第50.5話 萌え萌えバニー
「あー疲れた」
ユキチが大きく背をそらし、腕をぐぐっと伸ばす。肩からごきごきと音がした。おむすびを食べたあとは、気を身体に巡らせた状態で、組手の修行を半日びっしり行った。血液の流れを意識すると、普段意識していなかった筋肉の動きなども見直す効果もあり、ユキチはこの一日でだいぶ強くなった実感はあった。
一方アリシアも昼食を取った後は、ニシムラの質問攻めと、刻印だけでなく身体の隅から隅まで検査の半日だった。何をしたわけでもないが、とにかく疲れた。
そして、二人で模擬戦をしていたルイスとガラムとも合流したアリシア一行は、地下研究所を出て、みんなでイリュシオンの夜の街並みを歩いていた。
「なにこれ! すごいんですけど?」
アリシアが目をまんまるにして声を上げる。
「夜なのに、すごい明るい! アーチヘイブンもすごいと思ったけど、イリュシオンはそれ以上だな」
ルイスも感嘆の声をあげる。
「ひょっとして、あの光は全部魔素で光らせてるのか?」
ユキチがギルに質問する。
「そう。おれも詳しくは知らないが、魔素のエネルギーを取り出して、色々手を加えるとこうなるみたいだ。ほら、明かりだけじゃなくて、炎や水流なんかも魔素で操ってるんだぜ」
確かに、昼は気づかなかったが、 確かに通りの角では、魔素を使った噴水が虹色に光りながら水を踊らせ、屋台の鉄板では青白い炎が食材を焼き上げている。
「魔素って黒いもやもやのイメージあったんだけど、使い方次第ではこんな風にもなるんだな」
ちょうど魔素の扱い方を学んだユキチ。その奥の深さに驚愕する。
「すごいわね。それにしてもこれだけの魔素、どうやって集めてるのかな? 魔素って大気中に少しあるくらいよね。あとは魔物が持っているって聞いたことあるけど」
アリシアはチラッとユキチを見る。
「イリュシオンから少し離れたところの地下に高純度の魔素を含んだ鉱石――魔石ってやつだな、それが大量に採れるんだ。ここではそれを加工して街のいたるところに使っているんだよ。決して、魔物を使ってエネルギーに変えてるとか、そんなことはしてないからな」
ガラムが、説明しながらユキチを安心させる。
「なるほどね」
そういえば、師匠も、人間は魔石を使って魔素をどうこうとか言ってたな。ユキチは昼飯前のやり取りをぼんやりと思いだす。
「だから、この街は魔素工学が発展しているんだ。通称、――魔工都市イリュシオン」
ガラムが得意げに手を広げる。
「魔素工学は使い方によってはかなり危険だから、ここの魔道具は厳重に管理されているんだぞ。街の外に持ち出しなんてもってのほか。それに、部外者がこの街に入るには、本来ならすごく面倒な手続きが必要なんだ」
ギルが腕を組み、話を付け足す。
「え、あたしたちはサクッとは入れたけど?」
アリシアが首をかしげる。
「そこはガラムに感謝だな。いきなり内側に入れたのは本当にラッキーだったよ」
ギルのコメントにガラムがうなずく。
「ふっ、まぁ俺の顔パスってやつさ」
ガラムが鼻を鳴らすと、みんな笑った。
「それにしても、みんなずるい」
アリシアがむくれる。
「ユキチたちは修行にかこつけて、お酒を飲んでたんでしょ? ルイスはお兄ちゃんとデートしてるし」
「デートだなんてそんな。模擬戦をしただけだよ。一方的にコテンパンにされたけどな」
ルイスはあわてて言い訳をする。
「でも、なんかスッキリした顔しちゃって」
「ほんと、雰囲気変わったよな」
ユキチもうなずいた。
「いいことだと思うぜ」
ギルがにやりと笑う。
「そして俺たちも、修行は決して楽なもんじゃなかったんだぜ。――というわけで、今日の夕飯は、師匠お勧めの店に突撃しようじゃないか!」
「ほほう? そこはおいしいのでしょうな? 地下研究室のパン食はもう質素すぎてつらかった……」
泣きまねをするアリシア。ギルの言うお店に興味津々だ。
「ここだ」
ギルが立ち止まる。そこには――
<魔女喫茶 萌え萌えバニー>
ギラギラとしたネオンと音楽、そしてスモークがたかれ、どこか幻想的(?)な趣のある入り口。
「なぁ、ギル。本当にここか?」
ルイスが怪訝な顔をする。
「ははは、昔、師匠に教えてもらったお店だ。ちょっと見た目が変わった気もするけど、大丈夫だろう」
「本当かよ……師匠がここに来るとは思えないんだが……」
ユキチは絶妙な塩加減のおむすびを思い返しながら、思わず額を押さえる。入口に入ったとたん、音楽のボリュームが上がる。アリシアはごくりと唾をのんだ。紫色の照明で彩られた店内は、妖しい香水の匂いが漂っており、広いテーブルなのになぜか密着している男女が多い。
店に入った途端――
「お帰りなさいませぇ♡ ご主人さまぁ♡」
うさ耳のキャストが、無駄にもじもじとしたポーズを取りながら案内に来た。胸元と股間がきわどい。魔女要素はどこへ……もうよくわからない。
「……」「……」「……」
一行の間に、妙な沈黙が流れた。
「なぁ、本当にここでいいのか?」
「確かになにかが変だな……まぁ、料理は変わってないだろう」
ユキチの質問に、ギルは気楽に言って、スタッフに人数を告げる。
「4人と従魔が3匹だけどいいか?」
「はーい。7名様、ごあんなーい♡」
どうも従魔も1人としてカウントされるようだ。結構色んな客が来るのだろうな。ちょっとした気配りに納得するユキチ。キャストの案内で店内を歩く。薄暗い店内ではそこかしこで談笑の声が聞こえる。店の真ん中は円形のステージになっていて、これまたきわどい衣装のバニーが、サーカスよろしく中央につきたてられた棒に絡まってくるくる回っている。
アリシアは圧倒的な店の雰囲気に飲まれながらもワクワクし始めた。この店は高いぞと思いつつ、決して口にしないガラム。一同が案内されたのは、ピンク色のライトに照らされた10人用のテーブル席。
「こちらでーす。あら、かっこいいお兄さんとお姉さんたち♡よろしくお願いしますねー♡」
テーブルにはまた別のバニー姿のスタッフがいて、アリシアたちは席に着くと、当然のようにギルとガラムの間に腰を下ろす。
「よろしくお願いしまーす。あたし、リンダでーす♡」
「アリシアです」「ギルだ」「おれ、ユキチ」「ルイスだ」「ガラム」「ぷるぷる!」「キュイ!」
リンダの距離の詰め方に圧倒される。終盤はもはや自己紹介なのかどうか怪しい。
「やだ、何この子たち? かわいいーー!」
リンダは思わずラムネをつつき、ルメールの頭をなで回す。ラムネは困惑気味にぷるぷる震え、ルメールは目を細めて喉を鳴らす。
「……なぁ、ギル大丈夫か? おれたち、場違い感ハンパないぞ」
ユキチが小声でつぶやく。
「ま、まぁまぁ。とりあえず乾杯しようじゃないか」
冷静を装いギルは強引に話を進める。
「喉かわいちゃった。あたしもお酒頼んでいいかしら?」
「じゃあ、飲み物頼もうか。どれがいい?」
ギルがメニューを広げ、みんなに見せる。
「あ、グラスノヴァのお酒があるよ! ギル!」
「いいね。それを人数分もらおうか」
「オッケー! それならハイボールがおいしいよ」
「ハイボール? よくわからないけど、それで」
「あ、この子たちには……えーっと、この<ぱちぱちハニーレモンソーダ>ふたつで」
「はーい。すみませーん! 二十一番卓、グラスノクスをハイボールで6個と、ぱちぱちハニーレモンソーダふたつ!」
リンダがウェイターに元気よく声をかける。
「よろこんでー!」
厨房からも元気な声が返ってきた。ユキチがそっとギルに耳打ちする。
「なぁ……ひょっとしておれたち、この女の酒代も払うのか……?」
「たぶん……昔来た時はこんなシステムではなかったのだが」
「……」
「まぁ、せっかくだ。色々話を聞いてみよう」
内緒話はそこで終了。飲み物がテーブルに運ばれる。
「それじゃ、今日の出会いに――カンパーイ!」
リンダの音頭で乾杯する一同。ハイボールとはお酒をパチパチしたお水で割って、氷を入れた飲み物らしい。
「あ……おいしい。グラスノヴァにいたのに、こんなおいしいお酒知らなかったよ。しかもこのハイボールって、飲みやすい。何杯でも行けちゃうかも」
ハイボールを一気に飲み干すアリシア。
「なぁ……ここって喫茶店だよな?」
お酒は確かにおいしいが、不安になるルイス。
「どうなんだろうな」
物知り顔で笑うガラム。
「ところで、皆さんはどんな集まりなんですかー?」
リンダが首をかしげて聞いてきた。確かに種族も職業もバラバラ。はたからは何のグループかわからないだろう。
「基本的に旅仲間だよ」
ユキチが答える。
「いま、聖地巡礼中なの。オルテリス大陸から始まって、カルドリア大陸を通って、ちょうど昨日トルメニア大陸に来たとこ」
アリシアが無邪気に補足する。
「へー、コスプレかなーと思ってたけど……アリシアちゃん、本物のシスターなんですねー! すごーい!」
リンダが目を輝かせてほめたたえる。まぁ、普通のシスターはこんなところ来ないわな。と思いつつ、ユキチはちびちびとハイボールを飲む。もう一人のコスプレおじさんが顔を上げてリンダに質問する。
「リンダちゃん、ところで、ここでおいしいご飯は何かあるかな? 昔、オムライスがおいしかった記憶があるんだけど……」
「お、裏メニューを知ってるなんて……さてはギルさん、ベテランだね!」
リンダがにやりと笑うと、ギルにもたれかかる。豊満な胸部がギルに押し付けられた。
「おっととと、リンダちゃん、もう酔ってるのかい?」
「もう。わかってるく・せ・に♡」
リンダがギルの太ももに手を置いた。
「ふふ……いけない子だな。そういうのは独りで遊びに来たときにな」
ギルは大人を演じてリンダのアプローチを受け流すが、心臓はバクバクだ。この店、なにかがおかしいが、時すでに遅し。
「もしよければ、あたしがおすすめ色々頼もうか? みんな、お腹は減ってる?」
「ぺこぺこー!」
アリシアが即答する。
「オッケー!」
リンダは元気よく手を挙げ、奥へ注文を飛ばした。
――数分後。
「お待たせしましたー!」
大皿に盛られたオムライス、魔素の炎で炙ったチキン、紫色の輝きを放つサラダ、そして名前もわからないきらびやかなスープまで、テーブルの上に所狭しと並んでいく。なんだかすごい見た目だが、ユキチの毒センサーは問題なし。
「うわー! すごい!――いただきまーす!」
アリシアは目を輝かせ、スプーンとフォークを手に取る。
「――アリシアちゃん! ちょっと待ってね! このオムライスには秘密があるのです! これからリンダが魔法をかけまーす!」
リンダがすっと立ち上がり、ケチャップを握る。
「おおっ、秘密? 魔法?」
アリシアの目がキラキラ光る。ユキチが半目で見守る中、リンダは真剣な顔でケチャップを振りかざし、呪文のような言葉を唱えながらオムライスの上に大きなハートを描いた。
「おいしくなーれ、萌え萌えキュッ!」
最後に両手でハートを作って、にこりと微笑んで、オムライスを取り分ける。
「はいどーぞ♡」
「なにこれー! たのしー!」
アリシアは大喜びで拍手する。目を輝かせて「今度はあたしもやってみたい!」と、リンダからケチャップを奪う。ついでに懐から聖水を取り出す。「……」「……」ユキチとギルは無言で顔を見合わせて、やれやれと笑う。
「いくわよ! 神よ! 無垢なる卵料理に、純真なるトマトの情熱と、神聖なる清涼感を与えたまえ! 熱愛!神聖卵飯!」
神々しいポーズのまま、ケチャップでユキチの皿のオムライスにハートを書く。
「おいおいおい、そういうのは自分の皿でやってくれ! ハートが崩壊してるし!」
「ははは、これはこれで芸術じゃないか」
嫌がるユキチと、それを見て大笑いするギル。この時の彼らは知る由もないが、この後できる系列店「魔女喫茶 萌え萌えシスター」で、熱愛!神聖卵飯が看板メニューになり、イリュシオンを席巻するのであった。
「ほらほら、ルイスちゃんもやっちゃう?」
リンダがアリシアからケチャップを返してもらうと、ルイスに差し出す。
「ぼくもルイスにもやってほしーなー。“わたしは関係ないです”って顔しないでさ」
酔いの回ったガラムが絡む。
「え、わたしはいいよ……」
「だーめ! ルイスもやろーよ!」
今度はアリシアも絡んできた。
「くっ……なんだこの絡み酒兄妹」
ルイスは苦笑しつつも、ケチャップを手に取る。
「わ、わかったよ……。いくぞ。おいしくなれー、萌え萌えキュ♡」
ケチャップを持ったルイスの巨体がくねくね踊る。
「きゃー! かわいいー!」
アリシアがテーブルを叩いて大はしゃぎする。
(くっ……やばい、ちょっと笑いそうだ)
ユキチが口元を押さえる。
(修行で培った精神力が試される時だな)
ギルも下を向いて震えてこらえる。一方、オムライスにハートマークを書いてもらったガラムはうれしそう。
「やったー! おいしそー!」
――その時だった。店内の照明が落ちて、音楽も止まる。
「なんだなんだ」
アリシアたちはきょろきょろする。
『紳士淑女のみなさま! お待たせしました! 魔女喫茶のマジカルタイム、スタートです!』
すると、ステージに照明があたり、店内のバニーたちが集まって踊りだす。
「あたしもちょっと行ってくるね。応援してね♡」
投げキッスをしながら、リンダもステージに上っていく。アリシアもユキチもダンスのことはよくわからなかったが、ショーは最高だった。音楽に合わせて色が変わる照明。突然変わる衣装。空を飛ぶバニー。手拍子する観客。
「なにこれ、すごいすごい! リンダ―! くぁわいいよー!」
アリシアたちも総立ちで拍手する。ラムネとルメールも音に合わせて踊る。
「もーりあがってまいりました! いよいよ! 今夜の魔女っ娘クイーンの発表です!」
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
ダラララララララ……店内にドラムロールが響く。ジャーン! シンバルの音と共にライトアップされたのは……ルイスだった!
「え? え? え?」
ルイスは呆然としている。
「おめでとうございまーす!――はい! では魔女っ娘クイーンはこちらにお越しください!」
アナウンスと共に、リンダがルイスの手を引く。
「お、おい」
「いいから、いいから」
そんなルイスをうらやましそうに見るアリシア。手をひらひらと振る。
「いいなー。いってらっしゃーい」
ガラムも楽しそうに一緒に手を振る。ラムネとルメールは我関せず。そしてショーは続き、音楽の曲調が変わると――
「なぁ、アリシア」
「なに?」
「あそこでステージに上がろうとしてるの、ルイスじゃねぇか?」
ユキチが目ざとく見つける。――確かにルイスだ。だが、その恰好はうさ耳を付けたバニー姿。当然のように胸元が強調され、股間もなかなか扇情的。耳を真っ赤にしている。それを見て、ガラムも飲んでいたお酒を吹き出す。
「なんでわたしが、こんな格好を……」
こんな屈辱、初めてだ。ぶつぶつつぶやきながらステージに上がるルイス。
「ルイスちゃーん! こっち見て―!」
アリシアのヤジが飛ぶ。
「あの格好は、アリシアには無理だったな」
容赦のないユキチの一言がアリシアのない胸を更にえぐる。
「あ、あたしだって、脱いだらすごいんだから」
言い訳をするも、一緒に温泉に入ったことを思い出し、一人で勝手に轟沈する。
ルイスはルイスで、裸よりも恥ずかしい恰好で、ステージの一番目立つ中央で踊っている。「うおおおおーー!」客席からは野太い歓声が上がる。アリシアも気を取り直して声援を送る。ルイスにとっては永遠とも思えた地獄が、やっと終わろうとしている。
「マジカルタイム、これにて終了でーす! 魔女っ娘クイーンのお姉さん、ありがとうございました! 最後にお名前を聞かせてください!」
マイクがルイスに渡される。
「――ッ!……ル……ルイス……です……」
「みなさん、魔女っ娘クイーン、ルイスに今一度盛大な拍手を―!」
「うおおおおー! ルイスちゃーん! 愛してるー!」
全く知らないグループからも声援が飛ぶ。
「すごい! ルイス、モテモテだぁ」
アリシアも自分のことのようにうれしそう。
「し……死にたい……」
ルイスの羞恥心はもうキャパオーバーだ。
「ルイス、お疲れさま~。あれ? バニーはもうやめちゃったの?」
テーブルに戻ってきたルイスは普通の恰好に戻っていた。バニーの耳が付いているのを除いて。
「あんなとんちきな格好、やってられるか」
ルイスは吐き捨てるように言って、バニーの耳を外してアリシアにつけてあげる。
「え~、かわいかったのに」
残念そうに言いつつも、バニーの耳をもらい嬉しそうに着けるアリシア。
「本当に、ルイスちゃん、かわいかったよ! 魔女っ娘クイーンのご指名、おめでとー!」
リンダも席に戻ってきてリンダに抱き着く。
「やめろ! もう!――これではお嫁に行けん……」
両手で顔を覆うルイス。"ほれ、なんか言えよ"と、ガラムをヒジでつつくギルとユキチ。
「ルイス……その……かわいかったぞ」
「ガラム……おまえまで……」
「いや……本当のことなんだが……できるなら、ぼくがお前を……」
しかし残念ながら、ガラムの声はルイスに届いていない。飲まずにいられるかと、ルイスは酒を一気飲みしている。そんなガラムとルイスを横目にみながら、ギルがリンダに声をかける。
「リンダちゃん、そろそろ〆といきたいのだが……まだあるかな? かき氷パフェ。まだあるなら、あれを頼むよ」
「かき氷? 何それ?」
アリシア、ユキチ、ルイスは首をかしげる。ガラムだけがニヤリと笑った。
「お、流石ギルさん、分かってるね。みんなでシェアする感じでスペシャルで行っていい?」
リンダがにやり。
「よくわからんが、それで頼む」
ギルがうなずくと、リンダが高らかに叫んだ。
「すみませーん! 二十一番卓様、スペシャルかき氷パフェ一丁~!」
「うぇーい! スペシャルかき氷パフェ、サンキュー!」
――すると、店内の照明が一斉に落ち、代わりにカラフルなライトが回り出す。奥からスタッフがぞろぞろと登場し、リズミカルに手拍子を始めた。
「こんどはなんだー?」
アリシアは椅子から立ち上がり、すでにノリノリだ。ライトアップされたステージに現れたのは、巨大な氷の塊。そこにマッチョな料理人たちが掛け声とともにかんなを入れる。
「すごい! あんなに大きな氷の塊、見たことない!」
これにはルイスも大興奮。
「はいはいはい! 削っちゃってー!」「ララララー! 楽しい夜をー!」スタッフの歌と掛け声に合わせ、氷はどんどん削られ、大きな器に積み上げられていく。その上からカラフルなシロップが豪快に滝のようにかけられる。更に、巨大なアイスクリームがどーんと乗せられて、チョコレートソースとキャラメルがこれでもかとドバー! とトッピング。
「最後に花火いっちゃいまーす!」
リンダが花火を何本も刺して火をつける。
「お待たせしましたー! ご主人様! お嬢様! みんなで、せーの! 萌え、萌え、ファイヤー♡」
ドーン! ステージの上で火花が散り、紙吹雪が舞い上がる。テーブルに運ばれてきたのは、まるで山のような巨大パフェ。
「うわぁー! すごーい!」
アリシアは目をハートにして両手を叩き続ける。ルイスも思わず口をあんぐり開けて見入っていた。ラムネはぷるぷる震えて前に出て、ルメールは「キュイー!」と跳ね回る。
「こ、これは……すげぇ」
注文したギルすら感動している。ただ一人、ガラムだけが顔をひきつらせていた。
「……」
ユキチはちらりとそんなガラムに小声で声をかける。
(なぁ、これって……)
(……ああ、結構すごいと思うぞ)
ガラムは神妙な顔でうなずく。――アリシアたちは、この後に届く請求書の金額のことを、まだ何も知らなかった。




