35キス♡大襲来とお姫様抱っこ
『作戦開始なの!』
『『『「「了解!」」』』』
『わふん!』
ペーシェちゃんの号令で一斉に行動を始める軍部に警備部、近衛騎士隊。
ペーシェちゃんは魔力波長の発信源を特定するために魔導コンソールに向かって素早く指と目を動かしていることだろう。
きっと長耳もぴこぴこと忙しい。
「やっぱり始まったね……
じゃあ放送いくよ!
リーリエ撮影よろしく!」
「かしこまり」
「皆さん、こんにちわ〜♪
今年もお待ちかねのサマーフェスティバルがやってきました!
ただいまより、サマーフェスティバル開催初日サプライズイベント!
ドキドキ魔族の大襲来♡
王女と愉快な仲間たちのワクワク大冒険なショーがスタートします!
選ばれた国民の皆さんには魔族としてわたしたちと戦ってもらいます!
魔導科学を駆使したイリュージョンを楽しんでください!
観覧してる皆さんはちょっと危ないから近づかないで応援してね〜!」
リーリエの構える魔導カメラに視線をにっこり、マイク片手に元気よくウキウキ楽しげな声を張り上げる。
あちこちに設置されてあるスピーカーからみんなの耳に届いてる。
主要な場所にのみ設置された魔導モニターにはわたしのドレス姿が映ってるはずだ。
人々が楽しそうな眼差しで口々に期待の声をあげている。
この放送は同じ内容を繰り返すようになってる。
街の人たちがパニックを起こさないようにするための苦肉の策。
実は今朝思いついたばかりだから事前告知とかはできなかったけど関係者からは概ねオッケーしてもらえた。
事前告知がいいかどうかも分からないし、これがうまくいくかは分からない。
国民を魔族にしちゃうなんて後で批判がきそうだけどしょうがないよね。
『わっふー!』
『早速でたぞ!』
サリーの遠吠え。
野生の勘が働いたのか、たまたま偶然近くにいたサリーとレオーネが第一発見者だった。
一人の女の子が意識を失って宙に浮いて建物よりも高い位置で止まる。
次々同じ現象があちこちで起こっていく。
『お前ら、行けえ!』
『わふ!』
レオーネの号令で狙撃手を乗せた従魔たちが建物の上を駆ける。
この後は狙撃手の命令を聞くように言い聞かせているらしい。
従魔への指示の仕方は従魔士たちがレクチャーしてくれている。
狙撃しやすいポイントに移動してくれてとっても賢い。
『まだ撃っちゃダメなの!
変身がスタートしてから撃つの!』
ペーシェの制止の声はあまり意味がなかったかもしれない。
変身があっという間に始まっていったから。
子どもの体型が魔力を素に大きな肉体を形作る。
頭には魔族の証であるねじれたツノが生えていた。
その額に命中する特殊な魔力波長を付与したゴム弾。
「ヒットです」
「リーリエ、早い!」
墜落すると少し間を置いてから元の姿になっていた。
魔力波長を狂わせて憑依した魔族の魂を排除できたってこと。
「J5の3地点! 回復術士をお願い!」
『了解なのです!
レオーネ!』
『おうよ!』
そっかここは二人も担当してるところだ。
レオーネとプリプリを乗せた猟犬のような従魔が建物の上を駆けていく。
駆ける衝撃で屋根が壊れるのはしょうがない。
後で修理しないとね。
立射の姿勢で魔導狙撃銃を構えるリーリエは次々と銃口を向けて無表情に射撃を続けていた。
魔導狙撃銃は一丁だけじゃなくて何丁か置いてある。
弾倉もたっぷり。
今回はスピード優先で弾丸の装填はオートマチック方式だったりする。
リーリエの射撃の腕はすごい。
風魔法を駆使して射程距離を延長、精度を上げて確実に命中させている。
「きゃああああ!」
「ひとごーまるまる。
距離2300」
「了解」
単眼鏡を覗いたまま表示された数値を報告する。
リーリエの視界の外に対する緊急性の高そうな対象をわたしがチェックしている。
射撃音と同時に氷の塊をファミリーに向けて放とうとしていた魔族の額に弾丸が命中する。
墜落すると少し間を置いてから一般男性の姿になっていた。
そして医療班への指示。
回復術士は城勤めや各部からも出張ってもらっているけどやっぱり少ない。
ほとんどが回復術を使えない医療従事者だ。
聖皇教会にも手伝ってもらえていればより万全だったろう。
こんな感じで聖王都の各地区を区切ってロジカルにシステマチックに対処できるように部隊を編成した。
初動はまずまず。
夜遅くまでがんばったかいがあったかな?
だけど!
「ペーシェちゃん! 1分も経ってないのにもう魔族化して動いてるのがいるよ!
場所の特定を早く!」
『ほんとなの!
解析した想定より早すぎるの!
もうちょっとなの!
ロリエちゃんがトイレから帰ってこないの!』
『わたしが見てきます!』
ロリエちゃんは実働することはないから問題ないけど何かあったら心配だし、アドバイザーがいないと困る。
イリスよろしくね。
王都中の国民が嘘イベントの雰囲気に湧きに湧いている。
だけどわたしたちは気が気じゃないし、不審に思っている人もいるだろう。
健康被害の嘘情報は発信したけれど、流行が数日でどれだけ広まっているのかは正確に把握できていない。
最初に確認した時は子どもたちの半数くらいだった。
もしももっと広まっていたら……
「狙撃が間に合いません。
とんでもない数です」
心配が当たった!
王城の屋根からぐるりと見渡す。
子どもたちの半数どころじゃなかった。
若者や大人までたくさんの人たちが宙に浮いて魔族化していく。
軍部や警備部の人も少し混じってる。
もう数えることなんてできない。
火、氷、風、雷、土、それぞれの属性を宿した魔族たち。
他の狙撃手たちもあまりの多さに追いつけないでいる。
話に聞いていた同調連鎖が加速しているんだ。
「想定よりずっと多い!
一体どれだけいるの!?
このままじゃ!?」
「今が踏ん張りどころです」
リーリエの声にハッとして振り返る。
弾倉を交換しながらわたしの瞳を見つめるリーリエ。
勝利を確信したように赤く輝く瞳はまさに尖晶石。
うっかり不安になったわたしの心に活力が湧く!
「ふふ。いつもはぽんこつなのにね♪
そうだね。ありがとうリーリエ!
ペーシェちゃん! 状況は!
早く場所を特定して魔力波長の放出を止めないと!」
『もうすぐなの!
でも……場所は……ここなの!?
きゃあ!?』
「ペーシェちゃん!?
どうしたの!?
ペーシェちゃん!?」
『…………』
「ペーシェちゃん!?」
『サラ……様……すいません。
やられました……
早く……
敵は……ここに……』
「イリス!? どうしたの!?
イリス!?」
魔導研究塔で何かあった!?
イリスがやられるなんて!
『サラ様』
どうしても不安な気持ちが膨れ上がったわたしの心に優しく届く声。
「ミンケちゃん!
どうしたの!?」
『諜報部からの情報をお伝えしますにゃ。
六芒星の流行の発信源は鬼族。
霊魂研究の第一人者ロリエ・温羅ですにゃ』
「うそ…………分かった!
ミンケちゃん、すっごいありがとう!」
『サラ様ご武運をお祈りしますのにゃ』
「レオーネ! プリプリ!
聞いてた通りだよ!
ペーシェちゃんたちのいる魔導研究塔に急いで!
きっと怪我してる!」
『『了解!』』
『わふん!』
「ここから最東端の研究塔までかなり距離がありますね?」
「大丈夫!
リーリエおいで!」
「はい」
魔導狙撃銃一丁を背中に吊るすリーリエをお姫様抱っこする。
太もものショートレイピアがわたしのお腹にゴツッとする。
わたしの首に回されたリーリエの両腕の感触。
昨晩のことを思い出してドキドキしちゃう。
「お胸の分だけ重いなあ」
「が〜ん。乙女の心がハートブレイクです」
ドン!
左足を踏み込むと屋根がグシャっとへこむ。
次の瞬間、いつだかリーリエがわたしの額を狙撃した魔導研究塔の屋根を右足が踏み砕いていた。
あれ? あの時壊した屋根の修理がまだだ。
「なかなかスリルがありますね?
……ドキドキします」
少しお口をむにむにしてるけど無表情で何を言うの?
わたしだってドキドキしてるよ?
「こんなデートもいいかもね♪
リミットまで6分!
空を駆け抜ける!
みんなを助けるんだから!」
ドン!
踏み込んで跳躍する。
目指すは最東端の魔導研究塔!
「きゃあ」
無感情の悲鳴で力が抜けるよ!?




