19♡花と唇
「リーリエ〜! 待った〜?」
「いえ。半刻ほど前に到着してます」
穏やかに慈悲の表情を浮かべた女神様の像の後ろにそびえる時計塔の時刻は10時5分前を指している。
観光ガイドブックにも載っているくらいで、待ち合わせによく利用されている広場だから人でごった返している。
リーリエは女神像の真ん前に陣取っていた。
この場所にいるってことは、しばらく前に到着してたのかな?
「また、迷子にならないようにかな〜り時間に余裕を持って出発したの?」
ふいっとそっぽを向くリーリエ。
照れ隠しかな?
「ふふ〜♪
ちゃんと約束通りに待ち合わせ場所に来れるように努力してくれてるんだね♪
うっれしいなあ♪」
「別に……」
無表情だけど、ほんのちょっとだけお口の動きに感情が入ってたりしない?
「じゃあ、お買い物にレッツゴ〜♪」
「本日のお買い物はなんですか?」
「秘っ密〜♪
それにしてもお祭りの準備が進んでるね」
「夏の風物詩ですね。
今年のサマーフェスティバルも賑やかになりそうですね。
国家が安泰だからこそ盛り上がるというものです」
「イリスのお家も儲かりそうだよね」
「わたしには分かりかねますが……」
今日はこの間とはまた違う商街区に来ている。
ファッションや生活用品に趣味のお店とかレストランも多い巨大ショッピングモールだ。
夏の商業祭に向けて街灯やアーケードとかにフラッグや横断幕、イルミネーションなんかが装飾されている。
「サラ様、リーリエ様。
人が多いのではぐれないようにご注意ください。
はぐれた時の待ち合わせ場所も決めておきましょう」
「イリスちゃん、優等生!」
「今日は護衛のお仕事ですか?」
「当然です!
黒狼の件などがあったばかり!
やはり万一に備えてわたしもご一緒させていただきます!」
「そんなに張り切らなくても大丈夫だよ?
護衛なんて気を張らなくてもさ?
一緒にショッピングを楽しもうね!」
「うわ!? サラ様!?」
「きゃあ」
リーリエとイリスの間に立って二人と腕を組む。
今回はただのショッピングだから三人とも普通にかわいいブラウスにスカート姿だったりする。
イリスは王女であるわたしに対して忠誠心が強いせいか緊張した感じで顔を赤らめてる。
リーリエは無表情で棒立ちだ。
その無感情なきゃあはなんなんだ?
ともかく二人を引っ張って通りを歩き始めた。
両手に可憐な花が麗しい♪
「サラ様、ちゃんと朝食は召し上がってますか?」
「食べてな〜い」
「またミンケに全部食べさせたんですか!?
だからミンケの胸が育ってるんですね!
リーリエ様を見習って、ちゃんとご自身に栄養がいくようになさってください!」
わたしとリーリエの胸部に視線を送るイリス。
見比べたな?
「せめてイリスくらいにあったらいいのになあ。
とっても形もいいしハリもあるし」
組んだ腕を解いてイリスのお胸をぽむぽむしてみる。
「うひ!?
わ、わたしは胸部装甲を鍛えておりますから当然です!
腕立て伏せなどの筋トレはバストアップにも効果がありますから!」
「バストアップかあ」
「それならあれを食べますか?」
リーリエの視線の先には可愛いキッチンカーがお店を開いていた。
「おお! りんごスイーツのお店だね!
おなかもすいてるしみんなで食べよう!」
「みんなでですか!?
サラ様とお食事をご一緒するなんて不敬です!」
「いいのいいの♪
今のわたしは庶民庶民♪
問答無用だよ♪」
「は、はい〜」
薔薇のりんごパイ♪
100%りんごジュース♪
りんごあめ♪
アップルコンポートのクレープ♪
りんごのドライフルーツ♪
「りんごはバストアップにいいって言うからね!
ミンケちゃんにドライフルーツ買ってこっと♪」
お店が用意しているテーブルについて早速ぱっくんと、宝石みたいにキラキラ輝くりんごあめをかじる。
「おいし〜!
みんなもこれにすればよかったのに!」
「なんとなくお子様の食べ物な気がしましたので。
あ! いえ、サラ様がお子様という訳ではなく!」
「…………」
慌てて弁明するイリスとは別に無表情でじーっとわたしの手にするりんごあめを見つめるリーリエ。
「ん? もしかして食べたい?
はい一口どうぞ♪」
「いりません。
わたしは自分のを食べます」
手にしたクレープをぱくんと小さくかじるリーリエ。
「わたしもそれ食べたい!」
「ダメです。あげません。
自分の分は自分で食べますから。
それにお行儀が悪いです」
「え〜。一口ずつ食べっこしようよ〜。
イリスのりんごパイも食べたいな♪」
「へ? 全部食べちゃいました!」
「わたしたちまだ一口しか食べてないよ?
早すぎない?」
「食事は手早く済ませるクセがついてまして。
くっ!
サラ様に食べてもらえるならゆっくり食べればよかった!」
「あはは〜。
……スキあり!」
イリスの言葉に耳を傾けて油断?していたリーリエのクレープをぱっくん♪
「ああ!?」
「うは! おいし〜♪
リベンジ成功!」
「わ、わたしのクレープが……
うう……クレープの仇!」
よっぽど食べられたのが悔しかったのか、わたしのりんごあめにかじりつくリーリエ。
そこはわたしのかじった跡だよ?
「おいひいでふ」
「でしょ!
クレープも甘くっておいしいね♪
それに何よりリーリエのキスの味がするなあ♪」
「はい?」
「だって間接キスだよ?
まだほっぺにしかちゅ〜できてないからうっれしいな♪
リーリエもわたしと間接キスしちゃったね♪」
りんごあめをかじった跡とわたしの唇を交互に視線を送ってからふいっとそっぽを向いてる。
「あれ〜?
もしかして照れてる?
お耳が真っ赤になってない♪」
「なってません!」
「わたしも混ざりたかったです!」
イリスが握り拳を作ってすっごい悔しそうにしてる……
「ふふ。
イリスも一口食べてね?」
一回りんごあめをかじってからイリスの口元にりんごあめを向けてみる。
「はう!
いただきます!
ぱくっ。
むぐむぐ。
サラ様と……し、幸せ〜♡」
わたしも両手に花とスイーツが幸せです!
「リーリエ! おなかもいっぱいになったし今日の目的地に行くよ!」
「なんだか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?」
「楽しい予感しかないよ♪」
そんなに眉をひそめないでね♪




