17.
九十九社は全体として葬儀社であって、捜査機関でもなんでもないが。
結局絢月咲は、ここへ話をしに来たわけで。
数登も依杏も、絢月咲の話と新聞記事以外では、情報をあまり掴めるはずはなかった。
証拠。
それに、実際に空中庭園へ向かったわけでも、なし。
女性キャラクターが2回、目撃されたということ。
「2回ということは」
と数登。
「同じ人物が、犯人とされている架空の人物を2回、見たということなのか。それとも、別の人物が1回ずつ、架空の人物を見たということなのか、ですね」
と依杏が話を引き取る。
「2名、と新聞記事にはありますが」
と数登。
「男女2名に目撃されている、とありますね」
数登も依杏も、一介の葬儀屋であるのには変わりない。
こういう「変な案件」が、知り合いやら個人から持ち込まれる「場」として九十九社が利用されるようになって、しかし依杏は、それがいつ頃始まったのかという点に関しては、よく分からない。
とりあえず、絢月咲が持って来た話というのは、「顔バレを恐れているネット小説家の関わる、しかし当人自身が関わり過ぎて犯人扱いになるかもしれない、困った奇妙な話」である。
現場には6名と新聞記事には書いてあるし、あくまで小さい事件であって、話を聞いている2人と、話を持って来た1人は現場、空中庭園へ行った経験がない。
話と見取り図だけでは……と、依杏は思っているが、とりあえず数登は絢月咲の話に興味を持った様子で。
賀籠六絢月咲が持って来た、通称「空中庭園」の、外部から撮影された(だいぶ前のものみたい)写真と、新聞記事を想像で合わせて、彼女が勝手に作った庭園の簡単な見取り図。
絢月咲はそれを、置いて帰った。