第10話 転生者
とある日。
いつものようにファードラをモフっていると、珍しい奴隷が手に入ったと奴隷商館から連絡を受ける。
クロウが奴隷商館にやってくるとそこにいたのは獣人の少女だった。
亜人ではなくケモ耳と尻尾を生やした少女。
一見するとただの少女だ。
しかしクロウを呼んだからには何かあるに違いない。
クロウは早速獣人の少女を鑑定する。
獣人の少女のステータスには転生者と表示されていた。
クロウは他の転生者を見るのがこれが初めてだ。
転生者が同じ時代にいることは知っていたが、近くにいればトラブルに巻き込まれるのが目に見えていたので会うこともなく避けてきていた。
そしてその考えは正解だったと目の前の獣人の少女を見て改めて思った。
奴隷商館の会長にこの獣人の少女について詳しく聞く。
ちなみに獣人の少女は口を塞がれていた。大方私は異世界人だ!などとこちら側の人間には理解できないことを叫んでいたと思われる。
そしてそれは予想通りで、獣人の少女は自分は神によりこの世界にやってきた存在だと主張していたらしい。
奴隷になった原因は、獣人の少女は冒険者として活動していたが詐欺に遭い多額の借金を抱え支払いができずそのまま奴隷になったとのこと。
獣人の少女が不幸だったのは、普通の人間であれば奴隷になることはなかったことだ。
獣人は世間では一応、普通の人々と同じ立場ということになってはいるが、それは建前で実際は亜人よりかはマシという程度だった。
どのような理由で獣人の姿になったのか知らないが、獣人の少女が失敗したのはこの世界のことを知らなすぎることだろう。
「いかが致しましょうか?」
奴隷商館の会長はこの獣人の少女をどうするかをクロウに一任するつもりのようだ。
クロウは考える。
初めて出会う転生者。
鑑定で確認したところ大したスキルは持っておらず、獣人の姿もほぼ見かけ倒しのようなものだった。
もしクロウが獣人の少女を引き取らない場合は奴隷商館の亜人連合にいくことになるだろう。
しかしこの獣人の少女の能力では正直やっていけるとは思えない。
「2人で話してみたい」
ひとまず獣人の少女と2人で話をしてみることに決めた。
判断するのはそれからでもいいだろう。
「あの!あなた、私と同じ転生者てすよね?お願いします助けて下さい」
奴隷商館の会長を下げ部屋にはクロウと獣人の少女の2人。
獣人の少女の口を塞いでいたものを外すと彼女はクロウに助けを求める。
「まずは落ち着いて。最初に君の話を聞かせてくれないかな?これまでのこと、あとどういった経緯でこの世界に来たのかとか」
クロウはまず獣人の少女のこれまでの話を聞くことにした。
「す、すみません。えっとこの世界に来た時のことから話せばいいんですよね」
獣人の少女は犬耳をピコピコさせながら話し始める。
獣人の少女はクロウと違い、神のような存在に出会いこの世界にやってきたそうだ。
その時に獣人の姿にしてもらったそうだ。彼女は犬耳と尻尾に憧れがあったそうだ。
しかしその時にこの世界での獣人の立場などの説明はなかったという。
この世界にきてからのことは奴隷商館の会長から聞いた話と概ね同じだった。
話を聞き終えたクロウは犬耳の獣人少女に問う。
「君には2つの選択肢がある。このまま奴隷商館に残るか僕の元に来るか」
「あの、それってどっちが安全ですか?」
「僕のところは安全かな。ただ他の場所には二度といけないことを除けばだけど」
「どういうことですか?」
「僕が住まいにしてる場所は誰にも知られたくないんだ。だから僕と一緒に来るなら覚悟して欲しい」
浮遊島は現在ファードラのような例外を除き誰にも見つかってはいない。
浮遊島を出入りしているのはクロウのみで他の者たちは浮遊島に来て以降は地上に降りていない。
羊たちには奴隷契約の時にそのことを話して了承しており、隷属の首輪を外した以降もその気持ちは変わっていない。
むしろずっと浮遊島で暮らしていたいとお願いされた位だ。
エルフに関しては世界樹の側から離れることは決してないと言っていたので、このまま浮遊島に残り続けるだろう。
ロボ娘に関しては元々浮遊島を守るために作られた存在なのでそもそも浮遊島から離れる理由がない。
「クロウさん、私を連れて行って下さい!」
犬耳の獣人少女はクロウとともに浮遊島に行くことを決める。
「うん、わかった」
クロウは犬耳の獣人少女を奴隷商館から買い取るといつものように浮遊島へ転移した。
「ふぁ〜、きれい」
犬耳少女は浮遊島の景色に感動していた。
「それじゃあ皆のところへ行こうか」
クロウは犬耳少女を他の住人の元へ連れて行く。
「今日からお世話になります!よろしくお願いします!」
犬耳少女と他の住人との顔合わせは問題なく進み今後も仲良くやっていけそうな雰囲気だ。
こうしてまた浮遊島に新たな住人が増えた。
ちなみにクロウ的には犬耳少女はモフモフではないがセーフの判定。
それに自ら進んでその姿を選んだところも評価しており、少なからず犬耳少女には良い印象を持っていたので最初から引き取るつもりだった。




