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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第1章 出会いと旅立ち

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第10話 黒い霧

 ゴーレムの咆哮が街を震わせる(すっげぇ声)。その巨体が大地を揺らして(ずしんずしんと)グラスノヴァの街(それまでの平穏)を蹂躙する。


「あんなにでかいのに、防御も完璧とか、反則じゃない!」


 走りながらアリシアが叫ぶ(どうしろっていうの!)


「全くだ。ゴーレムの外皮は石でできてて刃も魔法も通らないし、核になってるおでこの大司教はスライムで守られてる……どっちから攻めるべきか……」


 ユキチは歯噛みした(悔しがる)。ゴーレムの頭にくっついてる大司教は、相変わらずうつろな目をしていた(意識がなさそうだ)。そしてそんな大司教を守るのは──かつて分裂したラムネの片割れ(野生化したスライム)


 そのとき、ユキチとアリシアの前にラムネが飛び出した。


「ラムネ! 無事だったか?」


 ユキチの問いにラムネは大きくうなづく(ぷるぷる)。そのラムネを見ながらアリシアはつぶやく。


「相手がスライムなら……こっちもスライムで……でも質量が……」


「アリシア、何か思いついたのか?」


 独り言を続ける(ぶつぶつつぶやく)アリシアに声をかけるユキチ。


「──これなら! 二人とも! 来て!」


 アリシアは再びゴーレムの方に(何の説明もなく)走り出した。


「くそっ! なんなんだよ。まぁいい。勝ち目があるなら乗るのみだ。……あいつはああ見えて頼りになるんだぜ。大丈夫だ。行こう、ラムネ」


 そう言うとラムネを頭に乗せて、ユキチもアリシア後を追う(ゴーレムに向かう)



 アリシアが向かった先はゴーレム──ではなく、その向こう、ゴーレムが現れた元ロシアナ大聖堂の跡地。大聖堂の面影はどこにもなく(ゴーレムの足跡に)崩れた壁や天井(その名残りだけ)があちこちに散らばっている。


「こんなところに来て、どうしたんだよ」


「ちょっとまってね。確かこの辺に……」


 アリシアは今にも崩れそうな瓦礫の一角に頭を突っ込むと、奥に潜りながら(お尻を振りながら)探し物をしている。


「あった!」


 ずりずりと引き出してきたのは、聖水が入っている木箱(救急セット)


「この下にも何個かあるわ」


「ほう。で、これをどうするんだい?」


「これを──こうするの!」


 アリシアはおもむろに聖水の蓋を取ると、ユキチの手元にいたラムネに瓶ごと突っ込んだ(手を突っ込んだ)


「これに私の魔力を加えて……」


 すると、ラムネが薄く光る。そしてやや膨らむ(ラムネの体液になる)


「おお!?」


「ほらユキチ、ぼーっとしてないで聖水入れるの手伝って!」



 ──それからしばらく、バケツ(聖水)リレーをする二人。周りには大量の使用済みの瓶が散らばっている。


「なぁ、まだやるのか?」


「ラムネの元の大きさは人の頭くらいって言ってたわよね──だから、向こうの野生(のら)ラムネに対抗するなら、せめて、それと同じくらいにはラムネに大きくなってもらわないと」


「そういうことね」


 頷くユキチ。


「おっきくなったラムネを私の魔力で更に強化して、野生(のら)ラムネをやっつけちゃおうって寸法よ!」


「なるほどね。打撃や斬撃は効かないけど、同じスライム同士ならあのバリアにも攻撃は通るってことか。……行けるよな? ラムネ」


 ラムネは、突然の二人からの期待のまなざしに、不安そうに震える(ぷるぷるぷるぷる)


「大丈夫。あなたならやれる。なぜって、このあたしが全力で応援するんだから」


 ──アリシアの謎の自信(いつものアリシア節)に苦笑いするユキチ。ラムネも聖水を次々に吸収して(すくすくと育ち)、人のあまたの大きさどころか、ちょっとした大きな岩石くらいの大きさにまで急成長した。


「すげぇ。こんなでかいスライム見たことないぞ」 


 ちょっと楽しそうなユキチ。そうこうしているうちにも、遠くではゴーレムの足音(「ズズーン」)人々の悲鳴(「キャー」)が聞こえている。


「よし。準備はできた! あとは手はず通りにね! よろしく! ラムネ! ユキチ!」


「おう! でもラムネ。重くなったな。あそこまで運ぶのも一苦労だぞ」


「そうね……これを借りましょう!」


 そう言ってアリシアは、どこかから一輪の手押し車(ネコ車)を持ってきた。


「これを押すのは……俺ってわけね。いいぜ。飛ばすから、振り落とされるなよ、ラムネ!」


 こうして舞台は再び戦場へ(リベンジが始まる)──



 街中で(好き放題に)暴れているゴーレムの後ろから、忍び寄るアリシアたち。ラムネは手押し車からずるりと這い出し、大司教を守るゴーレムのバリア()をじっと見つめる。


「……行ける?」


 アリシアが問いかけると、ラムネは力強く、頷いた。


「……わかった。あたしが合図を出すわ。そしたら作戦開始よ!」


 アリシアはゴーレムの正面に回ると、両手から持てるだけの聖水の瓶を取り出し、大司教に向かって(これでも)投げる(くらいやがれ!)


「まずは仕切り直しの挨拶よ!」


 宙を舞う聖水に向かって魔力を放つ。強烈な(目も開けられない)眩い白光が弾けた。さすがに顔までは届かなかったものの、ゴーレムの胸元で閃光が走る(結構な威力の爆発)目くらましには十分だ(挨拶としては上々だ)


 動きが止まった(その隙に)ゴーレムの死角から、ラムネがしゅるしゅるとゴーレムの足に取り付き、染み込むようゴーレムの隙間を通って頭を目指していく(ロッククライミング)


「こっちだ! デカブツ!」


 ユキチがゴーレムの気を逸らすように、挑発する(石を投げる)。ゴーレムがユキチの方にゆっくりと振り返り、踏みつぶそうする(攻撃目標を変える)それをかわすユキチ(しかし、当たらない)。そしてゴーレムが何度目かの足を上げたその瞬間……ゴーレム頭部の(野生のラムネの)バリアがぐにゃっとゆがむ。ラムネが野生(のら)ラムネに攻撃を始めたのだ。


 スライム同士の戦い(ぷるぷるファイト)は外部からはよく分からないが(楽しそうだったが)聖水とアリシアの力(チーティング)で大きく、強くなったラムネが優勢のようだった。大司教を守るバリア(シャボン玉)はぐにゃぐにゃしながら、次第に崩れていく(こわれて消えた)


「よし……今だっ!」  


 ユキチはその隙を見逃さない。速攻でゴーレムを駆け上がり(グッジョブ、ラムネ!)大司教へ肉薄する(あとは俺に任せろ!)


「おらあああああっ!!」


 もうユキチの攻撃を遮るものは何もない。ユキチの拳が唸り、大司教の顔面を捉えた(クリーンヒット)。大司教はきれいにゴーレムの頭からはがれ、夜空に飛んでいく(生きているといいな)


「よっしゃー!」


 額の大司教が離れると、ゴーレムもバランスを崩して片膝をつく(手ごたえあり!)。ついでに大司教の手から離れた例の本(どすけべシスター)が、きれいな放物線を描き、下で様子を見ていた(応援していた)アリシアの顔面に直撃した。


「へぶっ!……なにこれ? 禁書? どうして?」


 鼻を抑えながら手元の本(エロ本)を観察するアリシア。その脇で片膝をついたゴーレムは崩壊をはじめ────ない。それどころか、また立ち上がろうとする(これ、まだ動くのか?)


「くそっ! なんでだよ……まだ、止まらねぇのか!?」


 大司教を失ったことで制御を失ったゴーレムが、暴走を始める(おかしくなる)。 蒸気のような魔力の煙が体のあちこちから噴き出し、岩石の隙間の関節は赤黒く脈打つ。 そして胴体の中心部(ゴーレムの体の奥深く)──球状の物体が、不気味に赤く明滅していた(心臓のように脈打つ)


「あれが核か!? やっぱり頭じゃなくて胴体にあったじゃねぇかっ!」


 ユキチが叫んだ(だから言ったのに!)


「そうみたい! でも大司教が離れるまで光ってなかったってことは、大司教と今光ってる核でワンセットだったのかも! とにかく、あれを壊せば、ゴーレムは止まるはず!」


「そう願うぜ!」


 試しにナイフを光っている場所に投げてみるも、


「カンッ」


 とはじかれてしまう。


「どうする? アリシア? あの核を壊すには、その周りの硬そうな殻をまずはどうにかしないと──俺の攻撃じゃ傷もつけられない」


「ちょっと待ってね。もしかするとこの本に何か手掛かりがあるかも」


 アリシアが鼻血を出しながら、真剣な顔で禁書(エロ本)を読んでいる。鼻血が出ているのは本が顔面を直撃した(物理的な理由)からか。それとも、別の理由があるのか(精神的な理由か)──それはアリシアにしかわからない。


「えっ……」


「うわっ……」


 頬を赤らめつつも(どすけべシスター)(ローション地獄)をすごいスピードで読み進めるアリシア。


 そして出した結論。


「よし! この本にはゴーレムについては書かれてなかったけど、スライムを強制使役する方法ならわかったわ!」


「さっきのおっさんは、それを使って野生のラムネ(のらスライム)を使役していたのか!」


「そういうこと! そして、大司教と野生(のら)スライムがいなくなって、あのゴーレムは制御を失った……つまり、あのゴーレムはスライムを介して動かしていたのよ!──そしてそれなら、今のラムネでも同じようにできるはず!」


 禁書を懐にしまうと(鼻血を拭くと)、勝利の糸口を見つけた喜びで、ガッツポーズをするアリシア。


「ラムネとあたしで力を合わせて、あのゴーレムをコントロールを奪う! あの大司教にできて、あたしたちにできないはずがない!」


「ラムネ! あたしと従魔契約結んでくれる? 強引な形になっちゃって悪いんだけど……このゴーレムを止めることができるのは、あなたしかいないの……!」


 ゴーレムの隙間からにゅっと出てきたラムネ。ぷるぷる震えてる(OK?そともNG?)。多分OKの震え方だ! そう認識した(勝手に思った)アリシアは、胸の前に指でハートマークを作ると、先ほどの(どすけべシスター)(ローション地獄)に書かれていたスライム使役の儀式を始める──


「ぷるぷるの名のもとに契りましょっ☆聖なるしずくは輪になって、とろける心は拒まない──ラムネ! 私の声にぷるっと答えて!」


(呪文まで最低だ──)


 傍で首を振るユキチ。ふざけた呪文を唱えても真剣な顔のアリシア(当の本人は大まじめ)。そしてそれまでの愛らしい呪文とは打って変わって、アリシアの喉から不協和な音列が漏れだす。


「ヴルゥ・グ=ググ=ネ゛リュ……ホァ・シ=ブゥル=トクァ、ナ゛ラ゛=メェル」


 アリシアの言葉が空間を濁らせ、ゴーレムの節々に入り込んでいたラムネが光りだす。


「ロロ☆ラ☆サンクティ♡」


 仕上げにアリシアが投げキッスをすると(ふざけた終わり方)、ラムネの光がより一層強くなる(確かに効果があった)


「おお!?」


「よし! これでうまくいったはず」


「それにしてもすごい儀式だったな。これをあのむっつりのおっさん(大司教)がやったと思うとぞっとするぜ」


「……それは言わないで……それはそうと、ラムネ、聞こえる? さっき戦った野良ラムネの情報を吸い出して、きみが代わりにゴーレムを操作できないかしら?」


 ラムネの青白い光がゴーレムの赤く光っている胴体に集まっていくのが外から見てもわかる。青白い光が徐々にゴーレムの赤黒い光を押し込む。蒸気も収まりはじめる(このままいけば勝てる)


「いいぞ! ラムネ! やっちまえ!」


 やることのなくなったユキチは応援に回る。そしてしばらくして、ゴーレムの光が消えた(ゴーレムに勝利した)と思ったら……



 ────ドン!────


 ゴーレムの胸元から、突然禍々しい黒い霧が吹きだした。


「なんだ、あれ?」


「あたしが知るわけないでしょ。……でも、よくないものなことだけは確かね。ラムネは? 大丈夫?」


──大丈夫。という感覚が使役契約のラインを通じて伝わってくる。


 ゴーレムは核も含めて全てラムネが支配した(終わったはず)。が、ゴーレムを暴走させていた何かの因子が、ラムネに押し出されて噴き出している(断末魔をあげている)。そんな核からごうごうと立ちあがる黒い霧。運悪く近くを飛んでいた鳥が霧に触れたとたん、パタッと落ちる。


「あれは何だかわからねぇがやべぇ。アリシア! 間違っても吸い込むんじゃねぇぞ!」


「わかってる! って、えっ……なにこれ……?」


 ふと右手に目を向けると、手の甲の刻印が光っている(なんじゃこりゃあ)


「おお!? ゴーレムやラムネだけじゃなくて、お前も光るのか?」


 うらやましそうに(俺だけ光らない)ユキチがつぶやく。


「あたしは光りたくて光ってるわけじゃないからね! ってか、これ、爆発するとかそういうんじゃないわよね。この刻印(スタンプ)押したの、あそこでさっきまでゴーレム操ってた大司教おっさんなんですけど」


 心配そうに刻印スタンプを見つめるアリシア。特に嫌な感じはしないが、不安になる(気持ちわるい)


 そうこうしている間にも、立ち込める黒い霧が広がり、アリシアとユキチに(すごい勢いで)迫る。


「──こっちこないで、やだ、やだ、やだ!」


 アリシアは半泣きになって走りながら、近づいてくる黒い霧に向かって、魔法の形にもなっていない魔力の塊を撃つ(ただただあがく)。──残念ながら、しかし想定通り、効果はなさそうだ(霧は勢いを緩めない)。発せられた魔力は虚しく、霧をすり抜けてしまう。このまま黒い霧に触れてしまうと、多分ゲームオーバー(神様のところへ直行)だ。もちろん、コンティニュー(救済措置)はない。


「アリシア!! 風魔法だ! 竜巻であの霧を晴らせないか?」


 ユキチが走りながら、アリシアに提案する(小手先の策を考える)


「だめ! あたしが使えるのは神聖魔法だけ! 風を起こすとかそういうのは……やっぱないかも」


「そうか……」


 残念そうなユキチ(都合よくいかないよな)


「あっ!」


 考えながら走っていたアリシアは瓦礫につまづき、転んでしまう。


「アリシア──!」


 ユキチの声もむなしく、アリシアが黒い霧に飲み込まれる(いよいよもう駄目)、その瞬間──


 輝く刻印の右手が(何で光っているのよ)、アリシアの意思とは無関係に霧に向けられた(動き出す)


「え……ちょっ……ちょっと、なにこれ──手が動かない……」


 転んだことに加え(弱り目に)右手が動かない(祟り目)黒い霧に飲み込まれる(もう一巻の終わり)。アリシアは、いよいよパニックになる。


 そして、アリシアの口から、アリシアの知らない言葉が、またしてもアリシアの意思とは無関係に発せられる。


「ズ=ッハグ・ネ゛ェル=トクァ、ヒ゜シ・ュル=ァォ、グ、グルゥヴ=ァ=ル=ググル……」


恐怖で首を振る(だめ、止まらない)。口から洩れる言葉は続く。口が勝手に紡ぐ言葉は、心なしか、さっきのラムネとの契約呪文に似た響きがする。発音の一部は可聴域を超えている(独特で変な発音)。右手も未だ動かず、黒い霧の奥に向けられたままだ。刻印の光だけがさらに輝きを増す。


「コォ・ナラ゛=ピシィ=ラフ、クァ=ァム・ルゥゥゥ・ズバグ、エ=シャグ=ク・チョワ=ンォ……」


 いつ終わるとも知れない、長い詠唱が終わると(歯切れの悪い終わり方)同時に、強力な光の奔流(ゴン太ビーム)が右手からほとばしる。黒い霧はその光に切り裂かれていく。白い閃光のなか、黒い霧が悲鳴のような音を立てながら消えていく。そして、その隙間からのぞく夜空には丸い月が浮かんでいた。


 ────静寂(物音ひとつしない)


「終わった……のか──?」


 白い光も黒い霧も消え(なにもなかったように)、静か。呆然と座り込むアリシアと、そのそばで立ちつくすユキチ。アリシアをそっと見ると、その右手の刻印はもう光っていなかった。


「立てるか、アリシア? 怪我はないか?」


 アリシアに手を差し伸べながら心配そうに聞く。


「今のは──?」


 ユキチの手を取りつつも、未だに状況が理解できない(わけわからない)


「お前がやったんだろ。すごいじゃないか。切り札があるなら、あるって言ってくれよ。ひやひやさせやがって」


「いや、あたしじゃない。あたしも、もうダメかと思ったの……それなのに右手が突然勝手に動き出して……」


「それこそが……神の……ご加護です……」


 向こうから大司教(ボロボロのおっさん)が歩いてくる。ほっぺたはユキチに殴られた跡がついており、真っ赤に腫れている。


「わ! むっつり大司教!」


 叫ぶアリシア(生きてたのか!お前!)


「ん……? むっつり……?」


 聖職者にそぐわない呼び名に、首をかしげる大司教(むっつり)


「あはは。気にしないでください」


「あの光は、おそらく古の文献に記されていた神の光。すべての悪しきものを払うといわれています」


「なんでまた、そんなすごいものがあたしの右手から……?」


「それはわかりません。神の導きとしか……私も初めて目にしました」


「それにしても、お前(大司教)、なんであんなところにいたんだよ?」


「すみません。あんなところとは……? お恥ずかしながら記憶があいまいで……」


「お前が、あのゴーレムに乗って、街を破壊してたんだよ」


「街を……? 私が……? ゴーレム……?────うわぁぁ!」


 大司教が振り返ると、目の前にはゴーレム(大聖堂)の残骸。その周囲には瓦礫だらけの街並み(見るも無残な状態)。その驚き方は演技ではなさそうだ(本当に記憶喪失っぽい)。街のあちこちではまだ混乱が収まっておらず、夜の暗がりの中、あちこちで起きている火事の明かりがその凄惨な状況をところどころ照らしている。それを見た大司教は、静寂の大神殿の責任者とは思えない大声を出した(悲痛な叫び声をあげる)


「こ──これは、一体!? 街が、大聖堂が──!」


 きれいだったグラスノヴァの街並みも、遠くからもよく見えたあの威厳ある大聖堂も、今は跡形もない。


「その様子だと、本当に何も覚えてないっぽいな」


 皮肉交じりにユキチの口角が上がる(マジで記憶喪失か)


「これ、あんたがやったんだよ。もしくは、あんたを操っていた何かが──」


「そんな──」


 ──グガガガガ……


 その時、ゴーレムがゆっくりと動き出した(立ち上がる)


「まだ終わらないのか──」


「──大丈夫。あれはラムネよ」


 アリシアの声にこたえるかのように、ゴーレムが、ズンッ、とジャンプする。


「あぁ──確かに。ラムネだ」


「ラムネ、そこにいると、みんな怖がるから、大聖堂のあった場所に行ってくれない?」


 ゴーレムはぎこちなくうなづくと、大聖堂跡地へ(住民は恐怖だろうが)歩き出した。


「──おーい。あんたら、大丈夫だったかい?」


 遠くから走ってきたのはおかみさんとトネリ。避難する住民を誘導していたところ、ゴーレムに立ち向かう(無謀な挑戦をする)アリシアとユキチを見かけて、遠目に見ていた(ハラハラしていた)らしい。


「なんだったい、ありゃぁ──私たちの街をめちゃくちゃにしやがって」


 率直な市民の声を聴いて、思わず顔を伏せる(自分の罪を再認識する)大司教。


「それにしても、あんた、その姿──」


 おかみさんがまじまじとユキチを見つめる。


 ゴーレムとの戦いで衣服はあちこちボロボロ。そしていつも顔に巻いていたマフラーも、ちぎれて、もうほとんど糸(顔を隠せない)。月明かりの下、ありのままのユキチの姿が照らし出される。


「ゴブリン──?」


 おかみさんの声が、瓦礫の街(グラスノヴァ)にこだまする。

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