表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第7章 サミット開催

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/94

第83話 アルカナ宮殿

「おはよう!神様が誰かに作られたものでも、やることは変わらなかったわ!」


 昨日の深刻な(どんよりした)空気から一転。すっかり吹っ切れた顔で部屋から出てくるアリシア。髪はまだ少し寝ぐせ気味だが、目はいつになく澄んでいる。


「神様の名前が作り物だったとしても、きれいな景色を見た時やおいしいものを食べた時には、やっぱり神様の存在を感じるの」


 テーブルに用意された(あら、気が利くわね)果物をつまみながら、アリシアは熱弁を続ける。


「その感動に対する表現方法がハセガワさんたちによって作られたものだとしても、あたしの感動自体は何一つ変わらないわ。きれいなものはきれいだし。おいしいものはおいしい。そしてそれらとの出会いは――奇跡! そう言うことよ。ね、ギル!」


「……あ? ああ」


 突然名前を呼ばれて(朝からやけに)びっくりしながら(テンション高いな)、ギルは慌てて頷く。彼女の勢いに完全に押されている。


「つまり、そーゆーこと!」


 アリシアは胸を張り、どや顔で親指を立てた。朝日が差し込む窓辺で、その姿は説教台に立つ(謎の説得力)聖女そのものだ(謎の説得力が)


「きみ、いいね。理解が早くて。できれば、その調子で次期教皇にならないか?」


 ハセガワは楽しそうに言う。


「いや、それはちょっと……! あたしには不相応というか。聖女でさえ面倒なのに。もっと自由に生きたいっていうか」


 アリシアが思わず(ハセガワの台詞は)慌てふためく(シャレにならない)。ハセガワはその様子を見て、両手を広げる。


「はは、そうかそうか。大丈夫。きみの意思を尊重するよ。――そうだよね。偉くなるとできることも増えるけど、できないことも増えるからな。わかるよ。おれもそうだから」


 そう言うと、ハセガワは手に持っていたカップを机に置き、軽く伸びをする。


「じゃあ、早速だけど、その責務に縛られて動けなくなった、かわいそうな教皇に会いに行こうか」


「ハセガワさん、さすがにその言い方は……」


 アリシアがハセガワ(さすがに不敬)のコメントに(すぎないかと)ひやひやする。


「いいってことよ。本当のことだからな。それに、今の教皇もなりたくてなったわけじゃないんだぜ」


 ハセガワは笑いながら手をひらひらさせる。


「え、そうなの?」


 意外そうな顔をするアリシア。


「ああ。ただ、あいつはアリシアみたいにはっきりと自分の意見を言えなかったのさ。まぁ、それでも、それまでの自分の権力にしか興味のない教皇に比べれば数百倍マシってもんだがな」


 ハセガワは教皇に対して軽口を叩きながらも、その口調にはどこか敬意が混じっていた。


「さ、行こう。もうすぐ接見の時間だ」


 そう言うと、ハセガワは(どこか散歩に)鞄を肩にかけ(行くみたいに)ひょいとドアを開ける(気軽に家を出る)。アリシアたちも慌てて支度を整えるが、服装はいつもの旅姿のまま。


「ねぇ……教皇様との面談って、こんな格好でいいんだっけ?」


 アリシアが不安そうに自分の修道服を確認する。


「問題ない。向こうもおしゃれに興味ないから」


 ハセガワは軽い調子で言い放つ。なんだか常識が(本当にそれ)分からなくなる(でいいのか?)。いや、最初からハセガワに常識を求めるのが間違いだったのかもしれない。


 外に出ると、アルカナの街は朝日を受けて白く(すごくきれいに)輝いていた。聖都と呼ばれるだけあって、通りには清らかな音楽が流れ、石畳は磨き上げられている。だが、その厳かな雰囲気の中に、どこか浮ついた空気が漂う(お祭りのにおいがする)


「ねぇ、ユキチ。朝から屋台が出てるよ! おいしそう!」


 アリシアの目が(朝から屋台なんて、)早速きらきらと輝く(最高じゃない?)


「おいおい、朝飯食ったばっかだろ」


 ユキチが呆れながらも、視線を向けると確かに美味そうな匂い(朝からおいしそう)が漂っていた(なのがいっぱい)。香辛料のきいた焼き串、甘そうなフルーツパイ、香ばしいコーヒー。


「さすが聖都だな。にぎわい方も、今までの街とは比べ物にならないぜ」


「普段はこんなことないのですが、サミット当日ということもあって、いろいろな国の行商人がこの機会にと集まったのでしょうね」


 物珍しそうに辺りを(勝手にどっかに)見回すユキチに(いかないでくださいよ)、ハセガワが解説する。


「これから魔族と戦争するってのに、平和なもんだな」


 ユキチがぼそっとつぶやく。


「ま、商人はそういう生き物だよ。どんな時でも、金の匂いには敏感なんだ」


 ギルは後ろで(経済が回れば)楽しそうに言う(笑顔も増える)。その言葉に、アリシアもつられて笑う。


「あたしは好きよ。こういう空気」


 ユキチが横を見ると、朝日を浴びて(すがすがしい)笑顔のアリシア。いつの間にかパンを買って食べている。


「なによ……こんなの、いつ食べれるかわからないからね」


 もぐもぐと頬を(買い食い)ふくらませながら言う(こそ最高の娯楽)


「そうかもな」


 ユキチもアリシアからおすそ分けをもらい、あんことバターがたっぷり塗られたパンをかじる。焼きたての香ばしい香りと、ほんのり塩気のあるバターの甘みが口の中でとけていく。シンプルなのに、やたらとうまい(罪深い)


(――これが、神の奇跡ってやつなのか)


 信仰心のなかったユキチには"神"という存在はいまいちピンとこない。けれど今、アリシアがなぜその言葉を信じているのか、少しだけ分かる気がした。「うまい」「きれい」と思う瞬間。その素直な喜びが、アリシアにとっての神を感じる瞬間なんだと思う。


「さ、着きましたよ」


 ハセガワが立ち止まり、前方を指さす。


「ここがアルカナ宮殿です」


 純白の外壁が朝日を反射してまぶしい。尖塔の先に掲げられた金色の(えらそうな)紋章が、風に揺れて輝いている。 荘厳という言葉が(流石宗教の)ぴったりの建物だ(総本山だ)


「私が話を通しますので、ちょっとここで待っていてくださいね」


 そう言うと、ハセガワは衛兵のもとへ向かう。強面の衛兵たちは最初こそ険しい表情をしていたが、ハセガワが何か耳打ちすると、たちまち顔がほころび(あっという間に)笑い声が聞こえる(お友達)


(どんな魔法使ったんだあいつ……)


 ユキチが小声でぼやく。しばらくすると、ハセガワが手招きする。


「話は通しました。こっちです」


 アリシアたちはハセガワの後にひょこひょことついていく。だが、向かう先は宮殿の正面――ではなく、横の衛兵詰め所(狭い部屋)


「あれ? こっちの大きな門はくぐらないの?」


 アリシアが不安げに首をかしげる。


「あぁ、そっちは来賓用です。おれたちは身内なので、裏口から行くんですよっと」


 そう言って詰所の壁に飾られている鎧の顔部分に手を入れる。「ピッ」という小さな音がして、壁がスライドする(こんなところに隠し扉)。その奥には、ほんのり明るい小部屋。


「うわっ、なにこれ……秘密基地?」


 アリシアが目を輝かせる。全員が中に入ると、背後の壁が音もなく閉まった。――静寂。息がつまる密閉感に(誰も何も言わない)、ルイスがそわそわし始める。


「閉じ込められたんじゃ……ないよね?」


「大丈夫ですよ。ちょっと待ってくださいね」


 ハセガワは落ち着いた声で答え、壁のパネルに指を滑らせた。その瞬間、部屋が(ここって宮殿)小さく震えた(の中だよね?)


「うわっ!」


 アリシアがバランスを崩し、ユキチの腕につかまる。


「部屋が……動いてるのか?」


 ギルが神妙な顔をする。


「はい。このまま教皇がいる部屋に直行できます」


 ハセガワはパネル操作を終えたのか、アリシアたちのところに戻ってくる。

 

(本当に、秘密基地みたいだね)


(うん……なんかワクワクしてきたわ)


 ルイスとアリシアが小声で話しあう。


「なるほど……人ではなくて部屋全体を動かしているのか。――結構なエネルギーが必要なはずだが、動力は何だろう……」


 ギルの目が子どものように床や壁、あちこちをノックし始める。


「ふふふ。あなたもこっち側の人間なのですね。興味があれば、後でしくみを教えますよ。簡単な仕組みなので、色々なものに応用できるはずですよ。――例えば、ゴーレムとか……ね」


 ハセガワは意味ありげにギルにほほ笑む


「それより、もう着きますよ。準備は良いですか?」


「え、もう?」


 アリシアが(心の準備)思わず声を上げる(できてないんだけど)。その瞬間、部屋の中の光がふっと落ちて、壁の一部が静かな機械音とともに開く。


「――っ!」


 外から差し込む光は、朝日。そしてその光を背負うように立つ人の姿。アリシアたちが所属するディウヌ教の頂点。"教皇"が確かにそこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ