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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第6章 ソーマプロジェクト

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第76話 大地(エクシリア)へ

 観測所に来て数日(そして、あっという間)。巡礼中に起きた怒涛のトラブルだらけの日々からすれば、月の暮らしはあまりにも単調で、退屈すぎるものだった(平和そのもの)


「……あー、暇すぎて逆に疲れるわ」


 アリシアは外に出て、砂の丘を歩く(夜のお出かけ)。当然、ゴテゴテした服(宇宙服)を着た状態で。頭の上には相変わらずルメールが座ってる。


「ルメール、防護服なくても平気なんてすごいよね。空気いらないの?」


 アリシアが苦笑してなでると、ルメールは満足そうに目を細めた。どうやら竜の身体は宇宙空間すらもの(流石に生き物)ともしないらしい(としておかしい)


 単調な暮らしの中で(だけど、何回見ても)唯一の楽しみは(飽きないものがある)、外に出たときに見上げる空。そこには青と緑が混ざった美しい球体――エクシリアが浮かんでいた。ここ()からは細部までは見えない。だが、あのどこかでまた魔族が暴れているのかもしれないと思うと、心がざわめく(待ってて、お兄ちゃん)


 アリシアはそんなことをぼんやり考えながら、ゴテゴテスーツ(宇宙服)のまま地面に大の字になった。身体がふわふわしているので、衝撃は少ない。周りにゆっくりと砂煙が上がる。その脇に一緒に横になるルメール。相変わらずアリシアの魔力をずっと吸っている(竜のくせに甘えん坊だ)。その背をなでながら、アリシアは左手を高く掲げ、小声で呪文を紡いだ。


「――ラ・ルース」


 ぱっと、掌から聖なる光が発せされ、(エクシリア)へと伸びて拡散していくが、やがて儚く消えていった。


「すごい!本当に出た」


 これはユキチの勉強の副産物だ。黒い画面を使った(何をしてるかは)練習の一環として(よくわからないけど)よく使っていた(今まで助けてくれた)、あの長ったらしい原初魔法を解読し、アリシア用に改良してくれたのだ。刻印を使わない替わりに、エーリス大神殿でもらった指輪を身につけていなければならないが、全く苦にならない。それよりも、呪文が短くなったのは(サクッと使えて)本当にありがたい(ホントに便利)


「――ラ・ルース・レウニール」


 続けて別の呪文(ユキチオリジナル)を唱える。さっきの光よりも、細く鋭い筋が手から走った。 さきほどの「ラ・ルース」が大砲なら、こちらはまるで千枚通し(レーザービーム)。月の薄暗い空間を突き抜け、またしてもエクシリアに一直線に吸い込まれていく。ユキチ曰く、光を収束させて威力と(なんだか難しい)飛距離を上げたらしい(ことを言っていた)


「これなら、魔族以外にも有効だ。岩石を焼き切るくらいは余裕さ」


 そう胸を張って言った彼の顔が脳裏によみがえる。一発撃つごとにMPを3000くらい(普通なら即ミイラ化)消費するというとんでも仕様だが、アリシアの魔力量なら余裕で連射可能だ(息をするくらい簡単)


「ユキチ、ほんとうにすごいね……」


 すごい出力のビームを見ながら、アリシアは小さくつぶやいた。


「シャルルのいたずらだらけの世界を、ぜんぶ塗り替えちゃえ」


 あの長ったらしい呪文(のどが枯れる魔法)や、いやらしい禁書(エロ本)、ついでに乙女の柔肌に(セクハラまがいの)刺青を入れるようなひどい仕組みはもうこりごりだ。そんなクソみたいな仕組みを作った過去の英雄を思い浮かべながら(に当たりちらすように)、静寂の月面から、彼女は何発もビームを放つ。


 ――一方そのころ、トレーニングルームでは。ギルとルイス、そしてラムネが、それぞれ黙々と汗を流していた。腕立て伏せにスクワット、気功による呼吸法。重力の軽い月では身体への負担が小さく、その分筋肉が衰えやすい――そうアルドラから聞いた瞬間、彼らはいても立ってもいられず鍛錬を始めたのだ。


「……はっ、はっ……! 軽い分、回数こなせるな!」


「油断したらすぐ体が鈍るからね。ここでも前衛は怠けられないのよ」


「ぷるっ!」


 ラムネには筋肉はないのだが、基礎ステータスの低さにショックを受けたらしい。効果があるかわからないが、ダンベルを持ち上げて(トレーニングの真似を)いる。


 そして月での生活五日目。ユキチが"五日で習得してみせる"と豪語したその日の昼下がり。皆がモニタールームに集まり、休憩を取りながらちらちらと奥のドアを見やっていた。そこはユキチが閉じこもっている部屋。


「……さすがに、一か月かかるものを五日ってのは無理じゃない?」


「いや、ユキチはやるって言ったらやる男さ」


 ルイスとギルがひそひそ声で(隣に聞こえないように)会話する。そんな中、ちょうど奥の部屋のドアがぎぃと音を立てて開いた。続いて、姿を現したユキチは、髪は乱れ、顔は青ざめ、なぜか衣服もぼろぼろ。それでもわずかに笑っている(どこか嬉しそう)


「……無事……試験……合格……したぜ……! 疲れた……」


「試験……?」


 誰ひとりユキチが何をやっていたか詳しくは知らない。だが確かに、彼は宣言通りに何かをやり遂げて出てきたのだ。


「ユキチ、おつかれ! 宣言通り五日で終わらせるなんて、やるじゃない!」


 アリシアはぱっと駆け寄り、ユキチの頭をわしわしと撫で回す。


「や、やめろ……! せっかく覚えたことを……忘れてしまいそうだ……」


 弱々しくも抵抗するその姿に、皆がどっと笑った。


「素晴らしい。試験合格、最短記録です。もう少し時間がかかると思っていましたが……これなら十分、間に合いそうです」


 アルドラが珍しく感嘆の声を上げ、ぱちぱちと手を叩いた。


「間に合うって……何に?」


 ギルが眉をひそめる。アルドラは一瞬言葉を選び、それから淡々と告げた。


「――エクシリアにいる仲間の報告によると、魔王が誕生しました。そして世界各国に向けて、正式に宣戦布告をしたようです」


 観測室に動揺が走る(おいおい、大丈夫か?)


「ま、魔王が……?」


 言葉に詰まるアリシアたちを横目に、アルドラはさらに続けた。


「まもなく、主要な国々の王や指導者が聖都アルカナに集結し、サミットを開こうとしています」


「サミットって……?」


 アリシアが首を傾げる。


「世界の王様たちが集まって話し合いをすることだよ」


 ギルが答えた。


「滅多に開かれるもんじゃないけどな。だが、魔王が誕生して、しかも世界に喧嘩を売ったとなっちゃ……国同士のいさかいなんて気にしてられねぇからな」


「なるほどね……。それにしても、お兄ちゃんは何をしてるのかしら? 魔族のことは任せろって言ってたのに」


 アリシアはぽつりと呟いた。


「――いや、たしかリュートのことは任せておけ、だったっけ……」


 そうだ。魔族最強のリュートを引き付けておくという話だった。アリシアはガラムの言葉を思い出してきた。数週間は何とかなると言っていたのに。まだ1週間は余裕があると思っていたが、一体何があったのか。


「まずは聖都アルカナへ向かって、各国の代表と連携しながら事態を収束させてください」


 アルドラは平然と告げる(お使いを頼むよう)


「ずいぶん簡単に言ってくれるわね」


 アリシアがため息をつくと、


「えぇ。皆さんなら大丈夫ですよ。ね、ユキチさん」


「……あぁ。余裕だぜ」


 まだ顔色の悪いユキチが親指を立てる。その指はかすかに震えていたが、気持ちだけは誰より強そうだ。


「そうだ、私から皆さんにプレゼントを用意しています」


 アルドラはおもむろに紙袋を目の前に出す。


「まずは、これ。魔法の腕輪です」


 きらりと光る輪っかをテーブルに並べる。デザインはユキチの魔法の首輪と同じものだ。


「腕につければ、私を含め腕輪を付けた仲間同士で会話が可能になります。――ほら、ラムネさんやルメールさんの分もありますよ」


 アルドラはそう言って、ぷるぷる震えるスライムの頭の上と、竜の前足にそれぞれ腕輪をはめてやった。するとラムネはそのまま「ぷるん」と飲み込んでしまった。


「……いや、つけるんじゃなくて飲み込むのかよ」


 ユキチがツッコむと、アリシアは肩を揺らして笑う。


「会話を始めるときは『シーキュー・シーキュー』と唱えてください」


「かわいい呪文ね」


 アリシアがにやりと笑う。


「そうですね。私も詳しくは知りませんが、昔からの決まり事のようです」


 アルドラが微笑む(語源は私も知りません)


「そして、もう一つはこちら」


 彼が差し出したのは、かわいらしいデザインの判子(スタンプ)だった。


「……あ、スタンプ!」


 アリシアが目を丸くする。


「そう。新しい刻印です。また数百年適合者が現れないかもしれませんが、通信が安定した新しいものを作っておきました。ついでに、使用言語も現代語に合わせましたので、ストレスもないかと思います」


「私の時にこれが欲しかった……」


 アリシアがしみじみ言う。


「これはおれも作るの手伝ったんだぜ」


 ユキチが胸を張る(いやー大変だった)。アリシアは新しいスタンプを手に取り、じっと見つめる。


「アルカナにいるハセガワさんに渡していただければ、教皇経由で刻印を差し替えてもらえる手はずになっています」


 アルドラの説明に、皆はうなずく。


「分かった。それは大司教のおれが預かっておこう」


 ギルが新しい刻印をアリシアから受け取る――が、何かがおかしい。


「ん? これ……六つあるな。一つは予備か?」


「いいえ」


 アルドラは首を横に振った。


「この際、人間が住む五大陸だけでなく、ついでに魔族が住む大陸にも監視目的の教会を建てていただきたいのです」


「ついでにって……聖地巡礼ルートに魔族領を入れるのはなかなかハードな課題だな」


 ユキチが顔をしかめる。


「もちろん、すぐにとは言いません。ただ、こういう機会もなかなかありませんので。後になってやり残しに気づくくらいなら、やれるときにやれることをやっておきたいのです」


「……確かに、次の機会はまた800年ごとかだったら、モヤモヤが残るかもな」


 ギルも納得して頷く。


「わかったわ! 魔族との交渉は任せて! 魔族の友達もいるし。何とかなるわよ!」


 いつもの調子でアリシアがあっさり引き受け、仲間たちがずっこけそうになる。


「ありがとうございます。困ったことがあれば腕輪にご連絡ください」


 アルドラは前向きなアリシアに丁寧なお辞儀をする(引き受けてくれて感謝)


「オッケー! それじゃ……準備もできたし、アルカナに行きますか!」


 アリシアがよくわからない方向を指さす。


「って、どうやって行くんだ?」


 そんなアリシアを見ながらルイスが眉を寄せる。


「アルカナに行くなら、ユキチの力でエーリス大神殿に戻ってから山を下りればすぐだけど、ユキチ、大丈夫か?」


「あぁ……問題ない。行こうか。じゃ、アルドラ。またな」


 ギルの問いかけに、ユキチは自分の魔力残量を(魔核の感覚を)確認しながら、力強く頷いて、アルドラに手を振る。


「はい。皆さんも、どうかお気をつけて」


 一同は広間においてある車に乗り込む。席に着くと、ユキチが地図を開き、指先で示す。久しぶりのこの感じ(旅立ち)


「エーリス大神殿はここだな」


 地図のポイントを指さした次の瞬間、目の前に見慣れた文字が現れる。


 ――ここに行きますか?――


「じゃ、今度来るときはお土産買ってくるね!」


 能天気なアリシアが笑いながら手を振り、アルドラへの別れの挨拶を確認してから、ユキチは「はい」を押す。


 魔力がごっそり抜ける(あー、また魔力枯渇の)感覚。景色がゆがみ、車は光に包まれる。向かう先は、聖地巡礼の最終目的地にして、サミットの開催地(えらい人たちいる場所)――聖都アルカナ。アリシアたちの旅もいよいよゴールが見えてきた。

刻印の導きで月面基地に到着したアリシア一行。

そこで衝撃の真実を聞いた彼らは、世界の管理者として行動することを決断する。

そんな中、魔王誕生の一報を聞く。ガラムはどうなったのか?

まずは緊急開催されるサミットで各国首脳の協力を得るため、聖都アルカナへ向かう。

ユキチも新しい力を手に入れて、物語はいよいよ終盤へ。


次章、『サミット開催』

お楽しみに!

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