表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第4章 窮地と再起

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/97

第49話 魂の試練

 翌朝。用意された朝食は、黒パンと冷たい牛乳だけという実に簡素なものだった。


「……こんなんじゃ元気でなーい」


 アリシアはパンをかじりながら、思わず口を尖らせる(不満げ)ここ(イリュシオン)に来てから、パンとスープ(シンプルな食事)しか食べてない。ユキチは横で無言でパンをかじり、ラムネとルメールは牛乳をおいしそうに飲んでいる。ギルとルイスも「まぁ教会の朝飯なんてこんなもんだろ」と苦笑していた。


 食後、アリシアはニシムラに連れられて大神殿へ向かう。と言っても、地下施設のすぐ上なので、外に出ずに目的地に到着してしまう。窓からの日差しで(今まで感じなかったが)、今が朝だということがやっと実感できた。頭の上に乗っている(アリシアから離れない)ルメールが大きくあくびをする。


「で、あたしは何をするのかしら?」


 石段を上りながらアリシアは不安げに尋ねる。祭壇の前には神官が並んでいる(大層な歓迎具合)


「よくいらっしゃった、聖女様」


「だから、聖女じゃないってば。巡礼しているただのシスター、アリシアです」


 アリシアは相手がだれであろうが、気後れしない。思いっきり否定する(聖女なんて呼ばせない)


「おや、ニシムラ殿まで神殿に来られるとは珍しい」


 一番奥に立っていた大司教が目を細める。


「彼女はかなり面白い素質を持っているのでな。アリシア君の祈祷に立ち会わせていただくことは可能かな?」


 ニシムラが仰々しくお辞儀をする。と言っても、これはあくまでも形式的なもので、二人の間ではもう話し合いは終わっているのだろう。そんなやり取り(茶番)をアリシアは横目で見ている(あくびを噛みしめる)


「ニシムラ殿ならもちろん、構いませんよ」


「ご配慮、感謝いたします」


 神官長の許しを得ると、ニシムラは改めてお辞儀をする。


「でも、その前に……まずは試練を受けてもらわねばなりません」


「あぁ、やっぱり試練はやるのね……。お手柔らかにお願いね。で、その試練って何をするの?」


 アリシアは緊張した面持ちで質問する。


「こちらの祭壇にて、横たわっていただきます。そして眠りの中で、自らの魂と向き合っていただきます」


 神殿の奥に広がる祭壇は、光る魔法陣の中にある(とても荘厳な雰囲気)。中央に置かれた石の寝台は、まるでいけにえを捧げる台のようにも見える。アリシアはごくりと唾を飲み込み、寝台に歩み寄った。とはいえ、周りを無視すれば(寝るだけだったら)、大したことはなさそうだ。


「ふん、寝るのは得意よ!」


 意気揚々と祭壇の寝台にごろんと横になるアリシア。神官たちが注目する中、彼女はすやすやと(速攻で寝れる)寝息を立て始めた(図太さはホンモノだ)


 ──夢の中。


「こんにちは、アリシア」


「誰?」


「ふふふ。わたしはあなた。あなたはわたし」


 目の前に現れたのは、まさしくアリシアだった。まったく同じ顔、同じ声。いたずらっぽく笑う、その仕草まで同じ。


「すごい……私がもう一人?──でも、何をすればいいのかしら」


「さぁ?」


「え、あなたも知らないの?」


「わたしはあなた。あなたはわたし。あなたが知らないことは、私も知らないわ」


「ちょっと待ってよ! これどうしたらいいの?」


 アリシアは頭を抱える。大司教の言葉を思い出す。──自らの魂と向き合っていただきます。


「魂と向き合うって……会話するって意味じゃないわよね。……でも、どうしたらいいかわからないし」


 困り果てたアリシアは、ぱっと顔を上げた。


「とりあえず……なんかして遊ぼうか!」


「いいわね!」


 二人のアリシアは手を合わす(暴走は止まらない)


「じゃんけんぽん!」


 ……グーとグー。


「じゃんけんぽん!」


 ……チョキとチョキ。


「じゃんけんぽん!」


 ……またしてもチョキとチョキ。


「──決着がつかないわね」


「自分同士だと遊ぶのもむつかしいわ」


 二人で同時にため息をつき、そして同時に吹き出した。


「ふふっ」


「あはは!」


 地面にしゃがみ込んで、指先でお絵かきを始めるオリジナルのアリシア。


「いいわね!」


 と、もう一人の(夢の中の)アリシアも隣に並んで一緒に描き始めた。


「それはなに?」


「これ? ユキチ」


「ふふふ、上手」


「じゃあこれは?」


「ギルとラムネ」


「ははは、変なの」


 とりとめのない(頭がおかしくなる)会話。もしこの場にユキチ本人がいたら、間違いなく発狂していた(途方に暮れていた)


「これは?」


「お兄ちゃんとルイス」


「じゃあ、これは?」


「シドおじちゃん」


「……誰?」


「知らないの?」


「知らない」


「おかしいなぁ。あなたはあたしなのに。変なの」


 くすくす笑うと、夢の中のアリシアは真剣な顔になって続けた。


「ほら、変なこと言うとシドおじちゃんが迎えに来るよ」


 その瞬間、影が伸び上がり、手にはナイフが見える(突然の侵入者)


「やだ……怖い、怖い……!」


 遠くから迫ってくる大きな影。眼だけが異様に光り、まるで闇の中に浮かぶ獣のようだ。


「大丈夫か? アリシア!」


 聞き覚えのある声。


「お兄ちゃん!」


 アリシアは振り返って叫んだ。


「怖かったよ……」


「もう大丈夫。あいつはやっつけたから」


 お兄ちゃんは血まみれで立っていた。アリシアの胸の奥に別の痛みが広がる。


「でも……お父さんとお母さんが……」


(お父さん? お母さん? どこ?)


 自分で言いながらも混乱する。


(これは夢? あたし……何か大切なことを忘れてるような……)


 震えるアリシアの手を、もう一人のアリシアが握った。


「アリシア、負けないで! あたしはいつも一緒だよ!」


「……ありがとう。アリシア」


 涙をこぼしながら、アリシアはようやく微笑んだ。



「──っ」


 アリシアは大きく息を吸い込み、目を開いた。視界に入ってきたのは石の天井と揺れる燭台の光。そして隣に立つ大司教とニシムラ。手にはもう一人のアリシアのぬくもりがまだ残っている気がした。


「今のは……夢?」


 胸の奥にまだ残るざわめきを手で押さえる。


「戻られましたか」


 大司教が静かに声をかける。


「なんてひどい夢……でも……あたし、何か大切なことを忘れていたような」


「この祭壇で見た夢はあなたの魂のかけら。もし何かを思い出したのだとしたら、それは今のあなたにとって必要なことなのでしょう。どうか、大事にされますよう」


 大司教の言葉は優しくもどこか厳かで、アリシアはうなずいた。


「では、祈祷なさい。そして左手を差し出して」


 アリシアは胸に手を当て、短い祈りを口にしながら左手を差し出す。大司教がその甲に印章を押した瞬間、じゅっと焼き付くように熱が走った。


「……っ!」


 痛みに顔をしかめるアリシア。──その時。


——Elenas(人の) minari(子よ)——


(また来たな!)


 アリシアは今度は何を言われるかと身構える。


 ——Elenas(人の) minari(子よ), via mox(道は間もなく) aperietur(開かれる). Noli(恐れ) timere,(ずに) procede(進め).


 心の奥に直接響く声。それはこれまでよりも少し長くなった気がした。今なら、あたしの質問にも答えてくれそうな気がする。


ディク・ミヒ(ねぇ)クィス・エス(あなたは誰)? ノンネ・ネケッセ(ちょっと聞き)・エスト・オヴン・(たいんだけど)エステラエ・アウト(、星の卵や)・カリクス・(聖杯は探さ)サケル・クァエレレ(なくていいの)?  ニヒル・アドゥク(未だに何一つ)・インテッレゴ(わからないんだけど)?」


 気になることを全てぶつけてみる。


 ──Noli (恐れ)timere(ないで). Tecum sum(私はあなたと共にいる).


 返ってきたのは、短い答え。だが、初めて返答らしい返答が返ってきたことに、アリシアは驚く。


セレン・タルム(ちょっと待って)クィ・エス・トーレン(あなたは誰なのよ)?」


 もう一回問いかけてみるが、もう返事はなかった。やがて熱はすっと引き、刻印(スタンプ)だけが残った。


「……全く、いつも勝手なんだから。でも……初めて会話できた」


 アリシアは笑みをこぼした(進歩がうれしい)


「お疲れさまでした」


 祭壇から降りてきたアリシアに、ニシムラが声をかける。


「いま、話をしていたようですが……もしかして」


「ええ。また声が聞こえたわ」


 アリシアはまだ左手を押さえながら答える。


「それはすごい」


 ニシムラの目が輝いた。研究者として興奮が抑えられない(興味津々)


「ぜひ、詳しくお話を伺いたい。ちょうど昼食も用意しましたので、こちらへどうぞ」


「やった! 食事はいつでも大歓迎よ!」


 すっかりいつもの調子を取り戻したアリシアは、にんまりと笑った。ニシムラに案内され、素朴な造りの回廊を抜けると小さな部屋に通される。部屋の中には木の机と椅子、それに素朴な料理が並べられていた。湯気を立てるスープと、焼きたての白いパン。


「あぁ……朝ごはんよりは、豪華かもね……」


 昨日と似たような食事またしてもパンとスープ。ここの人たちは食事に興味がないのかもしれない。アリシアの目から輝きが消える。その脇で冷ましたスープをハフハフとおいしそうに飲むルメール。ま、この子がうれしそうならそれでいいか(まだ救われる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ