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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第6章 ソーマプロジェクト

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第75話 管理者研修

「さて、みなさんお待たせしました。食事にしましょうか」


 アルドラの一言に、「待ってましたー!」とアリシアが両手を上げる。――が。テーブルに並べられたのは、白い皿に盛られたの(どこにでもよくある)普通スパゲティだった。


「え、ふつー……」


 はためにも、アリシアのテンションが急降下するのが分かる。せっかく月に来たのだから、星くずパスタとか、隕石カレーとか、そういう独創的なものを期待していたに違いない。


「まぁそうだよな。人がいない基地なんだもん、ご飯があるだけでもありがたいってもんさ」


 ユキチが肩をすくめる。


「あ、でも――意外とおいしい」


 アリシアは気を取り直して一口食べると、幸せな顔になる(チョロい)


「このトマトとチーズのバランス。……うん、いいわね!」


 気を取り直して、もぐもぐとスパゲティを食べ進めていく(ぺろっとたいらげる)


「喜んでもらえて何よりです」


 アルドラはほっとしたように微笑んだ。


「じゃあ、デザートには、もう少し“月っぽい”ものを用意しますね」


「そ、そんな気を使わなくていいのに……」


 アリシアは遠慮する口ぶりだが、期待でよだれが今にもこぼれそう。そして、アルドラがテーブルにもってきたのは、とてもシンプルな四角いクッキーだった。


「これはこの基地建設当初にプロジェクトメンバーが食べていた携行食です。味は……正直微妙ですが、当時は“月で食べるもの”といえば、これが定番でした」


「建設当初って……3000年前のご飯ってこと?」


 アリシアが恐る恐るかじる。


「……もはもはする」


 ぼりぼり、もそもそ。口の中の水分を根こそぎ持っていかれる感覚に、一同は顔を見合わせた。


「これは……」


 ギルが必死に咀嚼しながら言う。


「さっきのコーヒーが欲しくなるな」


「ふふ……でも、こうして“お月様”で大地を見上げながら3000年前の人が食べてたお菓子を食べるとはね。街のみんなに言っても信じてもらえないだろうな」


 ルイスはしみじみとモニターに映る大地(エクシリア)を見ながらにやける。


「ほんとよね。……実感がなさすぎる」


 アリシアは最後のひとかけらを、重力の軽さを利用して宙に浮かせる。それを魚のように(こんなこと普通には)パクリと食べると(体験できないわ)、にこにこと笑った。


「――で、アルドラ。おれたちはこの後、魔族の鎮静化に戻ればいいのかな」


 幸せそうなアリシアを横目に、ユキチが尋ねる(話を戻す)


「はい。でもその前に、ユキチさんにはシステム管理者としての知識を習得してもらいます」


「ああ、そういえばそんなこと言ってたな。すっかり忘れてたぜ」


 ユキチが頭を(勉強なんて)かきながら笑う(したことないよ)


「その間、他の皆様には観測所内で自由にお過ごしください。トレーニング施設もありますし、外は広大な荒野ですから、高出力の魔法の実験も可能です」


 アルドラはテーブルに新たなパネルを表示し、施設の地図を映し出した。


「ちなみに、外出する際は専用の服を着ないと、出たとたん呼吸できずに死んでしまいますので、やり方などは後ほど説明致します。それまでに早まって外に出ないようにしてくださいね」


「わ、わかったわ……」


 アリシアは小さく頷く。


(外に出るだけで死ぬなて、月って……恐ろしい世界なんじゃないかしら……)


「よし、お腹も満たされたし、早速始めようぜ、アルドラ。――そのシステム管理者の知識の習得って、だいたいどれくらいかかるんだ?」


「通常なら、1~2か月といったところでしょうか」


「え……」


 その回答を聞いた一同が凍りつく。


「向うで待っている人もいるから、あたしたち、そこまではさすがに待てないんだけど……」


 アリシアが困惑の声を上げた。


「安心してください」


 アルドラは微笑んだ。


「通常なら、です。ですがユキチさんは、言語習得スキルをお持ちですので、おそらく1週間程度で習得できるかと思います」


「そうか。分かった。5日で終わらせてやる!」


 ユキチはぐっと腕まくりをする(やる気モード)


「了解しました。それでは、ご案内します」


 アルドラは微笑み、ユキチを観測室の脇にある部屋に案内する。


「じゃあ、がんばれよ、ユキチ」


 ギルとルイスが同時にユキチの背中をバンッと叩いた。


「いってらっしゃい。早く戻ってきてね」


 アリシアも信頼しきった顔で手を振っていた。皆に見送られて、ユキチはアルドラと共に別の部屋へと消えていった。 扉が静かに閉まる音が観測室に響き、しばし静寂が訪れる。


「じゃ、おれたちも何かしますか」


 ギルが腕を組んで言う。


「さっき板で見た情報をもとに、自分たちの鍛えるべき場所を伸ばしていくのがいいかもしれないな。数字で見えると、トレーニングが効率的になりそうだ」


 ギルがもう一度ステータスを表示する板に触れると、ギルに関する情報が浮かび上がる。


「俺はとりあえず、この体術とか気功を中心に鍛えるかな」


「あぁ、わたしもこのまま足手まといにはなりたくないからな。ギル。トレーニングの合間で構わないから、手合わせしてくれないか」


 ルイスもギルに触発されてやる気になる。


「かまわないぞ」


 そんなルイスを見て、ギルはニカっと笑う。


(足手まといなんて、そんなこと、誰も思ってないのに……)


 そう心の中でつぶやきながら、アリシアはおかわりのクッキーを手に取る。もはもはとした食感に思わず笑みがこぼれた(ふしぎとクセになる味)


 ラムネとルメールは低重量の飛行を楽しむようにふわふわ浮かんでいる。彼らにとっては休憩も修行なのだ(寝る子は育つ)


 ――こうして、月面の観測所での生活が、静かに幕を開けた。

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