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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第1章 出会いと旅立ち

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第11話 聖女

 場に、妙な静けさが落ちた。おかみさんの「ゴブリン?」という声に、ユキチは肩をすくめた。否定するでも(もう)肯定するでもない(どうにでもなれ)。だが、その沈黙こそが何よりの答えだった。


 「……いや、これは……その……」


 アリシアがフォローしようとするが、うまく言葉が出ない(なんて言ったものか)


 「この者は――聖女アリシア様の使い魔です!」


 唐突に、張り詰めた空気を破るように大司教の声(斜め上の答え)が響いた。ぼろぼろになり(頬を腫らし)ながらも、大司教は誇らしげに胸を張り、天に向かって叫ぶ。


「神よ! このような奇跡に立ち会えたことに感謝いたします!」


 その顔は涙ぐんでさえいた。


「聖女様の放った聖なる光は、あらゆる悪しきものを祓い、大地を清めました。そして聖女とともに悪に立ち向かった彼もまた、神が遣わされた使い魔に他なりません!」


 アリシアが言葉を失って固まる(こいつはヤバすぎる)、ユキチが肩をすくめて一歩前に出る。


「……隠しきれませんでしたか。そのとおりです。大司教様」


 ユキチは大司教の話に(よくわからないけど)適度に迎合しつつ、必要以上に丁寧にはならない絶妙な口調になる(大司教の話に乗っかる)


「……ちょっと、ユキチ?」


(悪い、今はこれが一番丸く収まる気がするんだよ。ここまで大騒ぎになっちゃってるけど、俺、目立つの嫌いなんだ。)


(いや、充分目立ってるから! ていうか何その開き直り!)


 二人は小声で軽く応酬する(こそこそ話)。大司教はその姿を遠目に見ながら、うんうんと満足げにうなずいている。


(ほれ、乗っかってこい。お前の番だぞ)


 それを聞いて、アリシアは目を細めて(巻き込まいでよと)ユキチをじっとにらんだ。しばらく無言でにらみ続けたあと、小さくため息をつく(降参する)


(……はぁ。仕方ないわね……)


 肩をすくめて、やや上ずった声で言った。


「私が聖女かどうかはさておき、ええ、そう。そうなの。彼は、私の使い魔なの。えっと……そういうことなのよ。うん」


 とつぜんの聖女呼ばわりに精一杯のアリシア。そのやりとりを見ていたおかみさんが、ぽつりとつぶやく。


「アリシアちゃんが、聖女様……? それにしても、ユキチさんがゴブリンで使い魔……?」


 だが、おかみさんはすぐにふっと笑って、両手を腰に当てた。


「まぁ、でもユキチさんはユキチさんだしね。アリシアちゃんも」


 ユキチもアリシアも拍子抜けしたように目を丸くして、それから少しだけ笑った。


「街はボロボロだけど……でも、私たちは生きてる。まずは、それが一番だよ」


 空を見上げながら、少し寂しげに、でも穏やかにおかみさんが言う。


「……そういうこと。あたし。お腹すいちゃった」


 その一言で、場の空気がふっとゆるんだ(うやむやになる)


「よっしゃ、腹が減ったらなんとやらだ! 大活躍したはらぺこ聖女様とそのお仲間のために、焼き石チーズ祭りの再開と行こうかね!」


 おかみさんが張り切った声で手を打つ(気合を入れる)


「トネリ、使える食材を探してきておくれ。あたしは調理器具を確認してくるよ」


 トネリはうなずくと、すぐさま走り出した。


「聖女様はやめてよ。今まで通りアリシアって呼んで」


 アリシアがむくれたように言うと、おかみさんは「へいへい」と笑いながら去っていく。


「俺はちょっとラムネの様子を見てくるな」


 ユキチが軽く手を振りながら、大聖堂跡の方へと向かう。


「オッケー。私は怪我人がいないか街を見てくるわ」


 そこに大司教が、恍惚の表情で胸に手を当てながら名乗り出た。


「私は聖女様の降臨を皆に伝えてまいります」


「そういうのはやめてって。それより避難した人たちを集めて、今晩過ごせる場所を作らなきゃ。大司教、手配はお願いね」


 アリシアがぴしゃりと(余計なことはするなと)指示を出すと、大司教はその場で感動して膝をついた。


「おお……聖女様、なんと優しいお言葉……! その御心のままに……!」


「なぁアリシア、こいつだんだんポンコツになってないか」


 ユキチがぼそりとつぶやく。


「さぁ」


 アリシアは知らんぷりを決め込んで空を仰いだ。


 満月の夜は長そうだ(さぁ、お祭り再開だ)

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