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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第6章 ソーマプロジェクト

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第67話 指輪の試練

「――着きましたよ」


 長い階段を降り、大司教が重々しい(ヤバい見た目の)ドアを開ける。その瞬間、奥から尋常じゃない濃さの魔素が押し寄せてきた。


「うわっ……なんだこりゃ」


 ユキチが思わず鼻を押さえる。体の奥までざらついた魔素が入り込んでくるような感覚だった。


「わかりますか」


「おう。――って言っても空気中の魔素を感じられるようになったのは最近だけどな。これは……さすがに強烈だぜ」


 大司教はうなずいた。


「この魔素だまりから魔物が生まれないように、定期的に魔素を払うことがここ、エーリス大神殿の大司教の仕事の一つなのです」


 アリシアやルイス、ギルにも魔素を感じる力はない(よくわからない)。それでも肌に刺さるような(何かがあることは)重圧を受け(感じる)、緊張が走る。


「……息が苦しいきがしてきた」


 アリシアが体調の不良を訴えると、「ぷるっ!」ラムネがシャボン状に広がり、全員を包む。ラムネのことをよく知らない大司教とソーニャだったが、ギル達の反応を見て、そのままにしようと(問題はないと)決める(判断する)


 そしてさらに奥へと(いったいどこまで)続く階段を降り(下りるんだ)、もう一枚、分厚く装飾の(また大層ご立派)施された扉の前に立つ(な扉がある)。大司教が杖を掲げると、封印の鎖がほどけ、重い錠が外れていく。


「そしてこの扉の奥に封じられているのが……魔王の遺物です」


 開かれた先は、薄暗い空間。中央にぽつんと(ずいぶんと)一つの台座があった(質素な室内)。台座の周囲の魔素はより一層濃くなっており、ドライアイスの煙のようにもくもくと魔素が湧き上がっている。


「台座の上に、何か……」


 アリシアの視線の先に、ひとつの小箱。その中に収められていたのは――


「――指輪?」


 それは宝石もついていない、シンプルな黒い指輪だった。


「えぇ、指輪です」


 大司教の声は低く響く。


「あんな小さなものからこれだけの魔素が……?」


 ユキチが驚愕の(明らかに指輪より)声を上げる(魔素の量が多い)


「触ってはいけませんよ」


 大司教は鋭く言った。アリシアは思わず一歩前に出かけた足を止める。


「歴代の聖人たちが、この指輪を制御しようと挑戦してきましたが……皆、失敗に終わりました」


 大司教の言葉は(過去にチャレンジした)重く響く(人はいるらしい)


「特に、装備すれば何とかなると信じた者は……悲惨な最期を遂げたと聞いています」


 ぞくり、と空気が冷える。


「……そんな危険なものなのね」


 アリシアがごくりと喉を鳴らす。だが、彼女はふと気づいて目を細めた。


「ねぇ、ユキチ。あの指輪のデザイン……あんたの首輪に似てない?」


「――本当だ」


 ユキチが首に手を当てる。黒い中にちらちら(中二男子が喜びそうな)銀色に光る幾何学模様(カッコいいデザイン)革だか金属だか(フラットな塗装で)よくわからない質感(消されたツヤ)。細部は違えど、どこか通じるものがある。


「素材も……意匠も……そっくりだな」


「ってことは……あれも、この首輪と同じ時代につくられた何かの道具なのかな」


「その可能性は高いわね」


 緊張の中で交わした会話だったが、確かに見逃せない共通点がある。――その時だった。


「……っ」


 アリシアの両手が、アリシアの意思とは関係なく前へと伸びる。まるで見えない糸に操られるように。


「アリシア?」


 ユキチが怪訝な(その指輪、触ったら)顔を向ける(死ぬって言ってたぞ)。だが、アリシアは小さく微笑んだ。


「大丈夫。この感覚は……問題ないわ」


 よく見ると、彼女の両手の(お決まりの)刻印が光っている(勝ちパターン)この光はもう何回も(これを破ったのは)体験してきた(リュートくらいだ)


「いつものやつだな」


 ギルが腕を組んでうなずき、ルイスも息を整える。ラムネは邪魔にならないようにシャボンの膜を一旦解除する。


「こ、これが……」


 大司教も話にはさっき聞いたが、実際に目にすると、印象が全く違う。


「大司教、大丈夫ですよ。それより、これから起きること、しっかり見ていてくださいね」


 ギルが落ち着いた調子で告げる。その目は、アリシアを信じて疑わなかった。


 そして、アリシアは深呼吸をひとつすると、両手を掲げ――


「ズ=ッハグ・ネ゛ェル=トクァ、ヒ゜シ・ュル=ァォ、グ、グルゥヴ=ァ=ル=ググル、コォ・ナラ゛=ピシィ=ラフ、クァ=ァム・ルゥゥゥ・ズバグ、エ=シャグ=ク・チョワ=ンォ」


 呪文が封印の間に響き渡った。と、同時に、まばゆい閃光(ゴン太ビーム)が指輪のある台座を貫く。その光は周囲をも照らし、部屋にいた者たちの(みんなの網膜に)影を何重にも映し出す(焼き付ける)


「……!」


 その神秘的な光景に、大司教もソーニャも思わず息を飲んだ(見とれてしまう)


「――ふぅ」


 光りが収まると、アリシアが肩を落として息をつく(試練完了)。台座の上の指輪は完全に沈黙し、あれほど大量に漏れ出ていた魔素が(ドライアイスは)ぴたりと止まっていた(消えてしまった)


「……よし。止まったようだな。――でもまだ、魔素だまりが部屋の隅や通路に残ってるよ」


 ユキチが目を凝して警告する。


「わかった。ルメール、まだ残ってる魔素をみんな食べちゃえる?」


 アリシアが頭の上の小竜にささやく。


「キュイ!」


 ルメールは胸を張るように鳴き、宙を舞うと口を開いた。すると、閃光から逃れた魔素は、次々とルメールの口へ(掃除機に吸い込まれる)


「上の部屋もお願いね」


 アリシアが上を指さすと、ルメールはパタパタと羽ばたき、階段を上って最初の部屋へ。もくもくと漂っていた魔素の霧も、あっという間になくなった(お腹の中)


「けぷ」


 ひと仕事終えて、どや顔で戻ってくるルメール。


「ありがと、ルメール」


 アリシアは頭に戻った小竜をなでてやる。一連の作業を、ただ呆然と見守るしかなかった大司教。指輪の禍々しさも(あれも)、台座を覆っていた重苦しい魔素も(これも)、まるで嘘のように消え去っていた。


「おお……これはまさしく……!」


 大司教は震える声を上げ、その場に崩れるようにひれ伏した。


「聖女様! ありがとうございました! 今までのご無礼……どうかお許しください!」


「ちょ、やめてよ。あたしはそういうのが一番困るの」


 アリシアは慌てて手を振る。


「それに、ご無礼って……別になにもされてないし」


「……あぁ、またこのパターンか」


 ユキチは頭を(昔のギルが)かきながらぼやく(これだった)


「これだから教会関係者は……すぐ平伏するんだよな」


「いえ、あなた様を疑ってしまった私が恥ずかしいのです。このような奇跡を目にしなければ信じられなかったとは……」


 大司教はなおも深々と額を床につけていた。


「もういいわよ。それより、これで試練終了ってことでいいのかしら」


 アリシアが問いかけると、大司教は顔を上げ、力強くうなずいた。


「ええ、もちろんです。そして……どうかこの指輪をお納めください」


「え、いいの?」


 アリシアは目を丸くする。


「はい。この指輪、魔を払いし者に祝福を与えん、という伝承が残されております。聖女様であれば、なおさらお持ちになるのにふさわしい」


 ゆっくりと両手で(あ、もう手に取って)捧げられる黒い指輪(大丈夫なのね)。かつては触れただけで大惨事を引き起こす危険な代物だったが、今や沈黙し、ただ重厚な存在感だけを放っていた。


「……うーん、どう思う?」


 アリシアは仲間たちに目をやる。


「持っとけよ。おれとお揃いになるぜ」


 ユキチが自分の(同じ意匠の)首輪を見せる。


「ふふふ。そうだね。それはいい……じゃあ、ありがたくいただくわ」


 そう言って、アリシアは指輪を受け取り、左手の小指にそっとはめてみる……が、するりと抜けてしまう。


「ちょっとおっきいわね」


 頬をかきながら中指にはめ直すと、今度はぴたりと収まった。


「ふぅ、悪くないじゃない」


 アリシアは何気なく(特に呪われる)手を振ってみせるが(こともない)、その仕草はまるで新しいアクセサリーを自慢する少女のようだ。その様子を横目で見ていたソーニャは、こっそりとギルに近づき、小声で尋ねた。


「ねぇ、あの子……本当に聖女なの?」


 ギルは一瞬、考えるように目を細め、それから肩をすくめた。


「さぁね。でも、アリシアはアリシアだよ。一緒に旅してると……面白いやつさ」


「……それ、答えになってる?」


 ソーニャは首をかしげる。ギルはにやりと笑った。


「なってるようで、なってないかもな。でもな、あいつの正体なんてどうでもいいんだ。気づけば、俺はアリシアと旅をしている。それが答えだろ」


 ソーニャは納得しきれず(嘘は言っていないけど)曖昧な表情を(大事なことは)浮かべたまま黙り込む(ぼかされたような)。――けれど心の奥底では、確かに彼女も感じていた。あのシスターは、ただのシスターじゃない。そして、不思議と目が離せず、応援したくなる存在だということを。

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