6.
白い手袋の目立つ男。
加えてもう一つ、あった。やっぱり、今日もあった。ハンドル部分。
無機質な鉄の集合体である自転車の、そのハンドル部分の塗装は大体、黒。
そして? そこに巻かれている物の色は?
「ここの駐輪場」
男が言う。
「何故、巻く必要のない今の状況で、『駐輪禁止』にしておく必要がある?」
同時に、「考えはまとまったか?」と問いかけるような、鋭いような視線。
名前は、何だっけ。
「こういうの、即座に取る感じにはしてますけれどね。いつも」
と絵卯。
「また巻かれたんです。あなたでしょう、巻いたの。この間から、よく見回っていますよね。ここの」
駐輪場を。
サドルはある。
そして、今回。
駐輪しているはずなのに『駐輪禁止』。
「ヤマガタさん」
「樅ノ木だ」
と男。
白い手袋。
スラリとした手首から、体へ続くシルエット。
執事のような黒いスーツに、肩までの黒い髪。
その髪は、一つ結びにされている。
「今日はベレーだね」
と樅ノ木。
「この前はもっと、五堂さんの作ったゲームに印象が合いそうな、服だったのに」
「私が作ったんでは、ないです」
絵卯は少々ムッとして答えた。
樅ノ木は白い手袋をはめた手で、スマホ片手に。
画面には映像。
店のポップとほぼ同じ。
絵卯の小説が舞台のゲーム、その宣伝を流している。
「樅ノ木有人さん」
と絵卯。
「私はここに、料金を払うつもりで自転車を停めただけ、です」