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追放シスターと放浪ゴブリンのもぐもぐ見聞録  作者: 風上カラス
第8章 勇者爆誕

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第97話 魔王ガイラム

「さて――残るはあんただけみたいだぜ。ガラム……いや、魔王ガイラム」


 ユキチがガラム(ガイラム)に向き直る。


「ふっ――。リュートとシロを倒して浮かれているようだが……我が配下を何人倒そうが、私が一人いれば人間を滅ぼすなど、たやすいことだ」


 ジッ――


 ユキチの視界が(見ている景色に)一瞬ずれる(違和感)。気がつくと、ガイラムが真後ろに立っていた。いつも間にか、ルイスとギルは壁に叩きつけられて(めりこんで)いる。アリシアは少し離れた場所で、ルメールと共に座り込んでいた(回復に専念している)


「なんとも隙だらけだな。……これでどう私を倒すというのだ」


 落胆したようにガイラムがつぶやく。その声には、ほんの少しの嘲笑が(元気がいいのは)混じっていた(威勢だけだな)


 詠唱なしの時間停止。ユキチがリュート戦で使ったパラレルシフト(ごまかしの瞬間移動)とは違う。――これは正真正銘の禁呪(100%の最強呪文)だ。魔王になったことで、遠慮なく禁呪(ヤバい魔法)を使ってきやがる。連発されたら勝ち目はない。


(――やるなら、今だ。……フォーカスシフト)


 ユキチは振り返りざまに、もう一つの新しい魔法を発動させる(自分にかける)。それは、すべての魔法の効果を受け流す効果を持っている魔法。自分に有利に働く強化魔法(バフ)や回復魔法も効かなくなるのがデメリットだが、今はそれよりも禁呪の(時間停止を)対策が優先だ(何とかしなければ)。そして、魔法(フォーカスシフト)がかかったのを確認すると、ガイラムを挑発する。


「すまんすまん。"よーいどん"の合図を聞き漏らしたみたいだ」


「ふん。減らず口を」


 ガイラムが再び時間を止める。その瞬間――本来なら、ガイラム以外のすべての存在の動きが停止するはずだった。だが、今回は何かが違う(ユキチは止まらない)。油断したガイラムの懐に、ユキチが迫る。


「なにっ――!」


 ガイラムは紙一重でユキチのナイフをかわす。だが胸元が浅く裂け、血が一筋こぼれた。ガイラムは落ち着いて(魔法が発動して)周囲を見渡す(いないのか?)。空中に浮いたままの瓦礫。はためかないカーテン。確かに、時間は停止している。――だとすると、目の前のこいつは何なのか。


「貴様……どうやってこの俺の魔法を回避した?」


「さあな。自分で考えな」


 ユキチは肩をすくめると(種明かしなんか)にやりと笑った(誰がするか)


「それより――時間止めたままでいいのか? 時間が止まった世界じゃ、攻撃魔法の効果も止まるぜ。ま、肉弾戦がお望みなら、俺は別に構わないけどな」


 言葉と同時に、ユキチがび地を蹴る(接近戦に持ち込む)。光の残像を残して、ナイフが閃いた。


「ちっ!」


 ガイラムは苦々しく(ゴブリン風情が調子に)舌打ちをする(乗りやがって)。確かに――時間が止まった世界では、炎の魔法すら手から離れず、魔力のまま空中で止まってしまう。


「時間停止にそんな弱点があるとはな……だが、それがどうした!」


 ガイラムが歯噛みしながら時間停止の呪文を解除すると同時に、右手で炎の束をユキチへと放つ。


 ユキチはそれを、まるで予見していたかのように軽やかにかわした。


「なんだ、時間を止めるのはもうおしまいか?」


「はっ! 威勢のいいゴブリンだな!」


 ガイラムの周囲に炎が渦を巻く。地面が焼け焦げ、空気がゆがむ――。


 

「いててて……何があったんだ?」


 壁にめり込んでいた(時間が動き)ギルが起き上がり(出したことで)ルイスも立ち上がる(仲間が増える)


「お、ギル、ルイス! 大丈夫か? 一気に畳み込むぞ! ラストスパートだ!」


「おおっ? よくわからんが、分かったぜ! うおおおおお!!」


 ギルはガイラムの放つ炎をものともせず突っ込んでいく。


「心頭滅却すれば火もまた涼し――って、そんなわけあるか! あっちぃ!!」


 ――そしてガイラムを取り囲む炎の壁に弾かれる。


「おまえ、何やってんだよ!」


「いや、勢いで何とかなるかと思ったんだが……!」


 パタパタと焦げた法衣を叩いて火を消すギル。


「おまえ、若返ってバカになったのか?」


「失礼だな! ちょっと元気があり余ってるだけだ!」


 ギルが両の掌を合わせ、息を吸い込む。


「それなら、こうだ! 見てろよ――豪波・滅殺断罪掌!!」


 長年研鑽した体術と、若返った肉体が組み合わさり、これまでの彼とは(なんだかすごい)次元が違う威力の(破壊力の攻撃)衝撃波が発生する(を繰り出す)。床の表面がめくれ、ガイラムを包む炎が一瞬で吹き飛ぶ。


「へぇ、これが全盛期の“断罪旋風”の姿ってわけか……!」


 ユキチが目を見張る(結構やるじゃん)


「調子に――乗るなぁッ!!」


 怒り狂ったガイラムが、魔力を凝縮させた黒炎の槍をギルに放つ。


 だが、その矢先――


「させないよッ!」


 ルイスが持ち前の大盾で割って入り、炎の槍を受け止める。


「――守備力強化!!」


 盾で槍をはじくと、方向がずれた槍は、広間の壁に刺さって爆散した。肩で息をするルイス。地を踏みしめて(わたしも、まだまだ)立ち続ける(やれるぞ!)


 だが、ルイスが防いだその先から――ガイラムの周りに新たな魔力の槍が次々と生成され、ルイスを襲う。


「くっ……これ、ちょっと持たないかも……!」


 歯を食いしばりながら(前言撤回。無理かも)、弱音を吐くルイス。


「がんばれ! おれが何とかする――パラレルシフト!!」


「なにっ!?」


 周りに無数のユキチの分身が現れ、四方八方からガイラムに襲いかかる。


「ぐっ……こ、これは……いったい……?」


 ガイラムが受ける衝撃は、現実の痛みとして脳に刻まれる。ガイラムの攻撃が止まる――そこに、ルイスが駆け寄り、右手を振り上げる。


「ガラム……目を、さませぇーーっ!!」


 叫びとともに、ルイスの右手が思いっ切り下ろされる。


 ぱぁん――


 乾いた音が響き(渾身のビンタが炸裂)――ガイラムの仮面が吹き飛んだ。


 仮面が外れ、露わになった(仮面の魔王の)ガイラムの素顔は(正体は誰なんだ?)、案の定、無表情のガラム。慣れ知った顔に(やっぱりそうだよね)、ルイスは一瞬、ためらう。――だが次の瞬間、その頭を抱きしめ――唇を重ねた。


「えっ……!?!?」


 空気が凍りついた(ここでチュウ!?)。アリシアは思わず目をおおう(ガン見)。声を失うギル。だが、ユキチだけは冷静だった。


「いまだ――アリシア! 頼む!」


「……!? わかったわ!」


 ユキチの指示で自我を取り戻す(正気に戻る)アリシア。ルメールのおかげで魔力はだいぶ回復した。今唱えるべき呪文は覚えている。右手を掲げて、声高らかに唱える――。


「――オル・セイン!」


 それは、ヴェルドットがノル=ヴェリスの人々を操った、人の魂に命令を(他人をいいなりに)刻む禁呪(する呪文)。床から金色の鎖が伸び、ガラムとルイスを包み込むように絡みつく。だが――


「しまった! ルイスにもかかっちゃった!!」


 慌てるアリシア(抱き合ってるんだもん)。ガラムだけでなく、ルイスの目も操り人形のように虚ろになっている。


「しょうがねぇ! チャンスは今しかねぇ、やっちまえ!!」


 なんなら(今はとにかく)あとで命令を(ガラムの洗脳を)修正すればいい(解くのが先だ)


「で、でも……命令、命令……どうしよう!?!?」


 アリシアがパニックになるうちに、キスしたままの(幸せそうな)二人は鎖でがんじがらめに(なんかの芸術作品)なっていく(みたいに装飾される)。その光景を前に、アリシアは思わず口にしていた。


「――命じる!」


 その声は震えていたが、覚悟を感じる(なるようになれ―!)


「健やかなる時も 病める時も

 喜びの時も 悲しみの時も

 富める時も 貧しい時も

 これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

 その命ある限り 真心を尽くすことを誓いなさい――」


 金色の鎖が淡く光り(命令が魂に刻まれる)、やがて二人の身体に溶け込むように消えていった。


「おい、アリシア……それって結婚式の時に言うやつじゃ……」


 ユキチがなんとも(あーあ。おれ、)言えない顔をする(知ーらねぇ)。様子を見ていたギルも苦笑い。


「しょうがないじゃない! あんな二人見せつけられたら、これしか思いつかないわよ!」


 そして誰も気づかなかったが――広間の遠くの床の上で、無意識のままリュートが悔しそうに唇を(やっと私のガラムに)噛んでいた(なったのに……)


「ともあれ……これで、シシドの呪いは解けたはずよ!」


 アリシアは額の汗を拭う(一仕事おしまい!)。鎖が完全に消え、抱き合ったまま倒れるガラムとルイス。その姿を見て、ユキチがため息をつく。


「……見せつけてくれちゃって、まったく」


 だが――話は、そう簡単ではなかった。


 倒れたはずのガラムの身体に、黒い魔素が再び集まりはじめる。その魔素は脈動するようにうねり、ガラムの中へと溶け込んでいく。


「我は――魔王ガイラム」


 そして、再び響く低い声。


「そ、そんな……魂の命令は解除したはずなのに!」


 アリシアの悲痛な叫び(ちょっとまってよ。)が広間にこだまする(何かあたし間違えた?)


「くそっ! どういうことなんだよ……!」


 ユキチが悪態をつく。ガラム(ガイラム)の身体を中心に、黒い魔力が渦を巻きはじめる。その濃度は、バーキッシュが使うの魔王の影など比べ物にならない。渦の影響で空間そのものがひずみ、床の石が音もなく砕け散っていく。


 ――触れたら、確実にただでは済まない。


 ユキチは渦の魔力のわずかな隙を狙うが、仕掛けるチャンスは(これはお手上げだよ。)全く訪れない(どうしようもない)。ギルはまだ意識の戻らないルイスを抱え、後方へと退避した(戦略的撤退)


 そのときだった。


「シーキュー、シーキュー。あー、もしもし。聞こえるか?」


 ユキチたちの腕輪から、突然、聞き覚えのない男の声が響く。


「え? だ、誰?」


 突然の声に(アルドラでも)アリシアが動揺する(シシドでもない)


 だが、その声を聞いたユキチの目が大きく見開かれた。


「そうだよな。急に話しかけられたら驚くよな」


 その声は穏やかだったが、不思議な力強さがある。


「――俺はサイトー。ユキチと一緒に旅をしていた人だよ」


 ユキチの胸の奥に懐かしさがこみあげてくる。

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