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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第8章 勇者爆誕

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第101話 サイトー

「何から話そうかな……ユキチは、もうソーマプロジェクトのことは知っているんだよな」


 腕輪から、懐かしいサイトーの声が響く。


「ああ。もうメンバーの一員だ。アルドラとハセガワから、プロジェクトについてある程度のことは聞いた。それに……俺が管理者権限を持っているってこともな」


「巻き込んで悪かったな」


 サイトーは、少し苦笑するような声で続けた。


「俺のちょっとした好奇心がきっかけだったんだ。……覚えてるか? テイムしたばかりのころのお前は、“ウゴウゴ”しか言わないゴブリンでさ。かろうじて身振り手振りで意思を伝えるのがやっとだった」


 ユキチは黙って耳を傾ける。もちろん――覚えているわけがない。


「そんなゴブリンが、俺の話し相手になってくれないかな、と思ったのが始まりなんだ。おまえのレベリングをしながら、並行して基本人格をプログラムした。そして……昔開発した首輪を通して、きみの――そう、“魂”を作ったんだ」


 一瞬、サイトーの声が途切れた。やってしまったことへの後悔が、わずかに滲む。


「それからの旅は楽しかったよ。一緒に話して、笑って、いろんな世界を回った。そうこうしているうちに……お前とずっと一緒にいたいと思うようになったんだ」


「まさか――」


 ユキチにはだんだんサイトーが何を言おうとしているか見えてきた。


「そう。そのまさか」


 サイトーの声が少しだけ震える。


「ゴブリンの寿命は短い。だから、お前を俺たちと同じ存在にしようとした。なんて言えばいいかな……そう、存在のレベルを引き上げたんだ」


 腕輪越しに話を聞いていたアリシアたちも、その言葉に息をのむ。ガラムの治療を続けながらも、耳は自然と会話に引き寄せられていた。


「ユキチ。きみは管理者権限を持っているって言ったけど、俺にとって大事なのはそこじゃない。――きみは、おれたちと同じ、永遠に生きられる存在なんだよ」


 一瞬、空気が止まる。ガラムを癒す回復魔法の光だけが、静かに広間を照らしていた。


「……ま、そんなことを一介の魔物にするなんて前代未聞でさ。他のメンバーには散々怒られたさ。それで、俺は――こんな状態になっちゃったわけさ」


 腕輪の向こうで、小さなため息が聞こえた。声だけでも分かる。サイトーの、あのやれやれという仕草。


「ま、今度はシシドがやらかしてるぞー、っていうんでね。きみの保護者として急遽、強制退会(BAN)が一時解除されたんだ。今、こうして話せるのも、そのおかげさ」


 ユキチは黙って腕輪を見つめる。しばらくの沈黙のあと、ぽつりと口を開いた。


「……話してくれてありがとう。おれに、そしてサイトーに何が起こったのか、やっとわかった気がする。でも――おれは、永遠の命よりも、サイトーと一緒に旅がしたかったな」


「……そうだよな。ごめん。相談もせずに、勝手なことをした」


 静かな時間が流れる。やがてユキチが小さく笑う。


「でもな。そんなおれにも仲間ができたんだ。食いしん坊のシスターに、サイトーもよく知ってるスライム。メカニックが大好きな神父に、しっかりしてそうで抜けてる竜戦士――」


「キュイ!」


「そうそう、小さいのに頼りがいのある子竜もな。……ああ、なんだか怒涛の日々だったよ」


 ユキチは遠い目をする。


「楽しかったかい?」


 サイトーの声が、いつになく柔らかく響いた。


「うん。とっても」


 ユキチの満面の笑みが、自然と浮かぶ。


「よかった。……君がつらい思いをしていないか、それだけが心配だったんだ。アリシア君、それにみんな。ユキチと仲間になってくれてありがとう。そしてアルドラ――手助けしてくれて、感謝してる」


「お気になさらず。いつものことです」


 アルドラが穏やかに応じる。その声には、旧友に接する優しさがあった。


「いつものことって……サイトー、おまえ、いつもこんな無茶してるのか?」


「そんなわけないだろ。俺はいつだって品行方正だよ」


「どうだか」


 ユキチが鼻で笑うと、腕輪の向こうでサイトーが苦笑する気配が伝わってきた。少しだけ和やかな空気が広間に戻る。


 そのとき、アリシアが声をかけてきた。


「歓談中ごめんなさいね。こっちは無事、なんとかなったわ。あとはお兄ちゃんの体力次第ってとこだけど……ま、きっと大丈夫でしょ。念のためラムネの分体をお兄ちゃんの体内に残して、弱った部分をサポートさせておくつもりよ」


「よかった……ありがとう、アリシア、ラムネ!」


 ルイスが震える手で(ありがとう。)アリシアの手を握る(本当にありがとう)アリシアは(あたしのお兄ちゃん)照れくさそうに(でもあるんだよと)笑って、ルイスの手を軽く握り返した。


「よし。じゃあ、ひと段落ついたところで――これからの話をしようか」


 サイトーの声が響く。その言葉に(ついに)一同の顔に緊張が走る(自称神様と戦うとき)


 ――が。


「その前にっ!」


 アリシアが勢いよく声を張り上げた。


「……食事かな?」


 ユキチがぼそりとつぶやく。先に言い当てられて(ちょっと、やめてよ)、アリシアは口をパクパクさせるが――結局、言った。


「ご飯にしましょう! お腹がすいちゃった!」


「やっぱりな」


 ユキチが苦笑し、ギルも肩をすくめる。重かった空気が(腹が減っては)ふっと軽くなり(戦はできぬ)、広間に小さな笑い声が広がった。

魔族とのしがらみは全て解決した。

そしてユキチもついにサイトーとのコンタクトに成功した。

残るは、全ての黒幕であったシシドを阻止するのみ。

果たして、神にも等しい管理者に立ち向かう術はあるのか?

きみは、新たな神の誕生を目撃する――


次章、最終章『ビューティフルワールド』

お楽しみに!

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