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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第4章 窮地と再起

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第51話 再起

「飲みすぎた……。頭が痛い……」


 ルイスは朝から布団の上(二日酔い)で呻いていた。青ざめた顔で頭を抱え(ベッドの上で転がり)、何度も「うう……」と呻く。


「ほらほら、元気出して、今日も一日がんばろー!」


 アリシアはいつもの調子で、サクっと起き上がった(元気ハツラツ)彼女の顔には(二日酔い?)影も見えない(なにそれ?)


「おまえはいつも元気だな……」


 ユキチはふらふらと椅子に腰掛けながら水を飲む(しんどそう)。緑色の肌がさらにくすんで見える(顔色が悪い)


「……俺も昨日は飲みすぎた……まだ世界がぐるぐる回ってる……」


「ユキチ、こういうときこそ丹田に気を集めるんだ。そうすれば、食べすぎや飲みすぎの影響を軽減できるぞ」


 涼しい顔でギルがアドバイスする。


「……マジかよ。……うぇ……気持ち悪くて集中できねぇ……!」


 ユキチは目を閉じて気を練ろうとするが、頭痛が邪魔をして(とても無理)、すぐに諦めた。その姿を見てガラムは「修行不足だな」と愉快そうに笑う。


「それにしても昨日は、おれたちリンダにはめられたんじゃないか? まさか一晩の食事で50万ゴールドも請求されるとは……」


 ユキチが額を押さえながらぼやいた(絶対ぼったくりだろ)


「本当に。もはやおれの年収だよ。まさか手持ちが足りなくて、商業ギルドのメンバーカードで借金することになるとはな。ちゃんと返済しないと、オルネアに合わせる顔がない」


 ギルが嘆く。


「なに被害者ずらしてんだよ!」


 ユキチがつっこむ。


「そもそも、あの店に連れて行ったのお前じゃねぇか!」


「そうだったっけ?」


 とぼけるギル。にやりと笑って(記憶にございませーん)、わざとらしく首をかしげる。


「とぼけるな!」「おまえー!」「ギルーー!」


 ユキチとアリシア、ルイスの声が重なり、だんだんとみんなエンジンがかかってくる。


「ま、借金なんてまたアーチヘイブンでひと稼ぎして返せばいいのよ」


「……アリシア、その考え方は一番良くないぞ」


 ルイスが首を振ってアリシアの肩に手を置く。



「おはよう、みなさん」


 扉が開き、ニシムラが部屋に入ってくる。


「昨日はずいぶん羽目を外したようじゃな。みんな、体調は大丈夫かな?」


 ニシムラの隣には、同じく頭を押さえている(酒が抜けていない)ガラム。


「……みんな情けないわねぇ……」


 アリシアがやれやれといった表情。


「ユキチ君、今日は君の義手について相談したいのじゃ。よければ皆さんも、我が工房を見学していってはどうかの」


 そう言って、ニシムラは部屋を出て、更に奥の部屋(エリュシオンの最深部)にユキチを案内する。――そこには見たことのない機械や、道具がずらっと並んでいた。バチバチ! と火花が散る作業台を囲んで技師たちが忙しく動き回っている。ユキチが雰囲気に圧倒されて(呆然として)いると、奥から白衣姿の技師が駆け寄ってきた。彼がここの工房の技師長らしい。


「ユキチさん! お待ちしておりました! イリュシオンの魔道具工房へようこそ!」


 その手には試作品の義手が抱えられている。そして、技師長は慎重な口調で(ユキチに気を遣って)言葉をつづけた。


「ただ……ゴブリン用の義手というのは、我々も初めての試みでして。身体構造や魔素の流れ、人間とは微妙に違います。ですので、いきなり完成品を仕上げるのではなく、ユキチさんと一緒に少しずつ調整しながら組み立てたいと考えています」


 ユキチはなくなった左腕のをなでながら、頷く。


「……もちろん。こちらこそ、よろしく頼む」


「ありがとうございます!」


 技師長はぱっと顔を輝かせ、すぐに図面を取り出した。そこには何通りもの義手の設計図が描かれている。


「いくつかパターンを考えてきました。例えばこちらは軽量型で、冒険向きです。こっちは魔法石を多く組み込んだ強化型。ただし重いので長時間の戦闘には不向きです――」


「おいおい……まるで武器屋のカタログじゃねぇか」


 ユキチは苦笑する。


「折角の機会です。ただの義手ではなく、ユキチさんにあった、冒険の助けになるような機能を備えたいと思っています」


 色々試したいようで(こんな機会滅多にない)、技師長の目はキラキラしている。ニシムラも頷いた。


「日数は少しかかるかもしれんが、ぜひとも悔いのない一品を作ってもらいたい。――それはユキチ君のためだけでなく、工房の技術向上にもつながるじゃろうて」


「そんなこと言われると、遠慮なく張り切っちゃうぞ」


 ユキチもなんだか楽しくなってくる。後ろからこっそり覗いていたアリシアが口を挟む。


「ねぇねぇ、料理モードとかはないの? 野菜切るとか、火を噴くとか――」


「アリシア、おまえ、人の手だと思って好き勝手言ってないか?」


 ユキチが苦笑する。



 ――それからは、目まぐるしくも充実した日々が過ぎていった。みんなでラパパパンのところに修行に出向いてみたり、地下の訓練場で、総当たりの組手を繰り返したり。特訓の合間を縫ってはユキチの義手の調整。そして夜になると――イリュシオンの街で飲み歩く。


「かんぱーい!」


「うぇーい!」


 飲み会ではなぜかリンダまで当然のように席にいて、乾杯の輪に加わっていた。


「お前、いつから飲み仲間になったんだ……?」


 ユキチが呆れると、リンダはにやりと笑う。


「だって楽しそうなんだもん。ねー、ルイスちゃーん?」


 リンダのその態度には悪意がなさそうだった。あの日の尋常じゃない請求(50万ゴールド)あの店(萌え萌えバニー)ではひょっとして普通のことなのだろうか――ユキチはもう深く考えないようにした。ともあれ、着実に再起の(この街を離れる)準備は整っていく(日が近づきつつある)


 ――そして数日たったある日、ニシムラが一同を地下研究室に集めた。ユキチの左手には最新型の義手がセットされている。灯りがゆらめく部屋に全員がそろうと、ニシムラは杖を軽く突き、静かに口を開いた。


「よく集まってくれた。今日は、今まで調べてわかったことを伝えたいと思う」


 真剣な表情のニシムラに、みんな緊張する(真面目モード)


「まずは頼まれていたサイトー君についてじゃが、残念ながら消息を掴むには至っていない。だが、わしの同郷出身であることは確かじゃろうて、引き続き知り合いをあたっていくつもりじゃ」


 サイトーの消息については期待はしていなかったが、ニシムラにこういわれると、その難易度を思い知らされる。とはいえ、まだ線が切れたわけではない。ニシムラの報告を気長に待つとしよう。


「そして次に、ユキチ君についてじゃが、色々調べてみたところ、君はサイトー君にただテイムされたゴブリンというわけではないようじゃ。君がつけているその首輪、それにはサイトー君の意思と力が込められておる。わしも初めて見る技術じゃ。非常に興味深い」


「サイトーの……意思と……力?」


 ユキチがそっと首輪に触れる。外れないとは思っていたが、まさかそんな特殊なもの(サイトーの置き土産)だったとは。壊さなくてよかったと、胸をなでおろす。


「ユキチ君、君は感じたことはないかの? 普通のゴブリンにはない感覚を」


「……ああ」


 ユキチは思わず(そう言われれば、)うなずいた(おれは普通じゃない)


「時々あるよ。人の言葉を話せるのもそうだけど、目の前のものが食べれるかどうかわかったり……そういうことだよな」


「そうじゃ。それらはサイトー君が君に与えた能力じゃろう」


 ニシムラはゆっくりと頷く。


「ほかにも色々な仕込みがありそうじゃが、それを使いこなすのはユキチ君のこれからの課題じゃな。わしが調べたところ、すぐに使える機能が一つ見つかったので、この後教えてやろう」


 ニシムラはユキチにやさしくほほ笑む。そして、一度咳払いをしてから、視線をアリシアに移した。


「次に、アリシア君について――じゃ。アリシア君が“聖女”かどうかは、正直わしにも判別できなんだ」


 ニシムラはゆっくりと(そもそも聖女の定義が)首を振った(わからない)


「だが、アリシア君にもガラム君と同じく、魔素への適合才能があるようじゃな」


「え? あたしも?!」


 アリシアの目が大きく見開かれる。


「ただし、ガラム君のように刻印が暴走して肉体をむしばんだりはしておらん。むしろ――君に刻まれた印は、不思議と定着しておる。――それに加えてアリシア君の刻印を通じた“上の世界”とのリンクも確認できておる。今はまだ一方的なものなようじゃが、巡礼を続け、刻印を集めることで、より多くのことが見えてくるはずじゃ。ここ、サンクティオ大神殿のお告げにあったように、このまま進むのが一番の道なのじゃろうな」


「ニシムラさん、それはつまり、アリシアもぼくみたく魔王候補に祭り上げられる可能性はあるということだろうか?」


 ガラムが心配そうに尋ねる。


「魔族の考えはわからんが、アリシア君には魔素適合の才能はあるものの、ガラム君のように体内で魔素を増殖させる体質というわけではない。おそらく魔王候補として注目される可能性は低いじゃろうな」


 ガラムは胸をなでおろす。ついでにアリシアも。兄妹そろって(何の因果で魔王の)魔王候補とか(座を目指すのか)、冗談じゃない。――ニシムラは続ける。


「今までのお告げにあった“星の卵”や“聖なる盃”については、残念ながら情報が不足しておる。文献を漁っても大した収穫は得られんかった」


「じゃあ、どうすれば……」


 アリシアが心細そうに口を尖らせる。


「答えは単純じゃ。巡礼の最後に、上の世界そのものに直接問うことじゃな」


 ニシムラの言葉は重く、しかしどこか希望を含んでいた。アリシアはしばし考え込み――やがてぱっと顔を上げた。


「そうね! がんばって巡礼終わらせちゃいましょうか!」


 その言葉に、ユキチ達も頷く。ニシムラは深く息をつき、全員を順に見渡した。


「そして最後に――今後についてじゃが……今の君たちでは、まだリュートには太刀打ちできん。あれは常軌を逸した存在……正面から挑めば、まず勝ち目はない。現に、無限に近い魔力で禁書を使いこなすガラム君でも勝つことは困難じゃ」


「……」


 全員が黙り込み(あいつは本当に)重苦しい沈黙が落ちる(化け物なんだな)


「そこでだ」


 ニシムラの視線がガラムへと移った。


「ここにいるガラム君が、君たちが巡礼を終わらせるまでの間、時間稼ぎをしてくれる。リュートの意識が逸れている間に、君たちは巡礼を終わらせ、先ほど言った“上の世界”とのリンクを確実にするのじゃ」


「時間稼ぎって……ガラム、大丈夫なの?」


 アリシアの声に不安がにじむ。


「任せておけ! 勝てないけど、負けることもない。そういう戦いならぼくでもできるさ」


 ガラムは拳を打ち鳴らし(自信満々に)、笑ってみせた。


「と言いたいところだが……頑張って数週間ってとこだな。それ以上長引くと、こちらの意図をリュートに気取られてしまう」


「数週間……それで残りの二つの刻印を集めるのは、不可能じゃないか?」


 ユキチも流石に、プランに無理が(聖地巡礼ってそんな)あるように感じる(軽いもんじゃねぇよな)


「そう思うじゃろうな――じゃが、そこでユキチ君の新しい力が役に立つのじゃよ」


「新しい力?」


 いぶかしがるユキチに、ニシムラの目が鋭く光る。


「そうじゃ。先ほどわしが言いかけたユキチ君の首輪の隠れた機能じゃが、ユキチ君が持っている地図と連携させることで、過去に行った場所に移動することができるのじゃ」


「……え?」


 ユキチは声が出せない。


「うむ。その首輪と地図はペアになっておっての、地図で色がついている、過去に行った場所なら、ユキチ君の指示でどこにでも飛ぶことができるのじゃ」


「すごい。禁書もびっくりのチート能力じゃない」


 アリシアが目を輝かせる。


「そうじゃな。ひょっとすると理論は同じなのかもしれん。――ともあれ、今大事なのは"どうして?"ではなく、"何ができるか?"じゃ。ユキチ君の場所移動の能力を使えば、アウラリエ大神殿があるゼンブレア大陸にすぐ飛べる。ゼルギウス大陸のエーリス大神殿は訪れてないので、移動しなければならんが、グラスノヴァから北上すればすぐじゃろう。手際よくいけば、1週間ほどであと2つの刻印を手に入れることができるはずじゃ」


「……たとえばさ」


 アリシアが口を開いた。


「お兄ちゃんがユキチを連れて、エーリス大神殿に飛んで地図に記録を残すことはできないの?」


 いいじゃんそれ、ユキチは思った。


「それは無理なんだ」


 ガラムは首を振る。


「禁書の瞬間移動の力は、使用者が味方であれ、敵であれ、意識している者の場所にしか行けないんだ。――つまり、ぼくの場合、アリシアとルイス。そして、ニシムラと……リュート。この四名しか移動先として指定できないんだ」


「そうなんだ。万能って訳ではないのね……」


 残念がるアリシア。ガラムは口に出さないが、おそらく千里眼の能力も似たような感じで制限はあるのだろう。


「それにしても、アイリさとルイスはわかるけど、ニシムラとリュートね……」


「意識してるわけじゃないんだけど、勝手にそうなっちゃったんだよね」


 ユキチが小声でぼそりと突っ込み、ぽりぽりと頭をかくガラム。そしてその場に静けさが戻る。リュートとの決戦までの限られた時間――仲間たちはそれぞれの胸に、重い覚悟を刻み込んでいた。


「よし。じゃあ、早速この地図の使い方を教えてくれよ」


 ユキチは地図を取り出すと、ニシムラに話しかける。


「もちろんじゃ……ちょっと事前準備が必要じゃから、まずはこちらに来てもらえるかの」


 ユキチはニシムラに案内され、工房に消える。


 ――聖地巡礼も、いよいよ後半戦。リュートの目をくぐり抜けながら、アリシアたちは果たして刻印を集めきることができるのか? 冒険の新たな幕が、静かに上がろうとしていた。

リュートに完膚なきまでに敗北したアリシア一行。

アリシアの兄、ガラムの助けで九死に一生を得る。

果たしてアリシアたちはガラムが時間稼ぎをする間に

聖地巡礼を終わらせることができるのか?

そして刻印の先に思いは届くのか?


次章、『世界樹と天使』

お楽しみに!

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