第104話 作戦会議
「シシド――。あいつは何なんだ。切っても死ななかった。そんな奴、どうやって倒せばいい?」
リュートが憎々しげに吐き捨てる。確かに真っ二つにして、血だまりに沈めたはずなのに。それでも生きていた。
その時、アリシアの腕輪からサイトーの声がした。
「シシドの件については、俺も話に混ぜてくれないか?――あいつが次にやることについて、心当たりがある」
「誰だ!?」
リュートとバーキッシュが即座に構える。
「まったまった。この人はあたしたちの仲間よ。今は声しか聞こえないけど、細かいことは気にしないで」
アリシアが二人をなだめる。
「そうなのですか……? で、心当たりとは?」
まだ納得しきれない様子でリュートが問い返す。
「この魔王城の地下に遺跡があるのは知ってるか?」
サイトーの声が低くなる。
「地下遺跡? 確かにありますが、ただの洞窟ですよ。そんなところに何かあるとは思えませんが……」
「あるんだな、それが。――遺跡の更に地下深くに」
意味深に言葉を切るサイトー。ユキチがはっとしたように息をのむ。
「それって、まさか――」
「そう。プラネットシード。……そして、プラネットシードのすぐ近くには原初の魔王の死骸が横たわっている」
「プラネットシード? 原初の魔王? 聞いたこともない。おまえは何の話をしているんだ?」
リュートが首を傾げ、アリシアの腕輪に向かって問い詰めるように言った。
「それについてはおれも知りたいな。なぁ、サイトー、そのプラネットシードって結局何なんだ? アルドラから星の記憶なんて言われたけど、具体的に何なのかよく分からないんだよ」
ユキチもリュートに重ねて問いかける。声は素っ気ないが真剣だ。腕輪の向こう、サイトーは落ち着いた口調で説明を始めた。
「プラネットシードか……言い方次第だ。星の記憶とは詩的な表現だが、実態を言えば――この星の<種>だ。ランダムが支配するこの宇宙で、乱数制御のキーになる情報。プラネットシードがあれば、たとえこの星、この宇宙が壊れても、似たような星を生成することができる。もちろん、完全なコピーではないがな」
リュートはますます狐につままれた顔をしている。
「はあ……星を作る? 神話の類かなにかですか?」
ユキチはサイトーの言葉を反芻して、何かが腑に落ちる。あのとき玉座の間でシシドがなんと言っていたか――「プラネットシードはすでに入手した」「この世界は用済みだ」――要するに、シシドはこの世界を終わらせ、プラネットシードで新しいエクシリアを作ろうとしている。
「なるほどな――百歩譲って、この世界のコピーを作るくらいはさせてやる。だがこの世界を終わらせるのは――許さねぇ。ここはおれたちが生きる世界だ」
声に熱がこもる。ユキチは視線で全員を一巡する。
「んで、その原初の魔王……だっけ? その力を復活させて、世界を終わらせようってわけだ。シシドめ、ふざけやがって。――ともあれ、一番の問題は、肉体に縛られないシシドをどうやってぶん殴るかだな」
ユキチは好戦的に笑った。
「それは簡単だ。ユキチ、きみもシシドと同じく、神様になればいい」
サイトーの単刀直入な提案に、ユキチはあからさまに嫌な顔をする。
「はぁ? おれが神様にぃ? 勇者の次は神様かよ。サイトー、さすがにゴブリン使いが荒すぎないか?」
「そういうなよ。おまえに全部押し付けて、申し訳ないと思ってる。でもな、今のお前が適任なんだ。理事会でも承認が下りている」
有無を言わせぬサイトーの口調に、ユキチは思わず眉をひそめた。
「まぁ、神様って言っても、なんだ。期間限定のやつだから、難しく考える必要はないさ。きみの権限を超上位管理者にする。その権限を使って、シシドを強制退会してくれ。あとはこっちで何とかやる。細かいことはおれがサポートするよ。シシドを倒して、世界を救ってこい」
あまりにも軽い口調に、ユキチは更に顔をしかめる。
「くっそ簡単に言いやがって……。わかったよ、やればいいんだろ、神様ごっこ。サポート体制は至れり尽くせりみたいだけど。で、おれは具体的に何をしたらいいんだ?」
観念したようにため息をつくユキチ。いくら悪態をついたところで逃げ場はないと悟っている。
「そうこなくっちゃな。ユキチにやってもらいたいのは、シシドの“ID”を読み取ることだ。きみたちっぽく言えば、真名を暴くってところだな。それさえ分かれば、あとはユキチのコマンド一発で強制退会完了だ」
サイトーはどこか楽しそうに言う。
(……絶対こいつ、人ごとだと思って楽しんでるだろ)
ユキチは心の中で毒づく。
「オッケー。それで、そのIDを知るには何をすればいい? まさか管理者権限持ってれば、見るだけで解決ってわけでもないんだろ」
未だに具体的な作業のイメージがつかめない。
「はは、一般人ならそれで済むんだが、なんせ相手も管理者だ。個人情報はがっちがちに守ってるはずだ。そこでだ――観測所で使ったステータス測定器を覚えてるか? あれと同じ機能が、アルドラが渡した君たちの腕輪にも内蔵されている。その腕輪でシシドに触れればいい。IDの取得は、こっちで自動処理する」
「なるほど。……それだけなら、簡単そうだな」
ユキチは肩の力を抜く。だが、その言葉をアリシアが遮った。
「ちょっと待って! シシドって、今は肉体がない状態なんでしょ? 肉体がないなら、触れること自体できないんじゃないの?」
サイトーは即答した。
「そこは大丈夫。シシドは――原初の魔王の肉体に必ず転生する」
「へぇ……ずいぶんな自信だな」
ユキチの声には半分あきれ、半分皮肉が混じっている。
「ふふふ。長い付き合いってやつさ」
サイトーのどや顔が頭に浮かぶ。




