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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
最終章 ビューティフルワールド

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第105話 創世神話

「やることも決まったようですね。――では地下遺跡に案内しましょう」


 リュートがゆっくりと(お食事タイム)立ち上がった(は終了)。その動きを見て、アリシアが慌てて声を上げる。


「ちょ、ちょっと待って! もう一杯だけ! 魔王殺しの30年ものを……!」


 意地汚くテーブルにかじりつき、グラスに残った琥珀色の液体をストレートで一気にあおるアリシア。


「おいこら聖女。そのお酒、本当にいいやつなんですから、そんな飲み方したら罰が当たりますよ。全部終わったら、ゆっくり続きをやりましょう」


 リュートが呆れ半分(折角の高級酒)諫めるように言う(味わってくれよ)。その声音には意外にも誠実さがにじんでいた。


(……こいつ、見た目のわりに真面目なやつなのかもしれんな)


 アリシアから(魔王殺しは)ボトルを奪う(没収です)リュートを見ながら、ユキチはそう思う。


「ほんとに? また飲める?」


 アリシアは(聖女が魔族に)情けない顔で(敗北した瞬間。)名残惜しそうにグラスを見つめている。そんな中、ギルがふと口を開いた。


「サイトー。よければ、さっき言ってた原初の魔王について教えてくれないか? おれが読んだ教会の古代文献でも、そんな単語は聞いたことがないんだが」


 ”原初の魔王”。不穏な響きを放つその言葉が、ギルの胸に引っかかる。だが、サイトーの回答は相変わらず軽い。


「え? 記かれているよ。聖書の最初に――」


 突如、サイトーの聖書朗読会が始まった。


「はじめに闇があった。

 やがて闇より生まれし豊饒の大地。

 闇を(たた)えよ。

 その闇、おおいなる父にして母なる神。

 その名を――」


「ディウヌ神という」


 ギルがサイトーの言葉を引き継いだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ何? あたしたちがお祈りしている神様って、その原初の魔王ってやつなの?」


 アリシアが思わず身を乗り出す。


「うーん……そうとも言えるし、そうでないとも言えるかな」


 サイトーは少し考えるように言葉を選ぶ。


「本当はこれ言ったらまずいんだけど……このメンバーならいいか。どうせ俺、もう強制退会(BAN)されてるしな」


 ぶつぶつと独り言(今更隠し事しても)のように呟いてから(しょうがないよな)、サイトーは話を続けた。その内容は正直、アリシアたちにとって突拍子がなさすぎるものだった。


「原初の魔王ってのは――1億年前くらいにこの星にやってきた、別の星の生命体だ」


「「い、いちおくねん……?」」


 アリシアとユキチが同時に声を上げる。


(ねぇユキチ、1億年前ってどれくらい前なの?)

(知るかよ。おれ2歳だぞ。すっげぇ前ってことしかわかんねぇ)


 アリシアの小声に、ユキチが即座にツッコミを返す。二人のやり取りを聞いて、サイトーが吹き出した。


「ふふふ。まあ、そう言われても実感湧かないよね」


 彼は笑いながらも、淡々と説明を続ける。


「人間がこの星で生まれたのが、おそらく500万年前。だから1億年前なんて、文明どころか動物の進化も始まってない頃さ」


「ごめん。そう言われてもやっぱり想像つかないわ……」


 少なくとも、両手の指を使っ(おじいちゃんの)て数えるような(おじいちゃんとか)、そういうスケールではなさそう。


「まぁ、ユキチの言う通り、すっげぇ昔で十分だよ。そのとき、流れ着いた――というより、空から落ちてきたって言った方が正しいかな。その存在こそが、原初の魔王だ。もっとも、地表に到達したときには、すでに死んでいたんだけどな。そしてその原初の魔王の死骸が落ちた場所――そこにできたのが、今のジェネス大陸だ」


「ば、ばかな――そんな話、聞いたこともないぞ!」


 リュートが信じられないと(丁寧語を忘れる)首を横に振る(ほどの衝撃)


「そうだよね。だって1億年前だもの」


 サイトーは淡々と答える。


「でもね、今でも確認する方法はある。それが、魔素。――普通の世界には存在しない概念。魔素は、原初の魔王の体に蓄えられていた、この星にはなかったエネルギー。空から落ちた原初の魔王は地中深くに沈み、そこからじわじわと漏れ出した魔素が、長い時間をかけてこの世界を汚染し――あるいは変容させた」


 まだまだサイトーの(みんなサイトーの話に)話は止まらない(圧倒されっぱなし)


「だから、ジェネス大陸は世界で最も魔素濃度が高いんだ。そして、その地で暮らす人々は魔素の影響を過分に受けて、やがて魔族へと進化していったってわけだ」


 サイトーの言葉に、リュートが反応し、質問を投げた。


「ちょっと待ってください。今、人間が魔族に進化したとおっしゃいましたか? それは本当なのですか?」


「ああ、本当さ。さっきも言ったけど、人間が誕生したのは約500万年前。――特に人間は、環境に合わせて変化するのがうまい生き物だ。魔素を取り込めば魔族に、森の精気を吸えばエルフに、竜の精気を浴びればドラゴニュートになる。 もとは皆、同じ種族――ただのサルだったはずなのに、原初の魔王から垂れ流される魔素が進化を促したんだ」


「そんな……われわれは由緒正しき魔王の子孫なのではないのか……」


 信じられないと、リュートが肩を落とす。


「その言い方もある意味合っているよ。大量の魔素を取り込んで、原初の魔王の影響を一番に受けているのだから――。一方で原初の魔王が与えた影響は人間だけじゃない。ドラゴンに代表されるような魔獣。ユキチやラムネのような魔物たちもそうだ。――この星の生態系は、魔素によって姿を変え、やがて今のように複雑で豊かな世界を形づくった……それゆえ、原初の魔王は世界の発展の礎として記録され、はじまりの神と呼ばれるようになった。それが――ディウヌ教の原点だ」


 ――沈黙しーん。リュートだけでなく、アリシアたちも言葉を発せずにいた。サイトーの衝撃のお話(カミングアウト)に、ただ言葉を失っていた。


 その沈黙を破ったのはユキチだった。


「なぁ、サイトー。月の観測所ができたのは3千年前だって聞いたけど、お前、どうしてそんな昔のことまで見てきたように知ってるんだ?……お前はいったい、どれくらいの時間を生きてるんだ?」


 その声には、わずかな恐れがにじんでいた。ユキチの脳裏に、アルドラの言葉がよみがえる。――「宇宙の星々を調べている」と、確かにそう言っていた。星の寿命は何億年、いや、何十億年。そんな星々を見つけ、記録し、比べるには――1億年ですら、ほんの一瞬の出来事のように感じるのかもしれない。


 だとすると、ソーマプロジェクト――それはもはや想像もつかない、それこそ神話すらも超越した存在なのではないか。


 そんなユキチを察してか、サイトーは苦笑する。


「ぶっちゃけ言うとな……俺、いや、俺たちにとって、この世界での時間はあまり意味をなさないんだ。――あ、やべ。理事会からお怒りのメッセージが来ちまった。すまん。俺が話せる裏話はここまでだ」


 それを最後に、サイトーはそれまでの饒舌な軽口から一転、口をつぐんでしまった。……ただ一人、ユキチの首輪にだけ(プライベートモードで)サイトーの声が届く。


(時間はあるんだ。これが終わったら、ゆっくり教えてやるよ。)


 サイトーの、いつもの軽い声。ユキチはため息をつき、肩をすくめた。


「……まったく、とんだ話に巻き込まれたもんだな」


 誰に言うでもなく、ユキチはひとり呟いた。

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