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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第1章 出会いと旅立ち

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第4話 静寂の試練

 ワイバーンと遭遇した(楽しいバーベキューの)後は特に大きなトラブルもなく、二人はついに最初の巡礼の街グラスノヴァへとたどり着いた。街の入り口に足を踏み入れると、遠くの丘に白く輝く巨大な(自己主張の強い)建物が見える。空を切り裂くようにそびえる尖塔。堂々たるその姿(そのでかさ)に、思わず足が止まった。


「あれが……ロシアナ大神殿か」


「本当にでかいわね。あたしも初めて見るけど……あんなの、お城よりすごいじゃない? まぁあたしはお城も見たことないんだけどさ」


 ロシアナ大神殿——オルテリス(今アリシアがいる)大陸最大の神殿であり、別名『静寂の神殿』と呼ばれる。二つ名の割には随分と雄弁な外観(派手な見た目)をしている。


「——どんな物々しい場所かと思ったけど、なんだかキラキラしてて楽しそうじゃない! さっそくお祈り済ませちゃいましょう!」


 坂道を元気よく駆け上がるアリシア。神殿の大きな門にたどり着くと、彼女は両手を軽く上げて(礼儀作法も気にせず)、にこやかに言った。


「こんにちは~!  巡礼中の修道士でーす!  お祈りしにきましたー!」


 ……その明るい(バカみたいな)声を遮るように、門の前に立つ神官がすっと道を塞ぐ。


「止まりなさい」


「あ、はい?」


「巡礼者よ。この神殿で祈りを捧げるには、試練を受けなければなりません」


「そんな……試練があるなんて聞いてないんだけど……。ねぇ、ちょっとだけでいいの。ほんの……五分とか? ちょっとお祈りしたらすぐ帰るから、ね?  ノー声でスッと。神様もOKしてくれると思うのよ?」


 神官は首を振る(OKなわけないだろ)


「あーもー、わかったわよ。試練ってなに? 腕立て伏せ? 石段百段うさぎ跳び? それとも、もしかして地下迷宮?」


「それは静寂の試練。試練の間、あなたは一言も声を発してはなりません」


「……は?」


 予想外の内容に(そうきたか)、一瞬顔がこわばるアリシア(おしゃべりシスター)


「そんなのでいいの? よゆー。よゆー」


 大丈夫かなと(無理ゲーじゃね?)見つめるユキチ。神官は無言だんまり。アリシアは大きく息を吸って(覚悟を決めて)、肩をぐるぐる回しながら気合いを入れる(大声を出している)


「よし、いいわよ。静寂? 沈黙? 上等じゃない。あたし、やってやるんだから!」


「どうかお静かに。試練はもう始まります」


 言ってるそばから(静寂の意味わかる?)神官に突っ込まれるアリシア。


「うぐ……」


 前途多難(泣きそう)なアリシアを見ながら、ユキチがぽつりとつぶやく(無責任に応援する)


「……まぁ、頑張って。うまい飯と宿は俺が探しとくよ」


「……」


 アリシアは一瞬なにかをしゃべりかけかけたが、ぐっとこらえて親指を立てる(余裕を見せようとする)


 こうして、アリシアの静寂(地獄)の試練が始まった。早速、神殿の一室(試練の間)に案内される。神殿内部は、どこもかしこもやたらと静かだった。いや、静かというか……うるさいくらい静か(物音ひとつしない)


 コツ……コツ……とアリシアの足音が反響するたび、背後の神官が「チラッ」と見る。なぜか「無言」だけじゃなく「無音」も求められているような空気である。


(うー……なんかもう……空気が重い……)


 アリシアは口を開けずに、心の中でうなった(既に負けそう)。そして、神官(神経質男)から手渡された紙にはこう書かれていた。


【試練の内容】

 ・日没まで声を発してはならない。

 ・筆談、ジェスチャー、咳払い、口パクも禁止。

 ・ただし内なる祈りは自由。


(って、それコミュニケーション全部アウトじゃん!?  えっ、魂で会話しろってか!?  無理無理無理!)


 とはいえ、案内された部屋には何もなく、やることもないので(おかしくなりそう)、座禅のように座って“内なる声”で祈りを捧げる(それっぽいポーズ)


(……しずけさ……こころを……ととのえる……)


(あ、今日のごはんってなんだろう。おいしいお酒はあるかな? いや違う! 雑念禁止!)


 ……15分経過。


(もう座るの飽きた)


(喉かわいた)


(なんか腹も減った)


(おしり痛い)


 つい、腰を浮かしかけた(もぞもぞしようとした)その瞬間、すぐ近くの柱の陰から神官(監視役)がすっと近寄ろうとしてきた。


出たな監視者(お前は暇人か)!)


 どうやら神殿では、修行者が“静寂”を破ろうとしたその瞬間に、不思議と神官の誰かが現れる(近寄ってくる)。アリシアはそいつらを「静寂の守護者しずまも」と心の中で勝手に命名した(呼ぶことにした)


(……負けてたまるか……!)


 ——一方、ユキチはというと……


「なんかあっちから、いいにおいがするな……」


 静寂の神殿(絶対相性悪い建物)にアリシアを残して、ユキチは鼻を頼りに坂を下っていた(適当にぶらつく)。グラスノヴァの街は、どこかゆったりしていて、ミルクやチーズの匂いが流れてくる。酪農が盛んだと聞いていたが、なるほど納得だ。


 大通りに出ると、よさげな宿屋の(ずいぶんド派手な)看板が目に入った。外観は清潔で、入り口の軒下に植えられたハーブが風に揺れている。


(……悪くない)


 ユキチは中に入り、カウンターに立つ店主らしき初老の男に声をかけた。


「二人、泊まれますか?」


「ん、ああ、もちろん……って、坊や?  お母さんとはぐれたのかい?」


「……えっ」


「ここは子供のくる場所じゃない。帰りな」


 ユキチは黙って(ムッとして)、冒険者証を懐から出して差し出した。男はそれを受け取って、しばし目を凝らす(疑いの目を向ける)


「……偽物じゃない……みたいだが……」


「本物だよ。Cランク。正式なギルド発行」


「……うーん……うちは、もう少し大人向けなんでな。坊やは別の宿をあたったほうがいい」


(……なんだよ、大人向けの宿屋って)


 意味はよく分からなかったが、歓迎されていない(とっとと帰って欲しい)ことだけはよくわかったので、ため息をついて(こっちから願い下げだ)、ユキチは冒険者証を引き取り、無言で踵を返した。


 しばらく街をさまよう。初めての街だ(結構広い)。土地勘もなく、ただ人通りの多い大通りを色々物色しながら(行き当たりばったりに)歩く。そんなときだった。


「おい、コラ! 逃げんな!」


 酒瓶ガラスの割れる音。路地裏の先(すぐ近く)、怒鳴り声とともに、蹴倒された木箱の陰から小さな影が飛び出した。


「っ……!」


 逃げて(飛び出て)きたのは、小柄な子供。まだ十歳にも届かないような背格好で、布袋を抱えている(お使いの途中らしい)


「へっ、ガキが! 俺様にぶつかっておいて、無視とはいいご身分だな!?」


 赤ら顔の酔っ払い(いかにもなゴロツキ)がふらつきながら追いかけてくる。ユキチは、ふう、と一つ息を吐いて(またこのパターンかと)前に出た。


「おいおい、子供相手にムキになるなよ」


「はあ?  なんだお前、関係ないやつはひっこんでな——」


 次の瞬間、酔っ払いの足が地面から浮いた(空を飛んだ)。正確には、ユキチの足払いがきれいに決まり、酔っ払いは背中から倒れた(豪快に投げられる)


「いてててっ……!」


「大げさだなぁ。でもこの辺で手を引かないと、怪我しちゃうかもよ」


 ユキチに冷たい目で(まだやる気かい?と)にらまれた酔っ払いはそのままうめき声を上げながら、のそのそと退散して(どっかへ)いった。


 残された子供は、何も言わずユキチを見つめていた。


「大丈夫か」


 そう声をかけると、子供はこくこくと頷いた。


「家は? 親は?」


 首を横に振る。


「……話せる?」


 子供は口を開きかけたが、そのまま何も言わず、また首を横に振る。


(……言葉が話せない?)


 ユキチが眉をひそめたとき(困っていると)、背後から足音が近づいた。


「あらあらあら、いたいた!  トネリ、 よかった、無事で……!」


 走ってきたのは、エプロン姿の中年の(なかなか肉付きのいい)女性だった。


 事情を聞くと(おかみさんが言うには)、その子の名前はトネリ。親が早くに他界してしまい、親戚のおかみさんが今は世話をしているらしい。居候する(世話になる)代わりに、おかみさんの食堂を手伝っているのだとか。


「ちょっとお使いに出したらこんなことになっちゃって……ほんとに助けてくださってありがとう。お礼にって言ったらアレだけど、この後私のお店でお昼を食べていかないかい? お昼はまだだろう?」


「ありがとう。でも、まずは宿を見つけたくて……」


「まぁ、それなら、ちょっと狭いけど、うちの離れ部屋今空いてるのよ。よかったら使ってもらっていいわよ?」


「そんなにしてもらっていいんですか?」


「もちろん! トネリを助けてくださったご恩は返させてくださいな。そうと決まれば善は急げよ! トネリ、帰ったらお部屋の準備手伝ってちょうだいね」


(ありがたい話だ……)


 ユキチはおかみさんに軽く頭を下げて(お礼を言うと)、グラスノヴァのにぎやかな街並みの中、あとをついていく(出会いに感謝)


 おかみさんがやっている食堂『青空キッチン』はグラスノヴァの中心地からちょっと外れた辺鄙な場所に(人も少ない端に)あった。景色がきれいで(大都市とは思えない)例の大聖堂(アリシアのいる建物)もよく見える。食堂の裏庭にある離れ(普通の家くらいの建物)に案内されると、トネリはこくりとお辞儀をしてから、笑顔で手を振って去っていった。ユキチはふと、荷物を降ろして大聖堂を見ながらアリシアのこと(うるさい相棒)を思い出していた。


 ——あいつ、うまくやってるかな。静寂とは一番縁がなさそうだけど。

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