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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第6章 ソーマプロジェクト

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第64.5話 アクアパッツァ

 一同は海を無事越えてなんだかんだありながら、ここはゼルギウス大陸。車は海上では思った(何事も試してみないと)ほどスピードが出ず(わからない)、想定では日が沈む前にマシュロ山のふもとの街に着く予定であったが、だいぶ手前の地点で(予定を繰り下げ)キャンプをすることとなった。


「久しぶりのキャンプね」


「そうだな。宿の生活が長かったから、こういうのもいいなって思えるよ」


 アリシアもユキチも久々のキャンピングにテンションが上がってる。


「で、晩飯は誰が作る?」


 アリシアが最重要事項を確認する。正直、このパーティーの面子は皆料理が上手だ。だがそれゆえに、担当をしっかり決めないと収拾がつかなくなる(簡単に在庫切れ)。ちなみに、おかみさんがくれたお弁当は当然、全部食べてしまった(アリシアの腹の中)


「おれが作ろう」


 ギルが手を挙げた(今日はごちそうだ)


「さっき海の上を走っているときに魚を何匹か釣ったから、それで夕飯作るよ」


「え、いつの間にそんなことしてたのよ!」


「アリシアは寝てたじゃないか。みんなやってたぞ」


「わたしは坊主だったけどな」


 ルイスが苦笑する。


「おれは1匹だけ釣れた」


 ユキチは自慢げに胸を張る。ぷる! ラムネも魚籠をぽよんと突いて、自分も獲物を確保したと主張。


「いいなぁ。あたしもやりたかった……」


 アリシアは唇を尖らせた。


「じゃあ、今度は一緒にやろうぜ。海でも川でも、釣り場はそこらじゅうにあるさ」


 ギルが笑いながら調理器具を用意する。


「んで、何作るの?」


 ワクワク顔で(おいしいの)アリシアが質問する(早く食べたい)


「手軽にアクアパッツァなんてどうだ?」


 魚を片手にギルが笑う。


「なにそれ?」


「ざっくり言うと魚の蒸し焼きだな。トマトやハーブがあればもっと本格的になるんだが、まぁ野営だからシンプルにいこう」


「いいじゃない。魚そのまま焼くだけより楽しそうだわ」


 アリシアのお腹は既になり始めている。


「じゃあまずは火おこしから始めようか。ルイス――じゃなくて、アリシア、お願いできるか?」


 久しぶりの(旅に出るときに買った)ファイヤスターターを握って、アリシアは火をつける準備をもう始めていた。


「任せて!」


 しゃっしゃっとファイヤスターターを擦る音。乾いた草に火花が散り、ぱち、と小さな炎が生まれる。


「おおっ、早くなったな」


 ユキチが驚く。初めて火おこしした(ワイバーンを焼く)ときは日が暮れるのじゃないかとはらはらしたもんだ。


「へへーん。この旅で何度も練習したからね」


「じゃ、あたしは夜に使う薪を集めに行ってくるよ」


 ルイスは林の方向へ歩き出す。


「おれはラムネとテント組み立てとくよ。久しぶりだけど、やり方覚えてるかな」


 ユキチはテントの骨を組み立て始める。ぷるぷる、とラムネも手伝う。一方ルメールはというと、いつもの定位置――アリシアの頭の上で我関せずと寝ている。


「それにしても、アリシア、本当に火おこし上手だな。きみは食べるの専門だと思っていたよ」


 淡々と焚き火を育てるアリシアを見て、ギルが感動する。


「当然よ! 火おこしは料理の基本! これができなくちゃ死んじゃうじゃない」


「……? そうだな。随分早く準備できそうだから、おれも下ごしらえ急ぐか」


 アリシアの言っていることはよくわからなかったが、それは気にせず、ギルは慣れた手つきで、魚のひれを切り落とし、ウロコを落としていく(下ごしらえを始める)


「ギル、魚捌くの上手ね。あたし、生の魚はちょっと触れないかも」


「一人旅が長かったからな。こういうのも火おこしと一緒で、慣れだよ。折角だし、1匹捌いてみるか?」


「ううー。今回は見てるだけにする」


「ははは。そのうちな。――ほら、ここにこう切れ目をいれれば、指で簡単にエラと内臓が取れるぞ」


 ギルは魚の腹に切れ目を入れ、指先を入れると、ずるりと赤黒いものが(これはちょっと)取り出される(苦手な工程)


「内臓は栄養分もあるんだけど、生臭さも出るから、今日は捨てちゃうよ」


 話しながらも、ギルの手は止まらない。サクサクと下ごしらえ(この人は料理長だった)を進めていく(のかもしれない)


「そしたら、ここ。この奥の部分、血合いっていうんだけど、軽く切れ目を入れたら、こすって洗い流す」


 魚を開いた(内臓がなけ)奥の部分を見せて(れば怖くない)、アリシアにわかりやすく説明する。


「洗い流しちゃうんだ」


 アリシアが覗き込む。


「あぁ、血合いも内蔵と一緒だな。できるなら食べた方がいいけど、好き嫌いが分かれるとこだな。今度、取った時と取らなかった時の食べ比べをしてみたらいい」


「へぇ、食べ比べとかちょっと楽しそうじゃない」


「そしたら魚の表面に軽く切れ目を入れて、準備完了」


 魚を掲げて、どうだ! と片手を腰に当てるギル。


「え? 骨はとらないの?」


 アリシアが首を傾げる。


「あぁ、骨は取ってもいいんだけど、こっちは良いダシになるから、おれはあえてそのままにするかな。面倒だろうけど、食べるときに取ってくれ」


「えぇー、あたし、骨イヤー」


「まぁそういうなって。この魚は骨太そうだから、そこまで邪魔にならないよ」


「……魚好きな人って、いつもそういう言い方するよね」


 何か嫌な思い出があるのだろうか、アリシアは頬を膨らませて拗ねる。


「まぁ、そういうなって。そんじゃ、お待ちかねの調理始めるぞ」


 そう言うと、ギルはアリシアの作った焚き火の上に、大きな鉄の三脚を立てた。


「なにこれ、面白い」


「このタイプの焚き火調理は初めてかい? ほら、三脚の頂点から鎖を垂らして、そこに鍋をかけるんだ。鎖の長さを変えることで火加減を調整できるんだぜ」


「へぇー! これぞキャンプって感じするわね! こんなもの持ってるなんて、知らなかった」


 アリシアは目を輝かせる。


「普段は折りたたんで荷物の奥に閉まってるからな。ちょっと重いが、こういうときは役に立つんだ」


「ギル、なんか旅慣れてるよね」


 アリシアが感心して呟く。


「だてにひとりで聖地巡礼してないぞ」


 ギルは鍋を鎖にかけ、オイルを注ぎ込んだ。


「で、とりあえず油を熱して――」


「ふんふん」


 アリシアがメモを取るように身を乗り出す。


「にんにくを軽く炒めて――」


「ふんふん!」


 アリシアの鼻が小刻みに動く。香ばしいにんにくの匂いが夜風に広がり、ルメールがむくっと目を開けた。


「魚を投入」


「えっ、丸ごと?」


「丸ごと。これがうまいんだよ。骨からいいダシが出るし、見栄えも豪快だろ?」


「わぁ……すごい音! 香りも一気に変わったわ!」


 鍋の中で魚がじゅうっと音を立て、表面が焼けていく。


「焦げ目がついたら、ひっくり返して――よし。次は野菜なんかも投入だ」


 ギルが手際よく鍋に切った野菜を放り込む。


「今回はアイレーンでもらったキノコなんかも入れちゃおうか」


「おおっ、これ、香りが良かったやつだわ!」


 アリシアが声を弾ませる。


「で、酒を入れて……煮立ったら水を入れて蓋をして、しばらく待つ」


 じゅわっと蒸気が上がり、ふわりと芳醇な香りが広がる。


「お酒? もったいない!」


「そんなに目くじら立てるなよ。ちょっと入れるだけで風味が変わるんだぜ」


「ぬー……」


 アリシアは頬をふくらませる。


「ねぇ、塩は入れなくていいの?」


「海の魚自体が塩分を含んでるから大丈夫。足りなければあとでちょっと足そう。まぁ、最後にグラスノヴァで仕入れたチーズも入れようと思ってるから、そこまで味は薄くならないよ」


「なにそれ、贅沢!」


 そのタイミングでルイスが両腕いっぱいに薪を抱えて戻ってきた。


「薪お待ちー。お! いい匂いだね!」

 

「サンキュー。もうすぐできるぜ」


 ギルが笑顔で応える。コトコトと鍋の蓋が(これは絶対)蒸気で揺れる(うまいやつだ)。アリシアの胃袋はすでに限界、「まだかまだか」と鍋のまわりをぐるぐる回っている。ギルが蓋を開け、鍋の中を覗き込む。湯気とともに、魚とキノコ、野菜の香りがふわりと広がった。


「いい感じだな」


 木のスプーンで軽く混ぜてから、ギルはチーズの塊をざくりと切り分け、鍋に投入する。白いかけらが溶け出し、とろりとスープに混ざっていく。


「アリシア、仕上げにレモン……じゃなかった、聖水をかけてくれ」


「オッケー! 神よ! おさかなさんが大変おいしそうなので、すぐにでも食べたいです!」


 アリシアは聖水を取り出すと祈りを捧げる。


「それは祈りですらない、ただの食欲じゃないか」


「えへへ」


 笑ってごまかすアリシアにギルは苦笑しながらも、鍋を火から下ろす。香ばしい匂いに、ルイスの腹がぐうと鳴った。


「よし、できたぞ。チーズ入りアクアパッツァ、完成だ! ユキチ―、ラムネ―! ごはんができたぞー。テントは張れたかー?」


「おー、あとちょっと!」


 ユキチの声が暗がりから返ってくる。ぷるぷるっとラムネも元気よく揺れた。ルイスは手際よく食器の用意をする(食事の準備を始める)


「はいはい、お皿はこっちね。スプーンは数が足りてるかしら……よし」


 その慣れた動作に、アリシアはふと笑みを漏らす。まだ出会って1か月も経っていないのに――テーブルを囲む姿は、もうずっと一緒の仲間(ちょっとした家族)のように感じられる。


 ぱちぱちと焚き火が鳴り、その脇のテーブルでできたてのアクアパッツァをお皿によそう。おいしい湯気が鼻の奥を刺激する。テントを張り終わって「はらへったー」とこっちに走ってくるユキチとラムネを呆然と見ながら小さく呟いた。


「……こういう旅も、悪くないな」


 それは奇遇にも、ヒルタウンからグラスノヴァへ向かう途上で、ユキチがぽつりと洩らした言葉とまったく同じものだった。

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