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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第3章 イグナリアの竜神

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第28話 祝賀会

「いやー……二人ともすごい戦いだったわ。おつかれさまー!」


 アリシアの声の後ろで、ポンッと軽快な音を立ててシャンパンが開く(サービスが始まる)。その音にビクッとするユキチとラムネ。笑うギル。泡が弾け、VIPルームの空気が一層華やぐ。円卓の上には豪華な料理が並び、金糸のカーテン越しにアーチヘイブンの夜の灯りがちらちらと瞬いている。ルイスの優勝祝賀会を兼ねて、ラムネが得たスロットの儲け(あぶく銭)で小さめのパーティ―会場を貸し切った。


「……なぁ、ずっと気になっていたんだけど、ギル。あんた、最後わざと手を抜いていなかったかい? あのままやってたらあんたが勝ってたと思うんだけど」


 ルイスがグラスを片手に、ギルににじり寄る。


「ははは、買いかぶりすぎだよ。あのままやってたら負けたのはおれさ」


 ギルは苦笑しつつも視線を逸らす(はぐらかす)


「ふっ……あんたがそういうなら、そういうことにしておくさ。おかげで念願の優勝ができたわけだしね」


 ルイスはそれ以上追及せず、シャンパンを口に運んだ。


「ねぇルイス、それで優勝賞品って何だったの?」


 アリシアが好奇心たっぷりに身を乗り出す(豪華賞品って何かしら)


「これさ」


  ルイスがテーブルの横の袋から、両手で大事そうに何かを取り出した。


「でかっ!……卵?」


「……卵? アリシア、もしかして――」


「「星の卵!?」」


 アリシアとユキチ、顔を見合わせながら、ふたりの声がきれいにハモった(重なる)


「ほしの……たまご?――なんだいそりゃ」


 ルイスは首をかしげた。そして、卵に視線を戻すと、卵について説明する。


「これは……竜の卵だよ。しかもただの竜じゃない」


 ルイスはゆっくりと卵を両手に抱え、まるで幼子をあやすように視線を落とした。


「……うちの里は、イグナリア王国のラグライドっていうところなんだけど、そこでは、火山に住んでる竜神様と共に暮らしてるんだ。だから、わたしらにとって、竜は家族であり守護者でもあるってわけ」


 みんなルイスに話に聞き入る。


「――数年前のことだ。ある日、一人の旅人が調査のためだとか言って里にやってきた。物腰は柔らかで、何日も滞在しては景色や竜神の様子を熱心に記録していたんだ。はじめは警戒していたわたしたちも、その熱意に押されて、しまいには調査を一緒に手伝うまでになるのに、それほど時間はかからなかったさ」


 ルイスの声が次第に低く、憂いを帯びてくる。


「……だが、ある朝、その男の姿は消えていた。残されていたのは短い置手紙だけ――『竜神の卵はあずかった。返してほしくば、アーチヘイブンの大会で力を示せ』――そう書かれていた」


「なにそれ……みんなを騙していたってこと?」


 アリシアが憤慨する(鼻息が荒くなる)


「そうさ。わたしらのような田舎者は騙しやすかったろうな。――竜の寿命は長い、とはいえ、子供をおいそれと作るものでもない。――この卵は、私らの守り神の大切なものなのさ。――わたしは竜神様の卵奪還を誓って、戦士として剣を握り、血反吐を吐くような修行をして……」


 ルイスは苦笑するように息を吐いた(遠い目をする)


「今に至るって訳だ。この大会に挑戦したのも、もう何度目かわからない。勝てそうで勝てなかった日もあったし、怪我で棄権したこともある。でも……今日、やっと優勝できた。これでやっと、里のみんなにうれしい報告ができる」


 彼女は抱える卵を見下ろし、そっと撫でる。


「ひどい! 里の大事なものを奪っておいて、それを見世物の賞品にするなんて……」


 アリシアの声が怒りで震える。


「……それにしても、その男は何がしたかったんだろうな。――盗んだものを売るわけでもなく。言い方は悪いけど、竜の卵なんて、欲しがる奴は山ほどいそうなものだが」


 ギルが首を傾げる。


「ちょっと――ギル!」


 歯に衣かぶせない(ドストレートな)言い方に、アリシアが制止しようとする(割って入る)


「いや、いいんだ。そいつは――ここ、アーチヘイブンのオーナーだって噂だ。せいぜい興行が盛り上がるように、あたしたちを利用したんじゃないか。だが、どうあれ、あいつは約束を守って、卵はこうして今わたしの手にある。今はもうこれでいい」


 ルイスは唇をかすかに歪めた。


「そんなことなら、カジノでもっとぼろもうけしてやるんだったわ!」


「やめとけ、アリシア。おまえは養分になるだけだぞ」


 ユキチにつっこまれ、シュンとする(競馬の結果を思い出す)アリシア。だがふと顔を上げる。


「ん? ルイスの里の名前、ラグライドって言ったわよね」


「あぁ、そうだ」


「ラグライド、ラグライド……どこかで聞いたことがあるぞ……」


 アリシアがぶつぶつ言う。


「あー、ラグライドのルベリオ大神殿!」


 ぱっと顔を上げるアリシアに、ルイスがうれしそうに応える。


「おぉ! アリシア、よく知ってるな。さすがシスター」


「ひょっとして次の目的地か」


 ユキチも反応する。ギルが後ろで軽くうなずく(肯定する)


「お前たちもラグライドに行くのか? なら一緒に行かないか? わたしもこの卵を返しに里に戻るんだ」


「いいの? こちらこそ、是非! ルイスが一緒なら道中絶対楽しいよ!」


 アリシアが即答し、ユキチも肩をすくめながら「まぁ、断る理由はないさ」と笑った。


「いいですね。そうと決まれば……おれがもらった準優勝の賞品を、今晩で使い切らないとな!」


 ギルがにやりと笑い、テーブルの下から小さな木箱をドンと置いた。


「なにそれ?」


 アリシアが箱をのぞく。中は暗くてよく見えない。


「1日限定の特別フリーパスだ。今日だけならアーチヘイブンの高級料理や酒も食べ放題になるぞ」


「え、無料(ただ)で? すごいじゃない。優勝賞品が竜の卵だったから、準優勝は鶏の卵かなーなんて不安に思ってたけど……やるじゃない。大会運営」


 アリシアの瞳がキラキラ輝く。


「多分、それが本来の優勝賞品だ。ラグライド出身のわたしが優勝したから、賞品がずれ込んだんだろう」


「こうしちゃいられない。おーい、給仕さん! この街で最高の酒と料理を片っ端から持ってきて!」


 ルイスの説明は、アリシアの耳にはもう届いていなかった。――間もなく、VIPルームのテーブルは肉の香りと湯気でいっぱいになった。丸焼きの七面鳥、黄金色に焼けたパイ、甘い香りのデザート……そして山のような鶏料理とシャンパンタワー。が「なにこれ頭おかしー!」とタワーの上からシャンパンを注ぐ。


「これじゃ明日の朝は動けなくなるな」


 ユキチが呆れたように言いながらも、手はしっかり肉に伸びていた。笑い声とグラスのぶつかる音が、夜明けまでVIPルームを満たしていた――。

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