51.
「あなたの仰るように、最初から荒れ放題だったわけではないんです。屋敷に人は、よく出入りしますから。この庭、父の庭ですけれど。私たちの物でもあるので」
と、エリカ。
数登は肯く。
「嫌がらせ、だと思うんですよね。五堂忍への」
と、エリカは続ける。
ここでも、「嫌がらせ」というワードが出た。
ステンドグラスが回転した、その軌跡がそのまま模様になったような。
円形で、花柄。そんな石畳の上のテーブルと椅子の群れ。
群れの中の、一つに腰掛けている。三人分。
「と、思うとは?」
用意されていたのは、まるで「アリスのお茶会」に登場していくのでは、というような、陶磁器の数々。
純白の美しさ。そこへ、青い線の描かれたティーカップ。ティーポット。
「俺はここに、何しに来たんだっけ?」
そう言いたげな、とも言えそうな樅ノ木の表情。
「たぶん、なんですよ」
とエリカ。
「あの部屋だけなんです。片付けて欲しい部屋は。遺品整理っていう意味も、ありましたけれど」
「おそらく、二時間前後はかかるかと」
にっこりして数登は言った。
「それはいいんです。片付くまで、居ていただければ……」
「それで」
「そ、それで……」
とエリカは、俯きがちに。
「この庭園のほうにはあまり、父は人を呼んだことはありません。見て楽しむための、と言ったらいいですかね。泣き今も、残してくれたわけですし。屋敷のほうは、違うんですよ。いろんな人の出入りがありましたから」
「なるほど。他の部屋の装飾品を主に、五堂忍さんの亡くなられた、当日は。あなたを含め、見ていたということになる」
と数登。
「まあ、そうはなります……」
「嫌がらせというのは」
エリカの話にも出たが、夫である五堂義明は、多数の施設運営に携わる仕事をしている。
株式会社ハーヴェスト、というのが主な所であり、庭園に集まった面々の話し合いでも、その会社の調度品や装飾品を、見繕うために来ていた。




