4.
ポップの中以外では、何でもない。
何か別の人の創作物ということになったら、彼女の中でも、何でもない物になる。
絵卯が全て作ったのかと言えば、実際には少し違うのだが。庭園があるから。
ポップはいつまでも眼に留まる。店内にいる時間帯で。
ただ、絵卯が店員でいる時間というのは少なめ。誰の眼にも、彼女は留まらない。
「宙に浮いた地面」は、誰かの中でも大きい存在になっていった。
自分の中でも、大きい存在だった。その結果。今は、このゲームだ。
美しいグラフィック。
画面内の美しいグラフィックとは対をなす、割と何もない道路。
平坦とした道。漠とした空。
店の外観は青が基調だ。店からスマホと共に外へ出た絵卯は、ベレー帽を頭に載せている。
一つ結びにした髪。ぱっちりとした瞳だが、あまり目立つような顔ではない。
漠とした空とスマホ。あまり変わり映えしない景色。
あとは、前と同じような状況が、なければいい。
視線の先のレンガ造りの建物内に、絵卯の「愛車」は停めてある。
絵卯は、名前も顔も広く知られていない存在だが、名義のほうが違った。
作品だけ人気を博した。「Eguri」名義で出した小説。
今回の美しいグラフィックは、その小説の舞台が背景だ。
「愛車」を取りに行く道々。
周辺情報なんて、何も知られていないはずなのに。
本当に、何もなければいい。サドルにも、何にも。