第7話 神級魔物
強化薬の素材であるバルト茸を大量に入手したレオンは万が一見つかるのを防ぐため宿の部屋にて錬成をするために立ち上がる。
「それじゃあ帰ろうか」
「ねえレオン?帰りにどこかで食べて帰らない?」
「それもいいですがあの宿の食事も気になりませんか?」
「う~ん……あれだけの宿の食事は僕も気になるかも……サーシャはどう思う?」
レオンが1人意見の言っていないサーシャに話しかけるとそのサーシャは険しい表情で斜め上の空を見ていた。
「サーシャ?」
レオンはそんなサーシャに不思議そうな表情をしているがイリアリスとナナはそれだけで瞬時に理解。イリアリスはいつでも氷結魔法を放てる準備をしてナナは背中の二振りのハンマーを抜いて構えた。これは戦闘時にともに前線で戦っているか背後の安全地帯にいることが多いかの差だった。
「サーシャ」
イリアリスは斥候としていち早く気付いたサーシャに情報を求めた。しかし次に返ってきた言葉はイリアリスもナナも見たことのないサーシャのつぶやきだった。
「……あり得ないでしょ……こんなの……」
そうつぶやくサーシャの額から汗が流れ出していた。それは恐怖からくる冷たい汗だった。その様子にレオンがサーシャの手を握り問いかける。
「サーシャ…」
「レオン兄…」
それで冷静さを取り戻したのかサーシャが自身の感覚が鋭敏がゆえに感じた情報を伝えた。しかしその情報は全員が恐怖を感じるほどだった。
「相手はこっちに向かって一直線にやってきてる……でも敵意がある感じはしない。それでもその存在力は離れているのにとても重く感じる……たぶん相手は……神級」
神級は魔物の中でも最高ランクに位置する。それはエミリアに噛みつき死を覚悟させた死狼の王級でさえ街ひとつを滅ぼす可能性を秘めた存在。そんな王級の2つ上に君臨する神級は滅多にその存在を目にすることはなくその強さは国を簡単に滅ぼせるほどと言われている。
「神級って……冗談でしょう?」
「でしたらサーシャちゃんの焦った感じも理解できますね」
そんな存在がまもなくやってくるとサーシャは告げた。
「レオンは街に」
イリアリスがレオンを街に避難させようと指示を出そうとしたがそれを察知したレオンが即座に否定した。
「相手が強力だからこそ回復担当は近くにいるべきでしょ?」
「それは……でも……」
レオンの身を案じるイリアリス。拒否するレオン。しかしどっちみちレオンに避難する時間はない。
「……来る……」
そうサーシャがつぶやいた瞬間にそれはやってきた。
ドン!!
その姿は人間よりもひと回り大きな白い狼の姿。しかしそれから感じる圧は死狼など比ではない。
「これが……神級……」
イリアリスがポツリとつぶやく。イリアリスも勇者パーティーメンバー候補リストに選ばれるほどには優秀で世界でも随一の強さを誇る。多くの人間が苦戦し絶望する王級でさえもイリアリスからしたら一撃で倒せる程度の雑魚と変わらない。そんなイリアリスでもその重圧は感じたかとのないものだった。
「仕掛けて……来ませんね……」
ナナの言う通りその神級の魔物はレオンたちの前に着地をしたと思ったら視認する程度で攻撃の気配すら感じなかった。
「言ったでしょう?敵意が感じないって……もしかしたら戦闘をしなくて済むかもしれない……」
そんなサーシャの一筋の希望は件の魔物の言葉によって否定された。
『我は天狼……力を示せ。人間よ』
「しゃべった!?」
「っ!?……力を示せとはどういう」
イリアリスが驚愕しナナが話せるということで問いかけようとしているとそれは動き出した。
ダン!!
「っ!?」
天狼は驚くべき速さでナナに急接近。その右前足を振るった。
ドゴン!!
「ガッ!?」
その攻撃を受けて吹き飛ばされるナナ。
「ナナさん!?」
レオンが吹き飛ばされたナナの下に駆け寄る。回復担当としての役割を遂行するために。そしてそれを阻止するためにイリアリスとサーシャが天狼を阻む。
「氷結地面!」
「影鎖!」
地面を凍らせてその領域にいる生物を凍らせて動きを封じる氷結地面。空間より力を吸収する闇の鎖を放ち対象を縛る影鎖。それはどちらも天狼の動きを封じる技。
パリン!
しかしそれらは天狼を阻害するほどの力はなかった。
「舐めないでほしいわね」
「力ってやつを示してあげるよ!望みどおりにね!」
そんな時に回復したナナが戻ってきた。
「お待たせしました。もう油断しません」
「僕も強化薬を錬成しました!戦います!」
そうして神級魔物「天狼」vs元勇者パーティーメンバー4人の戦闘が切って落とされた。
/////
「大熊の強撃!」
ナナが持つ究極能力「超剛力」から繰り出される二振りのハンマーの振り下ろしは必殺の威力となり、
「絶死!」
サーシャは究極能力「闇殺」にて姿を完全に消し死角より闇のナイフで一突きにし、
「麻痺薬!毒薬!爆薬!」
強化薬にて身体能力が強化されたレオンは接近戦が効果なしと判断し動きながら薬の投擲でサポート。
「氷結波動!」
最後にイリアリスが究極能力「氷結魔法」にてイリアリス最強の魔法、手の平から相手を凍らせる強烈な光線を放つ。
それぞれが助け合い、ときにはレオンが回復薬で傷を治し神級の天狼を相手に劣勢ながらも戦闘を継続できていた4人。しかしそれが崩れる結果となる。
「ぐっ!?……はあはあ…まだまだ!」
攻撃をなんとか回避したレオンは再び駆けだそうとしたときに強化薬の効果が切れた。
「しまった!?」
レオンは戦闘に夢中となり強化薬の効果時間を失念していた。そしてそれは4人で連携するからこそ保っていた戦況を崩す要因となった。
『弱き者は去れ』
そんなレオンの状態を見抜いた天狼が一気にレオンに近づき右前足の爪で刺し殺そうとする。それは強化薬が抜けたレオンでは回避が間に合わずそのまま死を迎える……はずだった。
ザシュ
「そんな!?なんで!?」
レオンは無事だった。それはレオンの危機に瞬時に気が付いたイリアリス*ナナ*サーシャの3人が身代わりとなり天狼の爪を受け止めたから。
「……にげ……て……」
「レオン……くん……だけで……も……」
「レオン……にいは……生き……て……」
そんな絶望的な状況を見てレオンは泣き叫ぶこともなく逃げることもなく可能性に賭けた。
「天狼!僕が1人で命を懸けて全力で戦う!だから少しだけ時間を欲しい!」
『力を示すか……いいだろう……』
そうして天狼は爪を抜きその場で待機した。
これにより回復担当のレオンが神級の天狼と一対一で戦うことが決定した。
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