じ色の)白竜を一瞥すると、興味なさそうに目を閉じ、おとなしくアリシアに抱っこされている。


 白い竜も同じだった。同じ色の子竜がいても、まるで見えていないように、ただゆっくりとそこに座っている。空気だけが、竜の吐息とともにわずかに揺れている。


 ガイラムが言葉を続ける。


「光栄に思うがいい。おまえらに命令を与える。――自害しろ」


 ガイラムの言葉が放たれた瞬間、温度が一段下がった(見えない力がその場の)ように感じられた(空気を支配する)誰も動けない(衛兵も圧倒される)。そこにいる全員の視線だけが一斉にガイラムへ向けられる。


「すぐにとは言わん。おれが式を挙げるまでの一か月、猶予をやろう。指示に従えないものは――皆殺しだ」


 淡々と、しかし抗いようのない確信をもって言うその声に、何人かの代表は椅子を引き、立ち上がりかけて止まる。誰もが言葉を失い、会議室に漂うのは魔力のざらついた音だけ。


「式だと?」


 ユキチが一歩前に出た。足音が石床にこだまする。――そもそも、その宣言意味ないだろ。……いや、あるのか。きっとガラムが苦労して考えた時間稼ぎなのだ。ガラムの苦労をおしはかって、演劇ごっこに乗っかるユキチ。その場の緊張を、ほんの少しでも和らげようとする皮肉な間合い。


「あぁ、そうだ。私の魔族の王としての戴冠式。そして我が花嫁リュートとの結婚式だ」


 その言葉に、場の空気がまた一段と変わる。ざわめきが走り、数人が顔を見合わせた。


「え、結婚?今結婚って言った? リュートが? 魔王と? リュートって男じゃなかったっけ? 魔族って男同士でも結婚できるの?」


 アリシアの目が(キャー、これって)ぱっと輝いた(噂のBL?)。場違いなほど純粋な好奇心が、空気をひやりとさせる。ギルが眉をひそめて小声でつぶやいた。


「おまえ、今気にするのはそこじゃないと思うぜ……」


 あきれるユキチの声を、ガイラムの笑い声がかき消す。


「はははは、今日は虫けらの貴様らへのあいさつ代わりだ。我が寛容さ。ありがたく受け入れろ。行くぞ、シロ」


 その声に、白竜が反応するように頭を上げ、ゆっくりと翼を広げる。鱗がこすれ合い、風が渦を巻き、机の上の紙がぱらぱらと舞い上がった。魔力の風圧が、空気の(さすがドラゴン。)層を震わせる(羽ばたきだけで圧倒的)


「逃がすかよ!」


 ユキチが叫ぶ。その声にギルも反応し、同時に地を蹴る。椅子が倒れ、床石が割れる音。二人の影が一直線に(おまえガラムなら、)ガイラムに向かう(事情を教えろよ)


「――ふ」


 ガイラムが片手をあげた。炎が音もなく立ち上がり、彼の周囲を壁のように包み込む。ユキチの刃先が届く寸前で止まり、炎の圧に押し返される。


「ちっ……!」


 ユキチが舌打ちする。炎はさらに勢いを増し、赤い渦となって天井を照らし出す。部屋中に影が踊った。次の瞬間、その姿は空気(ガイラムも白竜)ごと掻き消えた(ももういない)。しかし、ユキチは確かに聞いていた。炎が出る前に、ガイラムが小声で発した言葉。


「助けてくれ――」

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