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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第6章 ソーマプロジェクト

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第73話 ソーマプロジェクト

「なぁ。アルドラの話が本当だとすると――」


 ユキチが息を飲む(月って人が住めるの?)


「おれたちは今……空の上にいるってことだよな」


 しんとした空気が一同を包む。誰もが言葉を失い(当たり前なんだけど)重力の違いを確認する(当たり前じゃない)


「そうだとすれば、アリシアの背中の光が移動していたのもこれで納得できるな」


 ユキチは(ここはある意味)ぽつりとつぶやく(浮遊大陸だ)


「それにしても、まさか月に来ることになるとはな! アルドラ、外には出れるのか?」


 ギルは興奮を隠せずに、重力の違いを確認するかのようにぴょんぴょん跳ねる(超ハッスル)


「今の時間、外に出ることはお勧めしません。太陽の放射熱でやけどします。建物が日陰に入ったら外をご案内しましょう」


「うおー! テンションが上がるぜ!」


 ギルは興奮のあまり、頭を天井にぶつける(自制ができなくなる)


「月の上か……なんだか、信じられないね」


 そんなギルとは対照的に、ルイスが感慨深げに上を見上げる。が、そこはただの金属できた天井があるだけだった。


「画面越しになりますが、景色をお見せ出来ますよ」


 アルドラがそう言うと、壁面に埋め込まれた数多(あまた)のスクリーンが一斉に光を落とす。次の瞬間、それらが全てつながり、一枚の巨大な窓のようになった。


「うわっ……」


 アリシアが思わず声を漏らす。そこに映し出されたのは、白い荒れ地の(何もない)地平線の向こう(月の大地と)漆黒の宇宙に(丸い宝石の)浮かぶ青い星(ような青い月)。淡い雲が渦を巻き、海と大陸が美しい模様を描いていた。


「え、これなに? すごいきれいなんだけど」


「惑星エクシリアですよ」


 アルドラの声は静かで、誇らしげだった(なんだか嬉しそう)


「え? あそこにあたしたちが住んでるの? 信じられない」


 アリシアが両手を胸の前で合わせ(月から見ると)瞳を輝かせる(ちっぽけなんだ)


「ふふ。本当にきれいですよね。私もこの景色が大好きです」


 アルドラは幸せ(まるで我が子を)そうに目を細めた(慈しむようにほほ笑む)。やがて彼はゆっくりと振り返り、映像を背にして立つ。


「では改めて――ソーマプロジェクトにようこそ」


 惑星エクシリアの姿を背景に、仰々しく両手を高く掲げるアルドラ。その仕草は随分と(ややコテコテ)大仰強いものだったが(かなとは思ったが)、ツッコむ人は誰もいなかった。


「皆様には、この惑星エクシリアの調査、そして保全を担当してもらいます」


 しんと静まり返る室内。任務の重さを(シリアスな)感じ取ったのか(ムードの中)神妙な面持ちで(空気を読んで)話を聞いている(黙っている)一行だが――


「はーい!」


 アリシアだけは元気いっぱいに(細かいことは)挙手し、返事をした(気にしない)


「おいおい……なんでもかんでも元気よく返事すりゃいいってもんじゃねぇぞ」


 ユキチは額に手を当てる。アルドラは特に気にした様子もなく、指を三本立てて説明を続けた。


「具体的には、主に三つの任務をしてもらいます。

 一つ、魔族の鎮静化。

 二つ、魔素に関する調査。

 三つ、プラネットシードの確保、です」


  早速難しい話になってきて、話についていくのが怪しいアリシア。勢いよくあげた手をそっと下ろしながら一生懸命話を聞こうとする。が、頭には入っていないようで、ユキチの顔を(ねぇ、あとで)チラチラ見る(わかりやすく教えて)


「まず、魔族の鎮静化については……皆さんの方が詳しいかもしれませんね。およそ二百年に一度、エクシリアの地下に眠っている魔素だまりが活性化します。すると魔族の活動も活性化し、放置すれば貴重な資源を食い荒らしてしまうのです」


 アルドラの声は淡々としていたが、その表情には(過去に魔族と)ほんの少しの(何かあったのだろう)苦々しさがにじんでいた。


「勘違いしてほしくないのですが……やっていただきたいことは鎮静化であって殲滅ではありません。以前そこを誤解して、余計なトラブルになった例が何度かありましたので……ここは強調させていただきますね」


「分かった! あたしも魔族とは仲良くなりたいと思っていたから、ちょうどいいよ!」


 それまでぼーっとしていたアリシアが、突然手を挙げる。どうも「鎮静化であって殲滅ではない」という言葉だけは理解できたようだ。


「突然元気になるな、おまえ……」


 ユキチは肩をすくめたが、心のどこかで「まぁ、こいつらしい」とも思った。


「それにしても、魔族が暴れるのって周期的なもんなんだね。なんだか、セミみたい」


「アリシア、その例えはちょっと……セミは流石にかわいそうじゃないか」


 ルイスが苦い顔をする(そうでもないかも?)


「それでも、セミみたく夏が終わったら落ち着いてくれたらいいんだけどな」


 ユキチがしみじみとした声で言う。


「それな」


 ギルが苦笑いを漏らし、一同の緊張が(ちょっと緩い)少しだけほぐれた(空気が流れる)


「二つ目の目的、魔素の調査については――時間のある時で構いません。何かわかったことがあれば教えてください。ユキチさんが持っている魔素操作のレベルを上げた時の成果確認でもいいですし、魔石や魔道具といった、魔素に関係するものの研究でも構いません。魔素に関する情報は、あるだけあって困ることはありませんから」


「それって、今やってることとあんま変わらないな。だったら大丈夫だと思う」


 ユキチが頷く(やることはかわらない)。魔素を使いこなせなければ、魔族に対抗することも難しいだろう。


「――それよりも最後に言ってた“プラネットシード”ってやつ、それは初めて聞くんだけど、何だい?」


 ユキチは、ずっと気になっていた単語について質問する。


「そうですね。ちょうどそれを説明しなければと思っていました」


 アルドラの表情が、わずかに改まる。


「皆さんに説明するのは難しいのですが……プラネットシードとは、星の記憶のようなものだと思ってください。ソーマプロジェクトでは、珍しい星のプラネットシードも集めています」


「星の記憶……」


 アリシアが目を丸くする。


「って……あ、もしかして、星の卵? この右手の刻印をしたとき、“星の卵が危険”って言ってたけど、それと関係してる?」


「あ、そうです」


 アルドラの声に、わずかに喜びが混じった。


「伝わっていてうれしいです。古代神聖語に変換した際、“シード”が“卵”と訳されてしまったようですね」


 神託の謎が一つ解けた(喉の小骨が取れた感じ)。要は最初からソーマプロジェクトに絡んでいた(仕組まれていた)のだ。教会も。刻印も。


「プラネットシードは通常、星の地下深くに存在しています。しかし今は、活性化している魔素だまりの近くに、エクシリアのプラネットシードがあります。そのため、下手をすると魔族に破壊されかねない……。ですので、その前に魔族を鎮静化するか、プラネットシードを確保してきてもらいたいのです」


「なるほどな。星の卵に危機が迫っている……その謎は解けた」


 ユキチが腕を組み、しばし考え込む。


「じゃあ、ルベリオ大神殿でアリシアが聞いた“聖なる盃を月に収めよ”ってのは? あれもソーマプロジェクトに関係してんのか?」


「あぁ、それはもう達成しました」


 アルドラはあっさりと告げる。


「魔法の首輪をつけているユキチさんを、この月の観測所に連れてきてください。という意味でした」


「はぁぁぁ!? そんなの分かるわけないじゃん!」


 アリシアは思わず身を乗り出し(その翻訳は)頬をぷくっと膨らます(ひどすぎる)


「もう、それならそう言ってよ。まさか聖杯がユキチの首輪のことだったなんて……」


「おれもだよ……聖杯を探す旅が始まるって思ってたのに。ワクワクを返して欲しいぜ」


 ユキチは(まさかおれが)ため息をつき(ゴールだったとは)、がっくり肩を落とした。


「なんか……期待させてしまってごめんなさい」


 アルドラは申し訳なさそうに頭を下げる。


「刻印のシステムが老朽化してきたので、翻訳がうまくいかなかったようですね」


「老朽化って……まさか教会の儀式に定期メンテナンスが必要だったなんて、神様も気づかなかったんだろうな」


 ユキチが変な例えをすると(なんだそれ)、ギルとルイスが思わず吹き出した。


「全くですね。ちなみに、このシステムは八百年前、ここに来た勇者シャルルが提案したものがずっとそのまま使われています」


「勇者シャルル……って、おとぎ話に出てくる人じゃない」


 アリシアは驚きの声をあげる。


(有名なのか?)


 ユキチがギルに小声で聞く。


(あぁ。おれも子供のころに絵本で読んだことがある)


「それにしても、なんで聖地巡礼にかこつけて、五つも刻印集めたりさせるの? 超大変だったんだけど!」


「……あぁ、シャルル曰く、『そっちの方が面白いし、ありがたみが出るじゃん』とのことでした」


「面白い……!? そんな理由で、あたしは体のあちこちにスタンプを押す羽目になったの?」


 アリシアは両手を広げて抗議する。


「はい……その通りです」


 アルドラは申し訳なさそうに視線を落とし、小さく頷いた。


「おれもスタンプまみれだけど、アルドラの声が聞こえなかったってことは、適正がなかったのか……」


 その表情はどこか寂しげだった。


「残念ながら、そうなりますね。あの刻印は、ある程度の魔素の適合者にのみ反応するようにできていますので……シャルルのあと八百年の間に、何人かは短い会話まではできたものの……誰もここまで来ることはできませんでした。ほとんどの人には魔素適正がないのかもしれません」


「なるほどな……」


 ギルが腕を組み(そういうものか)、横目でアリシアを見る。


「そういう意味では、アリシアはすごいんだな。八百年にひとりの才能だぞ」


「そう言われても、ねぇ……」


 アリシアはあまりうれしくなさそう。


「適合者って言われても、あたし自身は特に何もしてないし……それに、あんまり変に目立ちたくもない……かな」


 アリシアのスタンスはブレない。

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