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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第7章 サミット開催

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第84話 教皇

「ようこそ。聖女様」


 出会い頭に、教皇は恭しく(ちょっと引くくらい)頭を下げた(丁重な挨拶)。金糸で縁取られた純白の法衣が、まるで風に舞うようにひらめく。その姿は荘厳で神々しい――のだが、アリシアはむずがゆい思いで(それが逆に不安を)いっぱいだった(掻き立てる)


「ど、どうも……」


 どうもアリシアの不名誉(?)な肩書(聖女呼ばわり)は、とうとう教皇にまで届いてしまったらしい。


「初めまして、教皇様。ってか、聖女だなんて、やめてください。あたしはアリシアって言います」


 軽く会釈をする(普段通りにふるまう)アリシアに、教皇は柔らかく微笑んだ。


「はい。存じ上げていますよ、シスター・アリシア。――あの“聖なる果実”を食べて無事だった、奇跡の少女」


「……は?」


 あまりに唐突な話に(奇跡の少女?)、アリシアの思考が一瞬止まる。


「いやいやいや。果実を食べて無事だったって……。まさか、ヒルタウンで食べた、あのキラキラした果物のこと? まさか、あれって、食べたら危険なものだったの?」


 教皇の不穏な(確かに、盗み食いは)言い回しに(しましたけれども)、えも言えぬ不安を覚えるアリシア。


「――あぁ、そこを説明してなかったね」


 会話に割って入ったのはハセガワだった。彼は腕を組んで、どこか気まずそうに頭をかく。


「アリシアがヒルタウンで食べた果実はな、教会がソーマプロジェクトの知識を総動員して作った実験の成果物なんだ。改良に改良を重ねたうえで、食べると“神の祝福”が得られるようになったんだけど……」


 そこで一拍置き、ハセガワは眉をひそめた。


「その祝福の力が強すぎるのか、普通の人間が食べると――廃人になっちゃうんだよ」


「……は、廃人……?」


 アリシアが青ざめた声を漏らす。


「そう。ぼーっとしたまま、意思疎通ができなくなって、外界の刺激に何も反応しなくなるの。教会の一部じゃ、その噂が“神の試練”だなんて尾ひれをつけられて広まってしまってね」


「神の試練……ねぇ……ありがた迷惑な試練だわ」


 アリシアは苦笑する。ハセガワが肩をすくめると、ギルが感心したように腕を組んだ。


「で、その無茶な果実の試練を無事に乗り越えたのが、アリシアだったってわけか。……ヒルタウンの神官たちは事情を知らず、“貴重な果実を盗み食いした”って追放処分にしたんだな。――それにしても、アリシア、廃人にならなくてよかったな」


 ギルが呆れたように笑いながら言う。


「ったく、あんま変なもん盗み食いするなよ」


 ユキチも後に続いて、アリシアに苦笑いを向ける。


「いや、あれは……その、酒の勢いというか……若気の至りというか……」


 アリシアは言葉を濁しながら、両手をわた(何を言っても言い)わたと振った(訳にしかならない)。その姿があまりにもわかりやすくて、教皇もハセガワも思わず吹き出してしまう。


「ふふ……そうでしたか。ですが、結果的には――神の導きだったのかもしれません」


 教皇は口元を整え、表情を引き締める(笑い事ではないですね)


「今のあなたの身には、確かに“神の祝福”が宿っているはずです。感じたことはありませんか? 神の奇跡を」


 急に詰め(神の奇跡って)寄られて(言われても)アリシアは背を(ご飯がおいしい)のけぞらせる(ことくらいかしら)


「え、えっと……神の奇跡、ねぇ……」


 確かに、アルドラが見せてくれた板には、そんな感じのことが書かれていたが、改めて何か実感(ご利益)があるかというと……。みんなの視線が、アリシアに(アリシアの)注がれている(言葉を待っている)


「そういえば――あの果物を食べてから、二日酔いをしなくなったわ」


「……」


 一同、微妙な沈黙。


「それに、ごはんもおいしくなったような」


「……」


「あと! 火おこしも上手になったわ!」


「……」


 三度目の沈黙(それは多分違う)。教皇の額に、静かに影が落ちた。


「……いや、もっとこう……神秘的なことは、なかったろうか?」


 教皇の声が小さくなる。


「えっ、あるわよ!」


 アリシアがぱっと顔を上げる。


「刻印を押すと、アルドラの声が聞こえるようになったの! それならどうかしら?」


「アルドラ……?」


 教皇の顔が一瞬輝く。


「まさか……ディウヌ様の別名か何かですか?」


 その目に一縷の希望が宿ったのも束の間、ハセガワがさっと手を上げた。


「あー、いや、アルドラは私たちの仲間です」


 教皇の顔が見る見るうちに曇っていく。


「つまり……神の声ではない……?」


「うん。たぶん」


 アリシアは申し訳なさそうに頷く。教皇は額に手を当てて、深いため息をついた。


「なんか……ごめんなさいね。いいことが言えなくて」


 アリシアは頭をかきながら苦笑する。


「でも、二日酔いにならないのはほんと助かってるのよ。胃もたれもないし。朝からパンがおいしくてしょうがないの」


「……そうですか。それは……よかったです……」


 教皇は微妙な笑みを浮かべ、視線を落とした。“奇跡”というには、あまりに庶民的な効果だった。


「ともあれ、神の試練を克服した者として、サミットに参加していただく資格としては十分です」


 教皇は自分を(二日酔いが)勇気づけるように(ないのはすばらしい)、強引に話を進める。


「それに、聖地巡礼で魔族とも戦ってきたんだぜ」


 ユキチが口をはさむ(援護射撃をする)


「はい。それも聞き及んでおります」


 教皇はうなずく。


「大っぴらには言えませんが――頼りにしていますよ。みなさん。それでは――向かいましょうか。サミットの会場へ。――そして魔族の脅威に、共に立ち向かいましょう」


 入った時(裏口)とは別の荘厳な扉が静かに開き、教皇は会議室へと歩き出す。アリシアたちも(迷わないように)それに従う(一生懸命ついていく)。アリシアがふとつぶやいた。


「ねぇ、ユキチ。今さら気づいたんだけどさ」


「ん?」


「あのキラキラの果物を食べられたんだったら――あたし、最初から聖地巡礼なんて、しなくてよかったんじゃないかしら」


「ははっ、確かにそうかもな」


 ユキチは笑う。


「でも、聖地巡礼に放り出されたからこそ、おれとも出会えたんだろ? 結果オーライじゃん。おれもアリシアと旅ができて楽しかったぜ」


「そうね。ユキチと出会えただけでも、追放された価値があるわね。あ、――ユキチだけじゃなくて、みんなともね。でも、"楽しかった"なんて過去形で言わないでよ」


 アリシアがふくれっ面をする。


「巡礼が終わっても、一緒に旅しようよ! 今度は――ユキチの探し物を探しにさ」


 ユキチは少しだけ目を見開き、それからゆっくりと笑った。


「……そうだな」


「じゃあ、まずはサミットでお偉いさんとの話を、とっとと終わらせますか!」


「おう!」


 パンッ。ふたりの手が高らかに打ち合わされる。

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