第9話 英雄レオン
天狼を退かせたレオンは超強化薬の反動によって気絶した。次に目覚めたのは10時間後だった。
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「……うう……」
うめき声をあげながらレオンは目を覚ます。
「……なんか身体が重い……なにしたんだっけ?……」
まだ意識がハッキリしていないのか身体の不調の原因が思い出せないレオン。自身のベッドで眠っていたレオンはふと隣を見ると胸が零れ落ちそうなほどにセクシーな服を着て眠っているイリアリスがいた。
「ええっ!?」
驚きで飛び起きようとすると身体から激痛が走る。
「ウゴオオオオ!?」
突然のその叫び声になぜかレオンのベッドで眠っていたイリアリスとさらに共にレオンのベッドで眠っていたサーシャとナナも目を覚ます。
「ふわぁ~?」
一番最初に目を開けたのは斥候担当というのも理由のひとつかサーシャだった。
「ああ!?レオン兄!?起きたんだね!?」
サーシャは勢いよくレオンに向かって抱き着いた。しかしそれがレオンへの追撃となった。
「ぐああ!?……やめて……サーシャ……」
「ああ!?ごめんレオン兄!?」
その言葉でサーシャは即座に離れる。そしてレオンは痛みによって意識がはっきりした影響かすべてを思い出した。
「よかったわレオン。目が覚めて」
「うぐう……ナナさん……天狼は?」
「大丈夫です。レオン君のおかげで天狼は立ち去りましたよ」
そう返答しながらナナがレオンを支え再びゆっくりと寝かせる。
「どうやら本当に私たちの力を見るためにやってきたみたいね。謎だけど」
「僕は……どれぐらい……」
「大体12~13時間ってところかな?」
「そんなに……」
どうやらレオンは約13時間ほど気を失っていたらしい。
「レオン兄に回復薬も超回復薬も飲ませたけど全然目を覚まさないから心配だったんだよ」
「ごめんサーシャ。心配かけたね。たぶんこれは超強化薬を使用した反動からくる筋肉痛なんだと思う……筋肉痛にはどういうわけかどんな薬も効果を発揮しないんだよ……」
レオンの激烈な痛みは超強化薬の反動らしい。
「初めて見たわよ?あんなレオンは?」
「わたしもです。私でも吹き飛ばされた天狼の一撃を弾き返したのには驚きました」
「それにあいつ。あたしたちが戦ってた時には本気じゃなかったってのが腹立つよね」
「ははは……できれば二度と使いたくないな~……超強化薬は……」
そんな雑談をしていると思い出したように声を上げるイリアリス。
「そうだわ。レオンにあれを渡さないと」
「あれ?」
ピンとこないレオン。イリアリスが持ってきたのはレオンが蹴り折った天狼の牙だった。
「これがその筋肉痛の報酬らしいわよ」
イリアリスに渡されてそれを手に取ったレオン。
「僕が……ほんとうに……」
レオンはそこで改めて実感した。自分が神級魔物の天狼と渡り合えていたということを。今まで勇者パーティーでは回復担当として戦闘には参加せずサポートばかりをしていたレオン。そんな自分がこれほどの力を行使できることに驚愕していた。
「でもこれは……」
しかしレオンの驚愕はそれだけではなかったがそれをつぶやく前に扉がたたかれる。
コンコン
「は~い」
サーシャが立ち上がって扉を開けに行く。
「たぶんエミリアたちでしょうね」
イリアリスのその言葉にレオンは思い出す。自分たちはノクトレギア帝国の皇都セレノヴァに皇女エミリアの馬車に乗って行く途中だということを。そしてパーセル街に到着して翌日に街を出るという算段だったということを。しかしあれから約13時間ほど気を失っていたレオン。今の空は朝日が昇り始めた早朝のようだった。
「やばい!?行く準備をしないと!?うぐっ!?」
街を出る準備をするためにベッドから起き上がろうとしたレオンだったが少し動いた程度で痛みが走りまともに動けない。
「大丈夫よ。エミリアたちには昨日の夜に伝えてあるから」
「その通りです」
イリアリスの言葉の後にエミリアが登場した。それに対してさすがに気楽に接しているが皇族相手にベッドに横になったままはよくないと起き上がろうとするとそれをエミリア自身に止められる。
「そのままでいいですよレオン様」
「いい加減自覚して下さいレオン君。あなたは一歩も動くことができないほどの重病人だということを」
エミリアに止められナナにまで説教を食らったレオンはさすがにおとなしくベッドに横たわった。
「はい……そうします。ごめんね?エミリアちゃん?」
「なにを謝る必要があるのですか?レオン様は我が国を救った英雄様ではないですか?」
「そうだぜ!俺もその牙を見せられるまでは半信半疑だったけどな!いや~!俺もレオンの超人のような戦闘ってやつを見たかったぜ!」
「え、英雄?……っというか様って……」
それまではレオンさんと呼んでいたエミリアがレオン様となっていたり英雄様とも呼ばれたり。困惑状態のレオン。
「当然ではないですか。レオン様は我が国の降り注いだ神級魔物という災害を追い払ってくださったのですから」
「いや~?あいつはこの国っていうか僕たちの力を確かめるみたいな感じだったから、たぶん僕たちが負けていても街を襲った可能性は低い思うよ?それどころか僕たちも負けたところで殺されなかった可能性もあるし」
英雄という部分を否定するレオン。しかしエミリアからしたらそうではない。
「ですがそれはすべてが天狼という存在の気まぐれということですよね?流れによっては我が国が襲われていた可能性もあるということですよね?」
「まあ……可能性を上げれば……そうかな」
「レオンたちは直にその天狼ってやつを見て話した感じや肌感でそう判断してんだろうけど、話だけ聞かされてる俺らからすりゃあ神級が現れたってのはこの世の終わりを意味してるんだよ。そいつがどういうやつとかはどうでもよくて事実としてレオンが追い払ったっていう事実は消えねえんだから素直に受け取っておけよ!英雄様よ!」
「そう言われても……」
ガイストにまで説得されたレオンだったがやはり英雄と呼ばれるのは気が引けているレオン。ちなみに出発はレオンの状態を見てという状態になった。
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