37キス♡心と丸見え
「ルーチェちゃん!?」
商店街でパニックに巻き込まれないように助けた女の子が宙に浮いている。
その姿が魔族の少女の姿に変身していく。
「ロリエちゃん、会いたかったよ!」
「ミーラヤ!
わたしも……会いたかった!」
膝をつくロリエちゃんに飛びつくミーラヤちゃん。
抱き合って大泣きする二人。
だけどロリエちゃんの口から吐き出される赤い鮮血。
「ロリエちゃん!? 大丈夫!?
プリプリ、治してあげて!」
「はいなのです!
我は願う神たる御手の恩寵あらんことを。
治癒促進」
ロリエちゃんの体が光の粒であふれてる。
自己治癒力を促進する魔法。
「ロリエちゃん、先に死んじゃってごめんね」
「ミーラヤちゃんが謝ることじゃない!」
「お腹の傷はいかがですか?」
「え? あれ? 治ってるみたい。
リーリエこそ大丈夫!?」
「痛いです」
「プリプリ、リーリエとイリスもお願い!」
「はいなのです!」
「サラちゃん、魔力波長を置き換えたの。
いつでもいいの」
魔導コンソールで最後の操作をするために指を構えるペーシェちゃん。
聖王都では暴走する魔族がどんどん増えていた。
各所の部隊も必死に対抗してくれている。
巻き起こっている嘘イベントはもう限界だ。
これ以上放置していたら惨劇になってしまう。
「ま、待ってくれ!
そしたらミーラヤがいなくなってしまう!」
「ロリエちゃん、いいんだよ。
姿は見えなくなってもロリエちゃんの心の中にいるから」
「だけど! わたしは!」
「ロリエちゃんが苦しんでる姿をずっと見てた。
だけど、わたしたちみたいな悲しい人を増やしたらダメだよ?
ロリエちゃんはわたしのために泣いてくれる。
だから……ね?」
「ミーラヤ……うん、うん!」
「ペーシェちゃん、お願い」
「放出開始するの」
魔導コンソールをタッチする人差し指。
目には見えないし音も聞こえないけど、魔族の魂を追い出す魔力波長に置き換わって放出されているんだろう。
ミーラヤという魔族の少女の姿が元のルーチェちゃんの姿に戻っていた。
「さよならミーラヤ……
わ、わたしを捕まえろ」
月桂樹の花の髪飾りが舞い落ちる。
大粒の涙をこぼすロリエちゃんを拘束するイリスの瞳が悲しそうだった。
気を失っているルーチェちゃんを保護するプリプリ。
「まさか発信源がここだと思わなかったの。
ごめんなさいなの」
「ペーシェが謝ることじゃないだろう」
「イリスの言う通りだろ!
見ろよ! みんな元に戻ってくぞ!」
「わふん!」
「ほんとだ! リーリエきて!」
「はいはい」
リーリエに向けて満面の笑顔を向ける。
手を繋いで屋上の端っこで立ち止まる。
うっかりバランスを崩してわたわたと屋上から落ちそうになるリーリエ。
手すりも何もないからね。
「なんであんなに戦えるのにぽんこつなの!?」
「かわいいでしょう?」
「うん、かわいい!」
わたしの褒め言葉にそっぽを向くリーリエ。
自分で振った話題だよね?
「さて。ペーシェちゃん、マイク投げて!」
「はいなの」
マイクを受け取ると息を吸い込む。
リーリエが撮影を始めてくれた。
「皆さ〜ん!
おつかれさまでした!
ドキドキハラハラ!
魔族の大襲来を無事に退けることができました!
今回限りのサマーフェスティバル開催初日サプライズイベントはいかがでしたでしょうか!
魔族として参加した皆さんには特別なプレゼントをご用意しています!
詳しいことはお近くの警備隊員までどうぞ!
それでは今日から始まったサマーフェスティバルを最終日までたっぷりお楽しみください!」
あちこちに設置されたスピーカーからみんなの耳に届いてる。
主要な場所にのみ設置された魔導モニターにはわたしのドレス姿が映ってるはずだ。
眼下から大歓声が聞こえる。
中には戸惑ってる人もいるけど?
「ふう。なんとか終わったかな」
マイクを下ろした手が少し震えてる。
「苦しい言い訳ですね」
「まあしょうがないよね?
後始末のことを考えると頭が痛いよね。
リーリエ、時間ができたらお祭りデー……」
言い終わる前に、わたしの腕を引っ張ってわたしの体を入れ替えるリーリエ。
リーリエの肩を何かが貫通して、わたしの胸に激突する。
「種?」
屋上の床に転がったそれは何か植物の種のように見えた。
きっと大太刀で斬られたわたしを見て無敵ではなくなったと思っていたのかもしれない。
微笑んで瞳を閉じるリーリエがスローモーションのように落ちてゆく。
☆☆☆☆☆
「特別仕様の貫通弾が弾かれましたわ。
あの王女、やはり無敵ですのね?
それならそれでやりようもございましょうけど」
それほど遠くもない建物の小窓から落ちるリーリエを見つめる姿。
成功を信じて疑わないその瞳は輝く透き通った美しいスミレ色。
蒼玉石のように瞬いていた。
スミレ色に艶めくツインテールの見事な巻き髪。
気品を感じるお嬢様言葉なのに紫色迷彩のミリタリーパンツにジャングルブーツ。
上半身一枚だけのタンクトップが豊かな胸をぴっちりはっきりと形作っていた。
「スミレちゃん、なかなかしつこいんですよ?」
際どい若葉色のドレスに身を包んだ少女が問いかける。
「あら? そんなことございませんわ?
やりかけのお仕事を最後まで完遂したかっただけですわ。
ダメでしたけども」
「落ちたあの無表情女、スミレちゃんといい勝負だったのですよ。
殺したらもったいないのですよ」
「あら、アサガオはあんな風情のない魔導狙撃銃にわたくしの花魔法。
小さな幸せの種粒弾が負けるとでも?」
「お胸がいい勝負なのですよ。
少し負けてるんですよ?」
「うふふふふ♪
今から撃ち抜いて差し上げますよわよ?
その無駄肉を」
「スミレちゃんの方が強いんですよ!」
「梱包終わったんだけど?」
二人に声をかける少女。
蜂蜜のような透き通った色味、健康的で見守るような瞳は琥珀のよう。
ショートだけど黄色い髪が片目を隠している。
ダボっとした長袖に大きく胸元が開いたオフショルダーなのにささやかなふくらみ。
フレアショートパンツが健康的な太ももを見せている。
「タンポポさん、おつかれさまでございますわ」
「早く行こうぜ。
お前の魅惑のお庭だったら軽々運べるだろ」
ザンバラ髪のくノ一がめんどくさそうな声を発している。
「ラジャーですよ。
目的地に納品したらお仕事完了ですよ。
魅惑のお庭」
朝顔のつるが伸びてそれなりの大きさの長方形の箱を複数持ち上げていく。
がたんと音を立てて落ちる箱が一つ。
ふたが開いて中から箱いっぱいの白いたんぽぽの綿がこぼれると温もりを感じる小さな手足が見える。
「大事に扱ってほしいんだけど?」
「さあ。この騒ぎに乗じてお仕事を完了させましょう」
「結構時間かかるよなあ。
めんどくせえぜ!」
「たんぽぽ綿毛の梱包材の効果時間を忘れないで欲しいんだけど?」
パーティ名フラワー、裏ギルドメンバーの四人が暗い部屋の中に消えていく。
たくさんの箱とともに。
☆☆☆☆☆
「リーリエ!?」
ドンと壁を蹴ってリーリエ目指して跳躍する。
落ちる速度が速い!
早くしないと地面に激突しちゃう!
手を伸ばすけど届かない!
「お願い! 届いて!」
考えるよりも早くわたしの足が宙を蹴って加速していた!
空を駆け抜ける!
手を!
「リーリエ!」
届いた!
リーリエを手繰り寄せて抱えてから体を捻る!
次の瞬間には路面に激突していた。
「…………助かった?
リーリエ!? 大丈夫!?」
横たわるリーリエに覆い被さるように様子を見る。
「う、ううん……」
「生きてる! 良かった!
肩は……貫通してるけどこれなら大丈夫!
止血しないと!
ドレスなんか手で破れないし!」
「……大丈夫です。この程度なら問題ありません」
「ダメだよ! プリプリに早く……」
ちゅっ♡
首に絡まる両腕、わたしのほっぺにリーリエの唇が触れていた。
「また助けられてしまいました。
これはお礼です」
「リーリエが……リーリエがわたしのことを好きになってくれた〜!」
「違います。
あくまでもお礼です」
寝転がったまま顔を背けるリーリエの表情が丸見え♪
「そんなに恥ずかしそうに顔を赤くしちゃって♪」
「してません」
「サラ姫! リーリエ!
大丈夫か!?」
「すぐに回復魔法をかけるのです!」
猟犬従魔に乗った二人が駆けつけてくれた。
プリプリがすぐに治療を始めてくれる。
「良かった……
はあ。この後もあちこち駆け回らないとだね」
まだまだやることがいっぱいだ。




