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3.
彼女の中の庭園は、実際のものとして今もある。
「実際の場所」として存在するのも事実だ。
どこまでも緑豊かな箱庭。無人のテラスを見渡せば、その先に続く屋敷よりも更に眼につく、蔦で覆われた小空間もあった。
裏手から回って入口のドアを開ける頃には、「実際の場所」とは今一度おさらば、という形になる。
五堂絵卯はここへ来てまもない。
小さな階段を下って足を吸い込まれそうになるのでなく、むしろ上り階段だ。
ここにも庭園はある。あくまでもポップの中に、である。
結構、有名になってきているなあ。
たまに手が止まる。揚げ物の匂い。
ただレジに立ち、清掃し、雑誌を取り揃え、何でもない制服を着て、客と眼が合って。
美しいグラフィックばかり、ポップの中では眼に留まる。
そこだけ、絵卯にとっては何でもあったが、世間にとっては何でもない。