第5話 浮遊島と世界樹
羊と白熊を浮遊島に迎えてから数ヶ月。
優先事項であった理想の食生活を手に入れたクロウは次の作業に移ることにした。
それは浮遊島にある遺跡を復旧させること。
数少ない浮遊島の人工物の中で一際大きい神殿。
外観は地上にある遺跡と変わりないが、内部の施設は今のこの世界よりも高度な技術が使われていた。
浮遊島自体は島中心部にある巨大な魔石によって活動している。
遺跡の施設はそれとは別の動力源が使われていた形跡が残っていた。
この施設を復旧させればより今まで以上に快適な生活を送ることができることだろう。
クロウの施設の動力源を調べる日々が始まる。
クロウが調べものを始めてからしばらく。
ついに手がかりとなる情報を見つける。
どうやら浮遊島には昔、世界樹が植えられていたことが判明する。
遺跡の施設は世界樹の魔力に使い動いていたという。
しかし現在の浮遊島には世界樹はない。
理由は不明だがどこかのタイミングで世界樹が失われたようだ。
クロウは世界樹を探し浮遊島に再び植えることに決めた。
幸い世界樹についての情報は多く、現存している場所にも心当たりがある。
クロウがやってきたのは大陸のとある大森林。
ここは禁足地に指定されている場所で、人が立ち入れない危険な場所だがクロウには関係ない。
森の奥へとどんどん進むクロウ。
ここにいる魔物は災害指定されている凶悪な魔物ばかりなのだがクロウはサクサク倒していく。
クロウの持つチート級の魔法で倒せない魔物はいない。
歩くこと数時間。ようやく世界樹があると思われる場所にたどり着く。
空を飛べるクロウがわざわざ歩いて移動していたのは、その場所には結界が張られていたからだ。
結界を解除すること自体は容易にできるのだが無用な争いはできるだけ避けたい。
そしてその結界を張った人物がクロウの前にやってくる。
「人間か。何のようだ?」
現れたのは一人の女性。金髪に長い耳、ファンタジー世界お馴染みのエルフだ。
「あの世界樹について聞きたいことがあるんですけど中に入ってもいいですか?」
「断る!ここから立ち去れ人間」
予想通りエルフに拒絶される。
世界樹にはエルフの守護者がおり、エルフ以外は立ち入れないようになっている。
このことはあらかじめわかっていたことだ。
そこでクロウはエルフの気を引く話題を持ち出す。
「僕は浮遊島から来ました。話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」
「浮遊島だと?」
予想通り浮遊島の話題に食いつくエルフ。
「これを見て下さい」
クロウはある物を取り出す。
取り出したのは一見ただの石ころのように見えるものだがエルフの反応は違った。
「こ、これは」
クロウが見せたのは浮遊島の遺跡にあった石のようなもの。
この素材は高純度で精製された魔力伝導体の一部で今の技術では再現できないとされているものだ。
「貴様の目的は世界樹か?残念だがここにある世界樹は若木で採取できるものは何もないぞ」
「はい問題ありません。若木だからこそ都合がいいのです」
「どういうことだ?」
クロウの目的は世界樹を浮遊島に持っていくこと。
成長しきった世界樹を移すとなると骨が折れるが小さな若木ならばそれほど労力は掛からない。
「という訳で世界樹を浮遊島に移したいのですがいいでしょうか?もちろん貴方もご一緒に来ていただいて構いません」
「世迷い言を。転移魔法だと?今の人間どもに使えるなどと聞いたことがないぞ」
「では試してみましょうか」
クロウはエルフの手を取ると転移魔法を発動させる。
「っ、ここは…。いやまさかそんな」
「はいお察しの通り浮遊島です」
クロウとエルフは浮遊島へ転移した。
しばらく呆然としていたエルフだったが現実を受け入れたのか落ち着きを取り戻す。
「どうやら貴公の言っていたことは事実だったようだ。今までの無礼を謝罪する」
頭を下げるエルフ。
「貴公の提案を受け入れよう」
こうして浮遊島にエルフと世界樹が新たな住人としてやってくることとなった。