表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第3章 イグナリアの竜神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/138

第37話 竜すじカレー

 そして宴の夜も終わり、アリシアたちは温泉で朝風呂を満喫中(朝から超リラックス)。のぼせそうになったアリシアは浴槽脇の岩に座って、ぽかぽかに火照った頬を手で仰ぎながら、幸せそうに息を吐く(ぽっこりお腹をなでる)


「いやー、昨日は食べた食べた~。竜神様のお肉、あんなにジューシーだなんて思わなかったわ」


 満足げにお腹をさするアリシアを見ながら、ユキチは温泉に身体を浮かべながら、眉をひそめていた(心配になる)


「……なぁ、ほんとによかったのか? 竜神様を食っちまってさ。なんかバチ当たりそうでイヤなんだが」


「いいんだよ」


 ルイスはぽんとユキチの頭に手を置いて、軽い口調で言い返す。


「竜神様はね、亡くなったらその身をみんなでいただいて供養する。それがこの土地のしきたりなんだって。……まぁ、わたしも話には聞いていたけど、まさか自分の代でやることになるなんて思ってなかったけどさ」


 竜の寿命は長い(は軽く数百年生きる)。その竜が亡くなるなんて、滅多にあることでは(普通は縁が)ない。ギルが隣でタオルで顔を拭きながら補足する。


「ドラゴンステーキといえば、王都でもなかなかお目にかかれぬ超高級食材だからな。貴族でも一生に一度食べられるかどうか……」


「そうなの? どおりであんなにおいしかったわけだわ!」


 アリシアの目が(幻のステーキは)きらきらと輝く(確かに最高だった)


「お肉がとろけるながら、口の中で幸せが爆発したもん。また食べたいなぁ……」


 そう言って、アリシアは何気なくルメール(子竜)へと視線を落とした。ぴたりと空気が凍りつく。


「アリシア、おまえ、まさか……!」


 ユキチがその視線の意味に気づき、声を荒げる。


「ち、ちがうちがうちがう! いやいやいやいや、まさかこの子を食べるなんてこと、あるわけないでしょう!」


 首をぶんぶん振って否定するアリシア。だがすでに手遅れだった。ギルもルイスも、そしてラムネまでもが、アリシアに疑いの視線を向けている。


「……あ、あたしだって分別はつくわよ! あたしはシスターなんだから! あたし、仲間、食べない。仲間、トモダチ」


「なんでカタコトなんだよ」


 笑うユキチ。必死に弁明するアリシアの声が、むなしく消えていく(信用を失っていく)


「それにしても……昨日の竜神様との戦いは、ほんとスレスレだったな」


 ユキチも湯から上がるとアリシアの隣に腰かける。額から滴る汗をタオルでぬぐいながら、しみじみとつぶやいた。


「ギルムネがいなけりゃ、あの硬いウロコは突破できなかったよ」


 ユキチは竜のウロコに弾かれたナイフの感覚を思い出しながら両手を見つめる。一般的な生物の弱点である眼球を狙っても(必殺の一撃でも)、傷一つつけられなかった絶望感。


「……そういや気になってたんだけどよ」


 ユキチが体を起こし、温泉を満喫しているルイスに話しかける。


「あの逆鱗ってやつ、ドラゴニュートにもあるのか?」


 ルイスは一瞬きょとんとし、それから自分の喉元に手をやった。


「んー? ないな。わたしたちは竜の眷属だって言われているけど、多分、種族としては別の系統なんじゃないかな」


 自分の鱗をなぞりながら(のどを触りながら)、ルイスは少し笑った。


「どっちにしろ、ギルムネに喉を突かれたら……わたしも死んじゃうけどな。あの一撃は壮絶だったよ」


 首を掻き切るポーズ。


「いやいや。昨日のは、皆の力が合わさってこそ勝てた戦いだよ。――おれだけでは、あの一撃を竜神に入れるどころか、その前にまた魔王の影にいいように操られていたと思う」


 悔しそうに空を仰ぐギル。雲一つない青空(まだまだ修行不足だ)


「ま、グラスノヴァで操られたときにギルムネ合体していなかったのは幸いだな。あんなのに暴れられたら、グラスノヴァどころか、オルテリス大陸が壊滅しててもおかしくなかったぜ」


「それは言いすぎだ――だがそうだな。魔王の影に、ゴーレム研究するほどの能力がなくて助かったのは事実だな」


 敵も完璧じゃない(そうかもしれないな)と、ちょっと緊張が解けて、笑うギル。


「でもさ、あの影、結局なんなの? グラスノヴァの時もそうだったけど、大聖堂のあるところでばっかり出くわしてるじゃない」


 アリシアが腕を組んで首をかしげる。


「……あの何だっけ、四天王のひとりとか名乗ってた、ヴェルドット。あいつが魔王復活のためにどうこうって言ってたよな」


「言ってた。大陸を支配して、品質の良い魂を捧げるとかそんな感じのこと」


 アリシアはヴェルドット(人形遣い)との会話を思い出す。じっくりと時間をかけて、オルテリス大陸を支配しようと目論んでいたようだった。


「そうなると、他の街も危ないかもしれないな。特に大聖堂があるようなところは」


 ルイスが深刻な顔をする。アリシアも思わず息をのむ(確かにそうだ)


「確かに……その時は地元の冒険者たちがちゃんと対処してくれてればいいんだけど」


 しばし沈黙。ルメールがアリシアのお腹で(空気を読まずに)魔力を飲み始める。湯気が立ち込める中(もやもやする中)、ルイスがぽつりとつぶやく。


「魔王なんて、絵本の中の話かと思ってたのに、本当にいるのかね。正直信じられないよ」


「……あたしも信じられないよ。魔王なんて言われても、全然実感がわかない」


 アリシアがもう一度湯に入りながら、ふてくされたように返す。


「ほんとに、勘弁してほしいわよね。あたしはただ、とっとと巡礼終わらせて、ぐーたら生活に戻りたいだけなのに」


「でも、アリシアの放った光、あれも絵本の中に出てくるような魔法だったよ。黒い霧を払って、カッコよかった。族長も大司教も、伝説の神の光だーって大興奮してたわよ」


「……あれね」


 アリシアは視線を落とし、右手の甲の刻印(スタンプ)に目を向ける。


「本当によくわからないの。なんであたしからあんな光が出て、黒い霧を吹き飛ばせたのか……そもそもさ、呪文だって変なのよ。あんな言葉、今まで一度も聞いたことがない。自分の口から出てくるのに、全然意味が分からないの」


「それについてはおれも気になって、ここの大司教と一緒に調べたんだけど、アリシアが唱えた魔法は、おそらく“原初魔法”というやつだと思う」


 ギルも裏で教会の資料を(ただフラフラしていた)調べていたようだ(わけではないらしい)


「げんしょ……?」


 アリシアが首をかしげる。


「聞いたことないわね」


「だろうな」


 ギルは仰々しく頷く。


「古代神聖語よりも前に存在していたかもしれない――その程度の記録しか残っていない幻の魔法言語だ。古文書に"神から賜った言葉の魔法、光を放ち、魔を払う"という記述があり、その脇に、――昔の研究好きな司教が書いたのだろうな。"原初魔法?"というメモが残っていたのを見つけたんだ」


「古文書に書かれたメモか……本当によく見つけたな。でもそれがアリシアの者かどうかはイマイチわからないな」


 ユキチの言う通り、それがアリシアが唱える魔法のことを指すとは限らない。


「まぁな。でも、本当に神が授けた魔法だったとしたら、アリシアが唱える呪文を解明することで、現代の魔法学は一気に躍進するかもしれない。現におれが手も足も出なかった魔王の影を二回も撃退してるしな」


「それに魔王四天王も。確かに、魔を払う神から賜った光か」


 ユキチが捕捉しながらつぶやく。


「そんな大層なもんを、あたしは勝手に口走ってるってわけ?」


「そういうことだな……だが、研究が進んで、おれや他の神父でも原初魔法が使えるようになれば、魔王の脅威は一気に低くなる」


 ギルの言葉が重く響く(原初魔法は武器になる)。だがすぐに自嘲気味に笑い、首を振る。


「ただ、あの光を放つには、おそらく条件がある。――刻印の輝き。そこがまた謎だ。……おれの刻印は光ったことなど一度もない」


 そう言ってギルは自分の両手の甲の刻印をじっと見つめる。


「そうね。あたしもこの刻印が何で光るのか知りたいわ」


 アリシアは気まずそうに笑い、肩をすくめる(あたしには分不相応よ)。心の奥では、“なぜ自分だけが”という不安がじわじわと広がっていた。


聖地巡礼(スタンプラリー)が終わるころにはそれもわかるのかもな」


 ユキチが適当なことを言う。まぁ、わからないものは、考えてもわからない。いまはただ、温泉を楽しむことが最優先だ。



 ――温泉で疲れもすっかり流しきったアリシア一行。「ふー、生き返ったわ~!」とアリシアは満面の笑顔で伸びをする。そんな彼らが向かうのは、ついに待ちに待った(昨日はお預けだった)ルイスのお母さんのレストランだった。お店に入ると、厨房から元気な声が響く。


「あんたら、昨日は本当に大変だったねぇ! さぁさぁ、特製カレーを用意してあるよ!」


 テーブルに運ばれてきたお皿からは、スパイスの香りが(うまそうな湯気が)立ちのぼる。


「今日のは特に特別さ。なんと竜神様のすじ肉をじっくり煮込んだ――竜すじカレーだよ!」


「え……」


「な、なぁ……本当に罰当たらないんだよな?」


 席に座るのが不安になるユキチ。既に昨日の夜沢山ステーキを食べたが、それはそうと、こんなにあっけらかんと言われると、また不安になってくる。


「ははは! 何言ってるんだい。食べることが供養だよ」


 おかみさんは豪気に笑う。これがドラゴニュート(ラグライド)の文化なのか。ちなみに、彼ら(アリシア一同)は知らないが、残った竜神の骨は丁寧に組み上げられて、竜神の住処に(守り神として)飾られている(祀られている)。ウロコの方は街の宝として、地下の宝物庫に封竜鏡と一緒にしまわれた。


「それはそうと、ルイスから聞いたよ。あんたたち、カレーのアレンジが上手なんだって?」


「え?」


 アリシアが目をぱちくり。


「特に、カレーにチーズをのせるなんて考えたのは誰だい? 天才じゃないかね!」


「……あ、あたしです」


 アリシアが小さく手をあげる。


「あんたかい。若いのになかなかやるね! でもね、あたしもだてに長年料理屋をやってるわけじゃない。昨日からずっと考えてたのさ。――カレーに乗せたチーズを、上から炙ってみたらどうかって!」


「か、母さん……なんて悪魔的発想……!」


 ルイスが天を仰いで呻く。


「そして、さらに隣に添えるのは半熟の温泉たまご! 辛すぎると感じたら、黄身をとろりと崩せば一気にマイルドさ!」


「おおお!」


 ユキチは自分のアレンジも採用されて大喜び。そのとき、後ろで黙って聞いていたギルが、ぐっと身を乗り出した。


「おかみさん。……おれのソーセージを入れるってのは……?」


 おかみさんは苦笑しながら首を振る。


「あぁ、ソーセージを入れるアイディアは悪くないんだけど、お肉同士でバッティングするから今日は無しだよ。やっぱり主役の竜神様をしっかり味わってもらわないとね」


「……そうか」


 ギルは肩を落とす。その背中を、ルイスが「また今度な」と笑ってぽんぽんと叩いた。食欲をそそる(そんなことよりも)竜すじカレーの香りが(早く食べたい!)、テーブルを囲むみんなの心を一つにまとめる。


「いただきまーす!」


 アリシアが勢いよくスプーンを構え、湯気の立つ皿を一口。


「……うわぁ。昨日の夜に食べたドラゴンステーキも最高だったけど、このカレーもまた全然違うおいしさだわ! お肉が、ホロホロ!」


 頬を赤らめ、思わず身をよじる。おかみさんは得意げに腕を組む。


「そうだろう。竜神様の脚とかの筋が硬い部分をね、一晩かけて大鍋でぐつぐつと柔らかくなるまでじっくり煮込んだのさ。手間ひま惜しまなければ、どんな部位でもごちそうに化けるんだよ」


「すごい」


「ほらルーメル、お母さんのカレーだよ」


 アリシアがルメールにカレーを食べさせる。


「ちょっと、その言い方、大丈夫なのか……?」


 不安になるユキチ(倫理的にNGだろ!)。だが、ここでは常識は通じない(自分がおかしいのか)。ユキチの不安をよそに、ハフハフとおいしそうに食べるルメール。おれはもう何も言うまい(何も見なかった)


「ちょっと待って、このカレー……下に何かあるよ?」


 アリシアがスプーンで底を探ると、白い何かが見える。


「これ……おこげ?!」


「ふふ、それもあんたたちのアレンジレシピを参考にさせてもらったのさ。“お米”って言ってね、ちょっと加工にクセがある穀物なんだけど、カレーにかけてみたら相性がバツグンだったのさ。もう、うちのチビどもも夢中だよ」


「いいものはどんどん取り入れちまうってわけだな」


 ユキチが感心する。


「そうさ。それがラグライド流!」


 母さんは胸を張る(やれることは全てやる)


「それにしても、この半熟卵!」


 アリシアが興奮気味に黄身を崩し、カレーと絡める。スプーンが止まらない。


「辛さがマイルドになって、めちゃくちゃ最高! あー、もし“星の卵”がこれだったらよかったのに!」


「星の卵?」


 おかみさんが首をかしげる。アリシアは思わず神様(?)の言葉を思い出してしまった。


「……実は、あたしもよくわからなくて困ってるんです。お祈り中に声が聞こえて、“星の卵に危機が迫っている”って。あと、“聖杯を月に収めろ”っていうのも言われてて……。何か心当たりあります?」


「うーん……ごめんなさいねぇ」


 おかみさんは困ったように返す。


「星の卵焼きなら、この辺りの名物おやつだけど、それとは違いそうだねぇ」


「星の卵焼き!」


 アリシアが大声をあげる。


「ノル=ヴェルンでオルネアさんが言ってたやつ!」


「アリシア、よく覚えてるな」


 ユキチが感心して言うと、アリシアは胸を張って笑った。


「ふふん。おいしそうなものは、絶対忘れないのだ!」


「星の卵焼きなら、この街を南に行ったオアシスが有名だね。たくさんお店が出てるから、よかったら寄って行ってごらん」


 アリシアの目が輝く。寄り道は確定だ(進路は決まった)



 ――翌朝、青空の下。


「それじゃ、そろそろ行きますか!」


 ギルが声を張り上げると、一行は荷物をまとめ、温泉とサウナとカレーに名残を惜しみつつ(さよなら、天国)、ラグライドを後にする準備を整えた。目指すは、南の海を越えた先に広がるゼンブレア大陸――そこにそびえるアウラリエ大神殿である。


 ユキチが白地図を広げると、カルドリア大陸のラグライド周辺が濃い色で塗りつぶされていた。


「……ここばっかり、やけに目立つようになったな」


「そりゃあ温泉にサウナにカレー、全部楽しみまくったからね! もう本当なら、ここを巡礼のゴールにしてもよかったのに」


 アリシアがぼやく(これが楽園追放か)


「そういうわけにもいかないだろ。ほら、行くぞ」


 ユキチが苦笑しながらアリシアのお尻を軽く蹴る。


「いたっ!」


 痛くもないくせに、大げさに飛び跳ねるアリシア。笑い合う二人。そんな二人の後ろでは、族長と大司教が見送りに来ていた。


「アリシア様、どうか良い旅を。――ルイス、アリシア様とルメール様を頼んだぞ」


「……あとガラムもな」


 ルイスが苦々しくつぶやくと、その横にいるアリシアは表情を曇らせる(不安になる)


「族長たちも壮健で」


 ギルが力強く族長と大司教の手を握る。


「あぁ、おまえさんも無理するなよ」


 互いの目に、苦労がにじんでいた(友情が芽生えていた)


「行ってくるよ、母さん」


 ルイスもまた家族と抱き合い(すぐの旅立ち)、短い言葉で別れを告げる。


「はぁ……さようなら、私の天国」


 アリシアがしみじみとラグライドを振り返り、ルメールを頭に乗せる。


「ねぇルメール。巡礼が終わったら、ここで一緒にのんびり暮らそうね」


「キュイ!」


 返事をしたのかしてないのか、ルメールはきゅるきゅると鳴きながら、遠慮なくアリシアの魔力を脳天からちゅうちゅう吸い始めた。


「ちょ、ちょっとこの子ったら! もう!」


 アリシアが慌てて落ちないように手を添える。やがて一行は車に乗り込み、手を振って見送りに応える。


 「それじゃ、みなさん、ごきげんよう!」


 進路は南。目指すは港町ダダン。ついでに、その途中にある星の卵焼きで有名なオアシス。白地図に新たな軌跡が描かれ、アリシアたちの巡礼の旅は新たな仲間と共にまだまだ続いていく。

ルイスとルメール。新しい仲間が加わり、よりにぎやかになったアリシア一行。

温泉天国に後ろ髪を引かれつつも、一路、次の巡礼地へ。

しかし、道中で待ち受けるはゴブリンロードに、魔族最強の男リュート。

そしてアリシア、ルイスにとって因縁のある、まさかの人物も登場し、

物語は急展開を迎える。


次章、『窮地と再起』

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ