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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第4章 窮地と再起

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第48話 ニシムラ

「――少し脱線してしまったが、なんのはなしじゃったかの……あぁ、魔族が世界各地で暴れておるという話じゃったな」


 ニシムラが強引に話の筋を戻す。


「なぜ今、魔族が暴れ始めたのか。潜入調査したガラム君もよくわからなかったが、この世界が大きく揺らぎつつあるのは確かじゃ。おそらく、このままいけば、伝承通りに魔王が生まれ、対抗するように勇者も生まれるはずじゃ。それは世界の仕組み――運命とも言えるかもしれんな」


 彼はちらりとアリシアを見る。正確にはアリシアの手の甲に刻まれた刻印(スタンプ)を。


「そして勇者を導くと言われる存在――聖女がもうここにいるのではないか。と、考えておるわけじゃ」


「え……あたし? いやいやいや、みんなそう言うけど、あたしはそういう責任重そうなの、勘弁だから。パス(いち)で。正直、そういうノリについていけなくて、教会でも浮いちゃってたんだから。追放されついでに、世界を回っていろんなおいしいものを食べたい。今はそれだけよ」


 アリシアが拒絶(いやいや)する。だが、悲しい実情をガラムが突きつける。


「だけど、リュートもアリシアは聖女――そう思ってるんだろ。あいつはしつこいぞ。人の言うこと全く効かないし。とっとと魔王を倒して平穏な時代を迎えた方が早いかもな」


「え、お兄ちゃんを倒せばいいの?」


「いやいやいや、ぼくは魔王候補らしいけど、魔王じゃないし。魔王になる気もないし」


 似たもの兄妹だな。ほほえましく見守る他の面子。


「そうか。わかったぞ!」


 ギルが突然声を出す。


「まず、ガラムはリュートの誘いに乗って、魔王になる」


「ふむ」


 頷くガラム。


「そして魔王になったガラムをアリシアが倒す。勇者はこの際ユキチってことでいいよ。それでハッピーエンドだ」


「ふむふむ」


 頷くアリシアとユキチ。


「ふむ?――ちょっと待て! それってぼくは死ぬんじゃないか?」


 慌てるガラム。


「ガラム……見直したぜ。あんたのことは忘れないよ」


「世界のために命を捧げるなんてそうそうできることではないのう。さすがじゃ」


 ルイスとニシムラも悪乗りを始める。


「だーーー! ぼくは生きたいし、そもそも魔王になるつもりもない! なんだよ、みんなして」


 ガラムは本気で涙目になる(もう泣きそうだった)


「すまん。すまん。ちょっと言い方が悪かったが、倒されたことにすれば、わざわざ死ななくてもいいんじゃないか?」


 ギルが慌ててフォローする。


「そんなマッチポンプ、世界的の仕組み的にに許されるものなのかね?」


 それで神様は怒らないのかな? ユキチが首をかしげる(ひどい八百長だ)


「わしも知りたいの。何分、魔王と勇者、そして聖女に関する情報が不足しておる。まぁ、最終手段のプランとして頭の隅に入れておいてもよいじゃろう。それにしても、兄妹で魔王候補と聖女候補になるとは、なかなか興味深いのう」


 ニシムラも楽しそうだ。


「そうそう、興味深いと言えば、アリシア君の閃光も興味深いのう。おそらく魔王に対抗する手段の一つだと思うのじゃが、これも記録がない。できればここで撃ってみて欲しいのじゃが」


 なんなら、ガラム君に向けて。という言葉を、すんでのところで止める常識は持っていた。


「……あれは魔王の影やヴェルドット、リュートのような魔族を前にしたときに、この刻印が光って勝手に発動するの。――なんでそうなるのかはあたしも知りたい。実は一人で刻印が光ってないときに呪文を唱えてみたことがあるの。――結果は予想通り、何も起きなかったわ。刻印が光った時じゃないと、あの呪文は使えないみたい」


 あの光については、アリシアも気になっていたようだ。好奇心の強いアリシアのことだ、色々できないかこっそり試していたのだろう。


「魔王の影?」


 ガラムがピクリと反応する(なんだか嫌なワード)


「古い文献でその言葉を見つけて、わたしたちはそう呼んでるんだけど、なんか黒い霧で人やドラゴンを操るの。そこのギルも魔王の影に操られて、禁書を盗んだり、ゴーレムで暴れたりしちゃってたのよ」


「あぁ、霧状の魔素生物か。――魔王の影ね。いい呼び方じゃないか。あれを操って何かしようなんて姑息な奴は――バーキッシュかリリアだな」


 ぶつぶつと、ガラムがひとり納得する。


「できれば刻印が実際に光るところを見てみたいが……勝手に動くということは、上の世界につながっているのかもしれぬな」


「上の世界?」


「あぁ、教会の言葉で言うと、神様とか天使とかそんな感じじゃな。トリガーが魔族というのもなにか理由があるのかもしれんの。やはりなにか魔族の脅威に対抗するためのものなのじゃろうな」


(そしてガラムに反応しないということは、多分ガラムは魔王にはなれないんだろうな。)アリシアとユキチは話し合うでもなく、何となくそう感じた。


「そうなのね。ちなみに、この刻印が刻まれたとき、声が聞こえたの。右手の時は“星の卵に危機が迫っている”、お腹の時は“聖杯を月に収めよ”って」


「ほうほう……ますます興味深い。上の世界からのメッセ―ジということじゃろうかの。――アリシア君、早速じゃが、明日にでもここの大神殿でも刻印を押されてくれんかの。すぐ対応できるように大司教には話を通しておくのでの」


「聖地巡礼でこの刻印を集めているから、それは願ったりなかったりだわ。試練パスだと超助かるかも!」


 面倒な試練を(これが裏口合格!)パスできそうで(顔パスサイコー!)、喜ぶアリシア。


「試練については、教会のルールがあるから、受けてもらわねばならんと思うがの」


「そんな……」


 希望が砕かれるアリシアを見てユキチが苦笑する。


「まあまあ。ニシムラのおっちゃんの口添えがあれば、きっと簡単なのにしてくれるさ。サウナとかそういうの。それよりおれは、星の卵とか聖杯とか、その辺の単語のなぞ解きをさっさと終わらせてスッキリしたいぜ。その辺もできれば調べてほしいな」


「もちろんじゃ。明日の祈祷の際にも何かメッセージがあるかもしれんしな。上の世界から何を訴えているのか……非常に楽しみじゃわい」


「はぁ……あたしは実験動物じゃないんだから、そこだけは覚えておいてよ」


「もちろんじゃ、だが、魔族の活動が活発になった今、アリシア君が世界を救うカギになる可能性は大変高い。どうか、それだけは理解して欲しいのじゃ」


 その言葉にアリシアは一瞬だけ表情を引き締めた。


「……もしそうなら、あたし、期待されすぎじゃない? お酒が大好きなだけのシスターなのに……」


「ふん、食欲魔人の聖女爆誕ってわけだな」


 ユキチが皮肉を飛ばす。


「うるさいな!」


 笑いの中にも、空気は張り詰めていた(何かが迫っている)。明日、新たに刻印を受けることで、さらに大きな真実へと近づくのだろうか。アリシアは無意識に(本当に)右手の刻印をなでる(勘弁してほしい)


「みんなまだ体力が戻っていないじゃろう。個室を用意したから、どうか身体を休めて欲しい。あと、ユキチ君、近いうちに私の部下を向かわせよう。その失った左手に代わる義手を作れるかもしれぬ」


「……義手?」


 聞きなれない単語だ。ユキチが首をかしげる(なんだそれ)


「うむ。君たちになじみのある言葉で言うと……そうじゃな。手だけのゴーレムといった感じかの。慣れれば、元の左手以上に便利になるかもしれん」


「そういうのがあるのか。ありがとう。好意に甘えさせてもらうよ」


 ユキチがニシムラに頭を下げる。その脇でガラムもルイスに声をかける。


「ルイス、明日久しぶりに手合わせしないか。ここの地下施設、ちょうどいい訓練場があるんだ。積もる話もあるし」


「いいだろう。おまえを殴りながら悲鳴と一緒に色々聞き出したいな」


「ははは、ほどほどに頼むよ」


「ヒューヒュー!」


 アリシアとユキチが冷やかしの声を上げ、ルイスは耳を赤くする(照れる)。その光景を見て笑いながらニシムラとガラムは部屋を出て行った。代わりに、白衣を着た助手っぽい若者が現れる。


「皆さま、こちらへどうぞ。本日はこちらでお休みください」


 案内されたのは同じように白い壁の部屋だった。壁には不思議な照明が柔らかく灯り、清潔な寝台が並んでいる。


「おぉ……けっこういいじゃない」


 アリシアは早速ベッドに飛び込んでふかふか感を確かめる。その脇でルメールはおとなしくアリシアの魔力を吸っていた。


「おまえはどこでも寝れるだろ」


 ユキチがため息をつく。ルイスは寝台の大きさを確かめるように腰を下ろし、ギルは壁際に座って神妙な顔で腕を組んでいた。ラムネはというと、ベッドの上でぷるぷる震えながら沈み込み、まるで水枕みたいになっている。


「……静かだな」


 ユキチがぽつりと漏らす。街の喧騒から(物音ひとつ)隔絶された地下の空間(しない隔離された空間)。外敵の気配もない。だがその静けさが、逆に嵐の前の(かえって)ようにも感じられた(不安をあおる)。アリシアは毛布にくるまりながら、右手の刻印を見つめる。


「……星の卵に、聖杯に、月……次はどんなことを言われるんだろうね」


 誰に言うでもなく呟いた声が、静かな部屋に吸い込まれていった。


「さあな。何となく太陽とかそんな感じじゃねぇの。知らんけど。それよりも、お兄ちゃんに会えてよかったじゃないか」


「そうね。ルイスとの誤解も解けたみたいだし」


「誤解ではない。全く。あいつは言葉が足りなすぎる。あたしがずっとどんな気持ちでいたか……」


 ルイスの言うことももっともだ。あの手紙を読んだアリシアは同情する。


「妹として謝らせて、あんな兄でごめんなさい」


「いや、アリシアが謝ることじゃないだろう」


 笑い合う一同。


「ところでユキチ、体調は大丈夫か?」


 ギルが尋ねる。


「あぁ、ふらつくが問題はない」


「そうか。もしよかったら明日、ユキチを連れていきたい場所があるんだが、つきあってくれないか?」


「もちろん。いいぜ」


 ぴょん。と跳ねてラムネも参加を表明する。


「ラムネも一緒に行くか。おれの人生を変えた師匠がこの街にいるんだ。是非紹介したい」


「えっ、そんな人いるの? あたしも会いたい!」


「アリシアはまた試練受けるんだろうから、また今度な」


 ギルが悲しいことを思い出させる。


「そうだったわ。みんなで抜け駆けして、おいしいご飯食べたら許さないからね!」


「分かった。分かった。楽しいことは抜け駆けはしないよ」


 両手をあげて降伏のポーズを取るギル。


「じゃ、今日はもう寝ようか。明日は早そうだし。あたし、もう疲れたよ」


 アリシアはベッドに身体をあずける。


「全くだな。おやすみ」


 そういって照明を消すギル。既に爆睡しているユキチ。突然のイリュシオンでの生活は始まったばかりだ。

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